追放されたお姫様はおとぎ話のごとく優しい少年に救われたので恩返しします。

進藤 樹

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慶汰の覚悟とモルネア争奪戦

「……アロップのヤツ、竜宮城でいったいどんな扱いされてるんだよ」

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「わかってます、そしてわかりました……! ジャグランドさん、この三人にその龍脈術をかけてください!」

 こめかみに人差し指を強く当てる慶汰の指示に、ジャグランドは戸惑ったように目を向ける。

「わかりましたって、慶汰殿、大丈夫なのか……?」
「どのみち、このまま騒ぎになったらアロップが困るんですよね? ここは信じてもらえませんか」
「仕方がない……三人とも、そこに並びたまえ。逆らえば犯人と見做す」

 だいぶ横暴だな、と慶汰が内心で突っ込んでいるうちにも、容疑者三人は素直に並んだ。無実の二人に渋る理由はなく、すると文句をつければ犯人にされると思うのは必然だ。当然、犯人も他二人に合わせるほかない。

「一度始めたら、無関係な会話は避けるのだぞ。何が貴重な一回分の質問として脳で処理されるかわからないからな」
「ええ、もう二つの質問は決まっていますよ」

 慶汰が頷くと、ジャグランドは竹の刀を横に一閃。
 容疑者三人の男がびくりと震えて、ジャグランドが無言で慶汰に頷いて見せた。

「おほん。三人に訊く、犯人は――俺か?」

 慶汰は自らの胸元に右手の親指を突きつけ、尋ねる。
 瞠目するジャグランドを無視して、容疑者三人は向かって右から順に答えた。

「はい」
「はい」
「いいえ」

 慶汰はにやりと笑って二問目を繰り出す。

「なら二問目だ。犯人は――俺か?」

 容疑者三人は、再び向かって右から順に、慶汰の質問に答えた。

「いいえ」
「はい」
「いいえ」
「ランドさん、犯人は真ん中の男ですッ!」
「なるほどな……! 覚悟ォ!」

 犯人は必ず嘘を吐く。
 犯人を知っている者は必ず真実で答える。
 犯人がわからない者は「はい」と「いいえ」を交互に繰り返す。
 つまり、慶汰を犯人と言い張るのは犯人だけで、同じ質問が連続した時に答えを変えた者は犯人ではない。
 もし向かって右側の人が最初に「いいえ」と答えていれば、一発で犯人がわかっただろう。

「ふぅ……しかし、これでホントに犯人がわかるとはな……」

 犯人と判明した男は、まともに抵抗することなく、ジャグランドに組み伏せられた。
 慶汰はそこへ歩み寄って、犯人を睨みつける。

「なあ犯人さん。先にアロップが中に入ったはずだが……アロップはどうした?」
「会ってない……! 会ってたら今頃返り討ちにされてるっての!」
「それはそれで犯人のセリフとしてみっともねぇだろ……。まあ、無事ならいいけど」

 もはや暴君のような恐れられようだ。慶汰は別の意味で心配になった。
 呆れた顔をしつつも胸をなで下ろす慶汰に代わり、ジャグランドが問い詰める。

「どうして玉手箱を盗んだッ!」
「危険だからだよ! その玉手箱の中にいるんだろ、勝手に兵器を起動させる危険な龍脈知性体が!」
「モルネアのことか……」
「そうだ! それにこの玉手箱だって、あの危険な王女の手に渡ったらいったいどんな危険物になるか……!」
「……アロップのヤツ、竜宮城でいったいどんな扱いされてるんだよ」

 慶汰が困惑して言葉を漏らすと、ジャグランドが犯人を睨みつけたまま答える。

「殿下は幼少期からその才覚を轟かせているからな……。十歳の頃には警備の目を盗んで城を抜け出すようになり、一方で龍脈知性体の発展に貢献なさるようになった。それ以降、騒動は起こすが実績も上げ、功績の裏には殿下絡みのトラブルも起きている……そんな風に育ってこられたのだ」
「キティも敵を作りやすいって心配してたな……」
「去年発足したシードランは、そんな殿下のご活躍を補佐する役目はもちろん、不手際から起きた事態を収集する役目も付与されていた。しかし、軍の兵器が関わる事態となり、力及ばず……」
「お、おお……なんつーか、いろんな意味でさすがアロップ……」

 すごい結果を出せるだけの素質がある一方で、それが転じて問題も起こしているのだから、どうしても周りをやきもきさせてしまうのだろう。

「そこの少年、君が殿下の連れてきた地上人なんだな……?」

 ジャグランドにのしかかられた男が、息苦しそうに話しかける。
 慶汰が警戒しながら無言で頷くと、男は威圧するように声を震わせた。

「兵器を勝手に動かす龍脈知性体を作ったばかりの殿下が、今度は地上から古代の遺産を探してきて、いったい何をしようって言うんだ?」
「それは……」

 植物状態になった海来を治すための研究だ。だが、あまりにも個人的な事情すぎて、話すのは憚られた。
 男は強く鼻息を鳴らす。

「どうせまた、突拍子もない好奇心で、とんでもない大騒ぎを起こすに決まっている! 君もそれに巻き込まれた被害者だろ!」
「…………ッ」

 慶汰は肩を強張らせて震えた。男は気にせず捲し立てる。

「あの身勝手な第二王女のわがままを、これ以上許してはいけないんだ! 次は取り返しのつかない被害が出るかもしれないんだぞ!」
「……俺が、なんだって……?」

 大きく、かすれた音の息を吐き出してから、慶汰は言い返した。

「誰が被害者だ! こっちは俺自身の意思で覚悟を決めて来たんだよ! 万が一地上に戻れなくなるとしても構わねぇ、それでもアロップを助けたいってな!」
「慶汰殿――」

 ジャグランドの呼びかけなど、カッとなった慶汰には届かない。

「だいたい、アロップ一人にやらせてリスクがあるって言うなら、力を合わせて一緒に頑張るのが筋だろうが! もし玉手箱が暴走した時は、俺も一緒に文句でも処罰でも受けてやる!」
「慶汰殿!」

 一段強くなった呼びかけが、今度は慶汰の意識に届いた。
 ハッとした慶汰が周りを見ると、部屋の入口に五人ほどの野次馬ができてしまっている。
 緑色の羽織は元から薬事院にいた人だろうが、銀色の羽織を来た若い男女もいたので、ことは大事になっているかもしれない。

「あ、やべ……」

 騒ぎにしては、アーロドロップの立場に関わる。それを思い出して、慶汰は歯を食いしばった。

「すんません、ついカッとなって……」
「ああ、いや、そういうわけではなく……」

 部屋の中に騒がしい足音が入ってくる。ジャグランドと同じ腕章をした男が、玉手箱窃盗犯を立ち上がらせた。
 それを横目に、銀色の羽織を着た金髪の青年が、ジャグランドに声をかける。

「ランド副隊長、ここに居たんスね。研究室にも共犯二人がいたっスけど、レン先輩が取り押さえてるっス」
「……そうか、よくやってくれた。それで、殿下は?」

 こちらも銀色の羽織に袖を通した紅い髪の少女が、気まずそうに廊下に目配せした。

「え~と……外にいる、と思います」

 ジャグランドと銀の羽織の二人組が、なにか言いたげな顔でちらりと慶汰を見やる。何かのアイコンタクトだろうか。ひとまず合流したいのはたしかだ。
 慶汰は玉手箱を抱えて、部屋を出た。
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