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老化現象解明の手かがり
「……もう、どこで憶えてきたのよ、そんな言葉……!」
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薬事院の外に、アーロドロップが背中を向けて立っていた。暗い夜の中、オレンジ色の外灯と、建物の窓からこぼれる照明が、二人を照らす。
「アロップ! 無事だったか!」
慶汰が声をかけると、アーロドロップは大きくびくりと背筋を伸ばす。落ち着きなく振り袖が揺れたが、振り向くわけではなく、そのまま両手で顔を覆った。
「泣いてるのか……?」
不思議に思いながらも左から回り込む。すると、さっと身体ごと捻って背中を向けられた。
両手で顔が隠れて表情こそ見えなかったが、ちらりと見えたアーロドロップの横顔は、首から耳まで真っ赤に紅潮していた。
「……アロップ?」
「ダメ、こっち見ないで……! まだ、心の準備が……」
声が上擦って震えている。どうしたのだろうと思って、慶汰は自分が玉手箱を抱えていたことを思い出す。
「ああ、モルネアとの再会がそんなに緊張するのか」
すると、三秒くらいの間があって、アーロドロップが慶汰の方へ身体を向ける。先ほどまでの真っ赤な顔が嘘のように、穏やかな笑顔を浮かべていた。
「ふふ……ありがとう、おかげで落ち着いたわ」
異様な迫力を感じて、慶汰の左足が半歩下がる。
「お、おう……? なんか怖いぞ?」
今の声かけでどう落ち着くというのか。疑問に思った慶汰だったが、それより事件の方が気になった。
「で、そっちは大丈夫だったのか? さっき共犯がどうとか聞いたけど」
「ええ、だいたい背景はわかったわ。姉上の政敵が関わってたんだけど、姉上関係は弱みなんてないからね。妹のあたしを狙って身内の不手際から攻める算段だったんでしょ。そうすれば共犯も集めやすいから」
「政治の話……だったのか?」
「悲しいことにね。それより、慶汰の方こそ無事だった?」
「ジャグランドさんがいてくれたからな。玉手箱も問題ないはずだ」
玉手箱の蓋を開いていいのかわからないので、ひとまず慶汰は正面をアーロドロップの方に向ける。
「で、モルネアの救出ってのは、どうすりゃいいんだ?」
「別にどうってことはないわ」
アーロドロップは、右手人差し指のネイルコアで、玉手箱につん、と触れた。
「戻ってきなさい、モルネア」
瞬間、赤いメンダコのアバターが、ネイルコアから空中に浮かび上がった。懐かしいとすら思える幼げな少年の電子音声が、のんびりと響く。
〈ただいま~〉
「おかえりー」
アロップは満面の笑顔でお気楽に返事して、すぐに目をつり上げた。
「――じゃないのよ! なんでそれなのよ! もっとこう、ないの!? 急に閉じ込められて怖かったとか、七日間も孤独で寂しかったとか!」
慶汰はつい、感嘆した。
竜宮城に来て以来、アーロドロップに振り回される人々ばかり見ていたからか、彼女がノリツッコミをする姿が新鮮に映る。
〈広くて居心地よかったけど~?〉
「悪かったわね、ネイルコアが狭くて居心地悪くて……!」
アーロドロップのつけ爪の中だと思えば、たしかに狭いしまず揺れる。だが、AIのような龍脈知性体にそのような感受性があるのかは疑問だ。
〈でも~、アロップがいなかったから、つまんなかったな~〉
モルネアが何気なく放った一言が、アーロドロップの涙腺を刺激する。
ぐすりと洟をすすって、アーロドロップはネイルコアを抱きしめるように両手を胸に当てた。
「……もう、どこで憶えてきたのよ、そんな言葉……!」
〈わぁ、急に何するのさ~〉
「心配したんだからね……! ごめんなさい、あたしがもっと警戒していれば、あなたを吸い取られずに済んだのに……!」
〈や、だから居心地よかったって言ったじゃんか~〉
「空気読みなさいよもう……ばかぁぁ……!」
