追放されたお姫様はおとぎ話のごとく優しい少年に救われたので恩返しします。

進藤 樹

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龍迎祭のジンクス

〈すれ違ってばっかりだよね、この話〉

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「ところで、アロップは慶汰さんを龍迎祭に誘ってくれましたか?」
「ああ。玉手箱盗難事件の時にな。誘ってくれたっていうか、俺から誘ったんだけど」
「あっ」

 ピシィ! キラティアーズの時間が止まったかのようにフリーズした。

「普通にOKしてくれたぞ。……ん? キティ? おーい、どうしたー?」

 慶汰が彼女の前で手をひらひらと振ると、キラティアーズの顔が少しずつ青ざめていく。

「え……なんで……? あの子まさか、慶汰さんに誘われるのを待っていたんですか……?」

 キラティアーズのネイルコアから、メンダコのアバターが勝手に浮かび上がる。そのモルネアが、足の一本を挙げて答えた。

〈それボクあの後聞いたー。シードランのメンバーに招集かけるのに忙しくて、慶汰を誘うの後回しにしてたんだって。それで忘れちゃったみたい〉
「そ、そんな……!」
〈ランドとイリスは城内スカウト組だったからすぐに連絡ついたけど、シューティとレンは、ほら、元々地方出身だしー〉
「だからって、連絡くらいすぐに……」
〈いやいや、キティもそうだったと思うけど、みんなそれぞれ、地上で龍脈が尽きたアロップを探すための救出チーム編成に躍起になってたんだよ? それで動きがイレギュラーになってたって〉

 ずん、と重たい何かがのしかかったように、キラティアーズが頭を垂らした。

「そうでした……。申し訳ございません慶汰さん……完全に説明を失念していたわたくしのミスです……」
「えっとー、俺が誘うと何かまずかったりするのか……?」
〈男の人が女の人を龍迎祭に誘うのはねぇ、愛の告白ってことになるんだよ!〉

 元気よくモルネアが言って、慶汰もようやく状況を理解した。どうやら、知らぬ間に告白したことになっているらしい。
 一瞬で喉が渇いて、耳の先まで熱を帯びる。

「そういうことは……先に……!」
「返す言葉もありません……」

 慶汰はイ級客服の胸元を乱暴に握って風を通した。

「で、どうするんだ誕生日祝い……。その龍迎祭告白イベントの重さがイマイチピンとこないけど、元の打ち合わせ通り、花火が上がったら『誕生日おめでとう』で済ませていいものなのか……?」

 キラティアーズは、腕を組んで喉を唸らせた。

「それは、その……まあ、結局のところ、ジンクスと言いますか……俗習と言いますか……。とにかく流れを破ったところで、罰則なんてありませんけれど……」

 キラティアーズは苦し紛れに言葉を濁すだけ。
 少し悩んで、慶汰は五日前のことを思い出した。

「思えば、アロップは俺がその説明を受けてないって察してた感じあったし……事情を伝えれば気にしなくてもよくなるんじゃないか?」
〈チッチッチ。慶汰ぁ、そんなんじゃデリカシーないってアロップに怒られちゃうぞ~?〉

 スカートのような膜をめくって、モルネアが足の一本を挑発するように振る。慶汰はイラッとして、つい鋭い眼光を向けてしまった。

「モルネア、お前にデリカシーなんてものがあるのか……?」
〈ふふん、たとえボクにデリカシーがなくても、こういう話題でこういう話の流れなら女子は百パーセント怒るっていう統計データがあるもんね!〉

 一番デリカシーのない発言だ。もっとも、そんな口論をしても仕方がない。慶汰は鼻で笑い飛ばして、モルネアに合わせた。

「で、どうして俺がデリカシーないって?」
〈そんなの決まってるじゃん。今、慶汰とキティが話していたのは、ジンクスの『段取り』の話。ジンクスのジンクスたりえる『起源』を知らずに言ったでしょー〉
「なんだよ、起源って」

 知る由のない慶汰を慮ってか、すかさずキラティアーズが説明した。

「元々は、貴族同士の家柄都合で婚約が決まっていた女性・アクラと、アクラに恋した男性のお話でした――」

 貴族に生まれたアクラは、ある日貴族の男性を宛がわれました。その男性は社交界でアクラが憧れていた人です。
 アクラは彼に気に入ってもらおうとあれこれ努力しましたが、愛想のない反応をされ続けて、落胆しました。
 そんなアクラを慕う、一人の男の人がいました。その男性はアクラの家で侍従として働く平民です。
 身分違いの叶わぬ恋、そう諦めていた従者の男性ですが、仕えているアクラの憂鬱そうな溜息が増えて、勇気を振り絞ります。
 侍従の男性は「龍迎祭の一日、アクラ様をエスコートして僕の熱意を受け取ってください」と懇願します。
 アクラは一縷の希望を込めてその話を受けました。もし、自分を好きだと言ってくれる人と駆け落ちできるなら……そんな思いに揺れたのです。
 そうして迎えた龍迎祭。従者の男性は、アクラに尽くしました。彼女の好きな食べ物を用意し、ペース配分もばっちりです。
 ですがアクラにとってすれば、それはいつもしてくれる「完璧な仕事」――残念ながら、従者の男性の献身は、あと一歩届きませんでした。
 アクラは従者の男性にエスコートのお礼を告げて、別れます。
 ですが、婚約者の男性もまた、龍迎祭で従者の女性を誘い、二人で過ごしていたのです。
 呆然とするアクラに気づいて、貴族の男性はすべて打ち明けました。自分には身分違いの想い人がいたこと、そしてアクラを慕う従者の男性の存在も知っていたこと。
 最後に、婚約を破棄した方がお互いのためだと言い残して、婚約者の男性は従者の女性と立ち去ってしまいます。
 こうして、今までずっと慕ってくれていた男性が、どんな気持ちで自分に尽くしてくれたのかを痛感したアクラは、従者の男性を探し続けましたが、結局見つけることは叶いませんでした。

「――以上が、ジンクスの元となったお話です」
〈すれ違ってばっかりだよね、この話〉

 モルネアが容赦のないコメントを叩きつける。それを聞いて、慶汰は苦笑した。

「それが言えれば世話もないけど……。もしかして、龍迎祭のジンクスって『龍迎祭で成立したカップルは永遠に結ばれる』みたいな、甘い感じじゃないな?」

 キラティアーズは深々と頷いた。

「はい。龍迎祭のジンクスとは『けっして元の関係には戻れない』というものです。一世一代の決断の場、といってもよいでしょう」

 重い、と叫べたらどれだけ気が楽だっただろう。
 慶汰は両肘を机に乗せて頭を抱えた。

「ただでさえ姉さんのために、玉手箱の解析を急いでもらっているというのに……俺は……なんということを……!」

 知らなかったとはいえ、これで龍迎祭の終わり際、花火が上がると同時に「お誕生日おめでとう!」は無神経がすぎる。

〈実際、アロップは空回り続きだよー〉
「モルネアっ! 貴方は余計なことを言わないでください!」

 慶汰とキラティアーズは、揃って重たい溜息を吐いた。
 龍迎祭は、二日後に迫っている。
 結論から言えば、もはや今の慶汰に根本的解決などできるわけがなかった。

「仕方ねぇ……こうなりゃ、当たって砕けろだ……!」

 ここまで来てしまったからには、誠心誠意向き合うしかない。
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