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告白
幼少期から好奇心旺盛だったアーロドロップは、王城の中を落ち着きなく飛び回る子だった。
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最後に、キンキンに冷えた瓶のブルーサイダーを買って、地図に示された場所へ移動する。会場の端、雑木林を抜けた先に、切り開かれた空間があって、ぽつんと小さなベンチが設置されていた。
そのエリアの入口を封鎖するように、ジャグランドが腰の後ろに手を回して立っている。何も言わず、道を空けて腰を折るジャグランドに、アーロドロップは「ありがとう」とお礼を告げて進んでいく。その様は、いかにも王女とその従者だ。
慶汰もお礼を告げるが、ジャグランドは同じように上躯を傾けるだけ。沈黙を守ったまま、慶汰たちが来た一本道をゆっくり歩いていった。
「さ、座りましょ」
お祭り会場を後方に、正面には下側に城下町が広がり、右手側には王城のあるエリアが見える。城下町の向こうは砂浜と海岸になっており、その先は暗くて境界面がどれくらい遠くにあるのかも見えなかった。
「花火は海沿いで上げるのよ」
左隣に座ったアーロドロップが、空を見上げて言う。
「じゃあ、ベストスポットなんだな。ここ」
「ええ。用意してくれたみんなに感謝しないとね」
慶汰はアーロドロップの横顔を見る。穏やかで、まっすぐに、目を細めていた。
「今日、影でお膳立てしてくれた四人は……みんなシードランのメンバーなのか?」
アーロドロップはゆっくりと頷く。
「そうよ。思えば、まだ結成して一年も経ってないのだけど……みんな頼もしいでしょ」
アーロドロップはブルーサイダーの瓶ジュースをごくりと飲むと、ゆったりと慶汰に彼らとの思い出を語って聞かせた。
幼少期から好奇心旺盛だったアーロドロップは、王城の中を落ち着きなく飛び回る子だった。
十歳になると、いよいよ王城の外へ抜け出すようになる。そんな彼女の監視役として任命されたのが、ジャグランドだ。
ジャグランド・パルバルス。王城警備三十年。アーロドロップの母・ハイドローナ乙姫陛下も信頼を置く衛兵である。
それからアーロドロップは、ジャグランドの監視を振り切ろうとあがいたが、王城の外に出る成功確率は三割に満たなかった。
運良く外に出られても、王城の外で満足に過ごせた日はない。どれだけ策を講じても、よくて一、二時間もすれば捕まってしまう。
そんな日々が一年以上続いたある日、アーロドロップは珍しくジャグランドを完全に撒くことに成功した。正体を隠すために〝ドロップちゃん〟という架空の人物になりすましていると、レンと出会う。
レン――レックマン・ホライズは、地方の執政院に務める役人だった。龍脈知能体の研修を受けるため、王都にやってきていたのだ。
同時期、王都では龍脈知性体のシステムトラブルが相次いでいた。専門的な会話ができたこともあって、レックマンと共に調査に乗り出したアーロドロップもといドロップは、トラブルの原因である龍脈知性体の回収に成功――その龍脈知性体が、モルネアだ。
研修を終えたレックマンが地方に戻ってから一年近く、アーロドロップはモルネアの教育に力を入れた。
そして十二歳になって半年ほどした頃、王城内で何人か新人の侍従が補充された。その中の一人がイリス――イーリアス・ビーチである。
当時、イーリアスは緊張から失敗ばかりを繰り返していたメイドだった。アーロドロップは彼女の起こす騒動に遭遇することが多く、世話を焼いているうちに、いつの間にか仲良くなっていた。
その頃、姉のキラティアーズが成人を迎える。
キラティアーズの初公務は、妹のアーロドロップと二人での、スポーツ振興イベントへの出席だ。種目は、龍芸走という、龍脈術を用いた障害物走である。
そのイベントに、王女姉妹を狙うテロ予告が出された。
アーロドロップはテロを未然に防ぐため、ドロップちゃんに変装し、イベントへ飛び込み参加する。なお、この日はイーリアスもタイミングに応じてアーロドロップやドロップちゃんに変装し、二人分の影武者をこなすことになる。
このイベントに、龍芸走のプロ選手として参加者にコーチングするべく、シューティ――シュークティ・ウェーブナーも参加していた。彼も運悪くテロ計画を知ってしまい、巻き込む形で強引に味方につける。
また、地方にいたレックマンが王城勤務となり、偶然にも合流。アーロドロップたちは力を合わせてテロを防ぎ、無事にイベントを成功させた。
この一件において、アーロドロップはテロを防いだ立役者になったわけだが、犯人と直接対峙したという危険行為が問題視され、より厳しい監視下に置かれそうになる。
もっとも、居合わせたレックマンが、以前解決した王都龍脈知性体のシステムトラブルの解決に、ドロップちゃんもといアーロドロップが関わっていたことを打ち明けたことから話が転がり、短くない協議の末にシードランの設立が決定。
アーロドロップが十三歳の誕生日を迎えてすぐ、シードランの活動が始まった。
