追放されたお姫様はおとぎ話のごとく優しい少年に救われたので恩返しします。

進藤 樹

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慶汰の覚悟とモルネア争奪戦

「オレじゃないぞ!」「僕じゃありません!」「ボクでもない!」

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 薬事院に務める人は緑の羽織を着ているらしい、が、目の前で転んでいる三人全員が当て嵌まる。
 慶汰が戸惑ったその刹那、慶汰の首根っこが太い指にがっしりと掴まれた。

「捕まえたぞコソドロめ!」
「え、ちょ!? だから俺はアロ――アーロドロップ乙姫第二王女殿下様と一緒に来たんだって! 玉手箱が盗まれたって言うなら、犯人はこいつらの誰かだよ!」

 慶汰がやけくそになって指差すと、転んでいた三人が同時に首をふるふると横に振った。

「お、オレは知らねぇ、この部屋の中にいたら急にコイツらが飛び込んできてぶつかっただけだ!」
「はあ!? 違います警備さん、そっちのやつが犯人です! 僕、顔を見ました!」
「おい待てよ、ボクじゃない! お前が犯人だろ!? 白々しいこと言うな!」

 容疑者三人がお互いに指を向け合う。
 慶汰は「僕」と言った方の口から出た言葉に、ぴくりと反応して首を曲げた。

「警備さん……?」

 よく見れば、左腕には太い腕章が巻かれている。まるで楷書のような、筆で書かれた漢字に近しい雰囲気があるが、慶汰には読めない。『警備』と読むには無理がある。
 その警備さんとやらも、慶汰の服を見て目を大きく瞬かせていた。

「む……その服は、イ級客衣……」

 すっと慶汰の首から手を離し、巨漢は一歩大股に後ずさると、勢いよく腰を折った。

「誤解とご無礼、誠に申し訳ないッ!」

 声がでかい。慶汰は耳を塞いでのけぞった。

「イキューキャクイって言われてもな……。え、ええと……とりあえず俺の無罪は晴れたってことでいいの、ですか……?」

 おそらく、この服自体が制服のように、身分を証明できるものなのだろう。それを裏付けるように、大男が申し訳なさそうに答える。

「うむ……アーロドロップ殿下から直接説明を受けている。王族が招待した客しか着ることができないその服を着ているということは、君が浦島慶汰殿、であっているか」
「ええ、はい……」
「先ほどは勘違いしてすまなかった。できれば、夜間に外で怪しい挙動は控えていただけるとありがたい」

 苦言を呈され、慶汰は「すみません」と素直に謝る。

「私は〝シードラン〟副隊長のジャグランド・パルバルスという者だ」
「はあ……シードランのジャグランドさん。あ、シードランって、アロップが指揮を執ってる組織、でしたっけ?」
「その通り」
「じゃあ、警備っていうのは」
「つい先日、アーロドロップ殿下の追放処分により解散の憂き目に遭い、元々の所属だった王城警備の任に戻ったかと思えば、予想外にお早いご帰還と急な再編招集により、癖が抜けなかった次第……重ねて恥ずかしい限りだと思っている」
「ああ……ここにも振り回されている人が……。大変でしたね……」 
「いやいや、殿下のご帰還も、シードランの再編成も、喜ばしいことこの上ない。……さて、親睦を深めるのは後に回してもよろしいだろうか」

 ジャグランドの顔の動きに合わせて、慶汰も残る三人の男を見る。

「ええ。急なことで声色も顔かたちも憶えていませんけど、この三人の誰かが玉手箱を持ち逃げしたのは事実でしょうし」

 すかさず、容疑者三人は早口に訴えた。

「オレじゃないぞ!」
「僕じゃありません!」
「ボクでもない!」

 困ったな、と眉根を寄せつつ、慶汰は呟く。

「まあさっきの研究室から目撃者が来れば、犯人が誰かわかりますよね」

 腕を組んだジャグランドが唸る。

「それはそうだが、できれば早急に解決したい」
「なにか急がないといけない理由があるんですか?」
「アーロドロップ殿下は、事実上追放処分を受けた身の上だ。見事、無理難題をこなし、ご帰還なさったのは喜ばしいことだが、まさか本当に王族としてご復帰するとは、誰もが想定外だったこと」
「ハハハ……」
「苦笑している場合ではないのだ、慶汰殿。ご復帰なさったばかりのアーロドロップ殿下にとって、ささやかなトラブルも厄介な火種の元。早急に解決せねば、お立場が危ない」

 それを聞いて、慶汰の表情が引き締まる。

「……それはまずいな。どうにかできないんですか?」
「一応、私は今も王城警備の役目を仰せつかっている故、尋問の龍脈術がある……もっとも、使い勝手は悪いがな」
「またやばそうな術が出てきた……。それって、記憶麻酔術みたいに、人の脳に直接干渉するものなんですか?」
「左様だ。ただ倫理面や健康面、術の制御面から制約も多くてな……。この術で訊けるのは二回まで。それも『はい』か『いいえ』で答えられる質問だけだ」
「じゃあ、さっさと犯人かどうか訊けばいいじゃないですか」
「必ず真実を述べるわけでもないのだ。罪悪感のある者は、むしろ全ての答えに嘘をつくようになる」

 慶汰は一瞬考えた。

「つまり『あなたは犯人ですか』と聞けば、犯人は嘘を吐くから『いいえ』と答え、犯人じゃない者は正直に答えるから、こちらも『いいえ』と答えるってことですか?」

 ジャグランドは大きく頷く。

「おまけに思考力も奪うから、ストレートでない質問をすれば、犯人だろうとそうでなかろうと、回答がランダムになってしまう。つまり今回の場合『犯人かどうか』という実質一つしか、使える質問がないのだ」

 一通り想像して、慶汰は頬を引きつらせた。

「め、めんどくせぇ……!」

 悪態を吐きながらも、慶汰は必至に思考を巡らせる。そして、さらに嫌なことに気がついてしまった。

「あの、三人ともここの羽織を着ていますけど、もしかして皆さん同僚ですか?」

 三人とも、こくりと頷く。まだ尋問の龍脈術は発動していないが、一人だけ嘘を吐く訳にはいかないと思ったのだろう。犯人は他二人に合わせているわけだ。

 そして無実の二人が頷いたと言うことは、犯人も薬事院で務めている人だということになる。

「三人のうち最初から部屋にいたのは一人だけなんですか?」

 再び、三人ともこくりと頷く。
 すると、玉手箱を持った犯人と、部屋の前にいたもう一人がぶつかって部屋の中にもつれ込んだ。部屋の中にいた人は、運悪くどっちが玉手箱を持っていたか見ていないまま、その二人とぶつかったということで……。

「つまり、犯人がわかっている無実の人と、犯人である自覚がある人と、自分以外のどっちが犯人かわからない人の三人がいる状況ってことかよ!」

 ジャグランドもそのややこしさを理解したようで、べちん、と額を叩いた。

「困ったな……犯人がわかっていないものは、『はい』と『いいえ』を交互に繰り返すことになるのだ」
「嘘だろ……」

 慶汰はげんなりしそうな気持ちをなんとか叱咤して、考えを巡らせる。
 背後の扉、廊下の遠くから、「あっちで騒ぎがあったみたいだぞ」とざわつく声が聞こえてきた。ジャグランドも気づいたのだろう、横顔に冷や汗を垂らす。

「まずい、なんとかしなければ……!」
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