アーロドロップが泣きじゃくる夜の庭園に、柔らかい風が吹いて、ほのかな花の香りを運んでくる。
慶汰は何も言わずに、二人の再会を見守った。
「アロップ! 無事だったか!」
慶汰が声をかけると、アーロドロップは大きくびくりと背筋を伸ばす。落ち着きなく振り袖が揺れたが、振り向くわけではなく、そのまま両手で顔を覆った。
「泣いてるのか……?」
不思議に思いながらも左から回り込む。すると、さっと身体ごと捻って背中を向けられた。
両手で顔が隠れて表情こそ見えなかったが、ちらりと見えたアーロドロップの横顔は、首から耳まで真っ赤に紅潮していた。
「……アロップ?」
「ダメ、こっち見ないで……! まだ、心の準備が……」
声が上擦って震えている。どうしたのだろうと思って、慶汰は自分が玉手箱を抱えていたことを思い出す。
「ああ、モルネアとの再会がそんなに緊張するのか」
すると、三秒くらいの間があって、アーロドロップが慶汰の方へ身体を向ける。先ほどまでの真っ赤な顔が嘘のように、穏やかな笑顔を浮かべていた。
「ふふ……ありがとう、おかげで落ち着いたわ」
異様な迫力を感じて、慶汰の左足が半歩下がる。
「お、おう……? なんか怖いぞ?」
今の声かけでどう落ち着くというのか。疑問に思った慶汰だったが、それより事件の方が気になった。
「で、そっちは大丈夫だったのか? さっき共犯がどうとか聞いたけど」
「ええ、だいたい背景はわかったわ。姉上の政敵が関わってたんだけど、姉上関係は弱みなんてないからね。妹のあたしを狙って身内の不手際から攻める算段だったんでしょ。そうすれば共犯も集めやすいから」
「政治の話……だったのか?」
「悲しいことにね。それより、慶汰の方こそ無事だった?」
「ジャグランドさんがいてくれたからな。玉手箱も問題ないはずだ」
玉手箱の蓋を開いていいのかわからないので、ひとまず慶汰は正面をアーロドロップの方に向ける。
「で、モルネアの救出ってのは、どうすりゃいいんだ?」
「別にどうってことはないわ」
アーロドロップは、右手人差し指のネイルコアで、玉手箱につん、と触れた。
「戻ってきなさい、モルネア」
瞬間、赤いメンダコのアバターが、ネイルコアから空中に浮かび上がった。懐かしいとすら思える幼げな少年の電子音声が、のんびりと響く。
〈ただいま~〉
「おかえりー」
アロップは満面の笑顔でお気楽に返事して、すぐに目をつり上げた。
「――じゃないのよ! なんでそれなのよ! もっとこう、ないの!? 急に閉じ込められて怖かったとか、七日間も孤独で寂しかったとか!」
慶汰はつい、感嘆した。
竜宮城に来て以来、アーロドロップに振り回される人々ばかり見ていたからか、彼女がノリツッコミをする姿が新鮮に映る。
〈広くて居心地よかったけど~?〉
「悪かったわね、ネイルコアが狭くて居心地悪くて……!」
アーロドロップのつけ爪の中だと思えば、たしかに狭いしまず揺れる。だが、AIのような龍脈知性体にそのような感受性があるのかは疑問だ。
〈でも~、アロップがいなかったから、つまんなかったな~〉
モルネアが何気なく放った一言が、アーロドロップの涙腺を刺激する。
ぐすりと洟をすすって、アーロドロップはネイルコアを抱きしめるように両手を胸に当てた。
「……もう、どこで憶えてきたのよ、そんな言葉……!」
〈わぁ、急に何するのさ~〉
「心配したんだからね……! ごめんなさい、あたしがもっと警戒していれば、あなたを吸い取られずに済んだのに……!」
〈や、だから居心地よかったって言ったじゃんか~〉
「空気読みなさいよもう……ばかぁぁ……!」
アーロドロップが泣きじゃくる夜の庭園に、柔らかい風が吹いて、ほのかな花の香りを運んでくる。
慶汰は何も言わずに、二人の再会を見守った。
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