危険なことはしないと約束しながら、一年足らずして、モルネアが軍の兵器を起動させ、アーロドロップはいよいよ竜宮城追放という処罰を下されたのだ。
そのエリアの入口を封鎖するように、ジャグランドが腰の後ろに手を回して立っている。何も言わず、道を空けて腰を折るジャグランドに、アーロドロップは「ありがとう」とお礼を告げて進んでいく。その様は、いかにも王女とその従者だ。
慶汰もお礼を告げるが、ジャグランドは同じように上躯を傾けるだけ。沈黙を守ったまま、慶汰たちが来た一本道をゆっくり歩いていった。
「さ、座りましょ」
お祭り会場を後方に、正面には下側に城下町が広がり、右手側には王城のあるエリアが見える。城下町の向こうは砂浜と海岸になっており、その先は暗くて境界面がどれくらい遠くにあるのかも見えなかった。
「花火は海沿いで上げるのよ」
左隣に座ったアーロドロップが、空を見上げて言う。
「じゃあ、ベストスポットなんだな。ここ」
「ええ。用意してくれたみんなに感謝しないとね」
慶汰はアーロドロップの横顔を見る。穏やかで、まっすぐに、目を細めていた。
「今日、影でお膳立てしてくれた四人は……みんなシードランのメンバーなのか?」
アーロドロップはゆっくりと頷く。
「そうよ。思えば、まだ結成して一年も経ってないのだけど……みんな頼もしいでしょ」
アーロドロップはブルーサイダーの瓶ジュースをごくりと飲むと、ゆったりと慶汰に彼らとの思い出を語って聞かせた。
幼少期から好奇心旺盛だったアーロドロップは、王城の中を落ち着きなく飛び回る子だった。
十歳になると、いよいよ王城の外へ抜け出すようになる。そんな彼女の監視役として任命されたのが、ジャグランドだ。
ジャグランド・パルバルス。王城警備三十年。アーロドロップの母・ハイドローナ乙姫陛下も信頼を置く衛兵である。
それからアーロドロップは、ジャグランドの監視を振り切ろうとあがいたが、王城の外に出る成功確率は三割に満たなかった。
運良く外に出られても、王城の外で満足に過ごせた日はない。どれだけ策を講じても、よくて一、二時間もすれば捕まってしまう。
そんな日々が一年以上続いたある日、アーロドロップは珍しくジャグランドを完全に撒くことに成功した。正体を隠すために〝ドロップちゃん〟という架空の人物になりすましていると、レンと出会う。
レン――レックマン・ホライズは、地方の執政院に務める役人だった。龍脈知能体の研修を受けるため、王都にやってきていたのだ。
同時期、王都では龍脈知性体のシステムトラブルが相次いでいた。専門的な会話ができたこともあって、レックマンと共に調査に乗り出したアーロドロップもといドロップは、トラブルの原因である龍脈知性体の回収に成功――その龍脈知性体が、モルネアだ。
研修を終えたレックマンが地方に戻ってから一年近く、アーロドロップはモルネアの教育に力を入れた。
そして十二歳になって半年ほどした頃、王城内で何人か新人の侍従が補充された。その中の一人がイリス――イーリアス・ビーチである。
当時、イーリアスは緊張から失敗ばかりを繰り返していたメイドだった。アーロドロップは彼女の起こす騒動に遭遇することが多く、世話を焼いているうちに、いつの間にか仲良くなっていた。
その頃、姉のキラティアーズが成人を迎える。
キラティアーズの初公務は、妹のアーロドロップと二人での、スポーツ振興イベントへの出席だ。種目は、龍芸走という、龍脈術を用いた障害物走である。
そのイベントに、王女姉妹を狙うテロ予告が出された。
アーロドロップはテロを未然に防ぐため、ドロップちゃんに変装し、イベントへ飛び込み参加する。なお、この日はイーリアスもタイミングに応じてアーロドロップやドロップちゃんに変装し、二人分の影武者をこなすことになる。
このイベントに、龍芸走のプロ選手として参加者にコーチングするべく、シューティ――シュークティ・ウェーブナーも参加していた。彼も運悪くテロ計画を知ってしまい、巻き込む形で強引に味方につける。
また、地方にいたレックマンが王城勤務となり、偶然にも合流。アーロドロップたちは力を合わせてテロを防ぎ、無事にイベントを成功させた。
この一件において、アーロドロップはテロを防いだ立役者になったわけだが、犯人と直接対峙したという危険行為が問題視され、より厳しい監視下に置かれそうになる。
もっとも、居合わせたレックマンが、以前解決した王都龍脈知性体のシステムトラブルの解決に、ドロップちゃんもといアーロドロップが関わっていたことを打ち明けたことから話が転がり、短くない協議の末にシードランの設立が決定。
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危険なことはしないと約束しながら、一年足らずして、モルネアが軍の兵器を起動させ、アーロドロップはいよいよ竜宮城追放という処罰を下されたのだ。
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