50 / 57
告白
〈そう、ボクは……恋をしていたんだ!〉
しおりを挟む
静まりかえったベンチで一人、慶汰は人差し指のネイルコアに触れた。
「……モルネア、聞こえるか?」
〈うん〉
「さっきの話、聞いてたか?」
〈……うん〉
モルネアでも、返事を躊躇うことがあるようだ。
「俺、どうすればよかったのかな」
〈……ごめん、よくわかんないや〉
いままでずっと間延びした喋り方だったのに、そうしてほしい時に限って、そうしてくれないらしい。
「俺さ、モルネアが玉手箱に吸い込まれた日の夜、悩んだんだ。アロップが、玉手箱を解析できなかったら、その時どうなっちゃうんだろうって」
少し間を開けたが、モルネアは相槌を打たなかった。慶汰は続ける。
「でさ、思ったんだ。アロップならやってくれるって。だから、どれだけ時間がかかっても、そばで応援するって決めたんだ。たとえそれで、地上に残した家族と離ればなれになっても……」
そこまで言って、慶汰はひとりでにフフっと笑った。
「姉さんを助けてもらうために、玉手箱の解析を頼んでるのに……それに間に合わなくても応援しようって、おかしな話だよな」
〈……おかしな話……なのかな……〉
モルネアなりに、気を遣ってくれているのだろうか。矛盾があれば突っ込んでくるとばかり思っていただけに、慶汰は訝しみながらも、語りを続けた。
「もしかしたら、その時にはもう、俺はアロップに惚れていたのかも……ああ、自分でもわかんないや」
慶汰は自分に相槌を打つように頷く。
「でも、それぐらいの覚悟で、俺はこっちに――竜宮城に来たんだ。……なのに、ああ言われちゃ、な……」
はぁぁー、と大きく肩を落とした。
「今さらそんなこと伝えても、もっと気にさせるだけだろうし……」
〈アロップ、それはもう知ってるよ?〉
「え……?」
ネイルコアから、メンダコのアバターが浮かび上がる。
〈薬事院で、まだボクが玉手箱に閉じ込められたままだった時、慶汰、玉手箱盗んだ犯人に似たようなこと怒鳴ってたでしょ〉
言われて思い出す。その事件も、もう七日前のことだ。
「ああ、そういえばそうだったな……。つか、玉手箱の中でも声は届いてたのか?」
〈うん、竜宮城に入ってある程度龍脈が溜まった頃からね。玉手箱にはボクの発声に必要な機能がなかったから、お返事できなかったけど〉
「そうだったのか……で、アロップが聞いてたってのは?」
〈言葉通りの意味だよ。玉手箱を取り返すために駆けつけた時に、ちょうど慶汰がそう叫ぶところに居合わせて、アロップだけ外に飛び出していったって、シューティたちから聞いたもん〉
「なっ……。ま、まさか聞かれていたとは……」
しばらく放心する。そうして、改めてアーロドロップの言葉を受け止めた。
「じゃあ、逆にプレッシャーを与えてたんだな、俺は……」
モルネアが、触手の一本を上げる。
〈ねぇ、慶汰。質問いい?〉
「おう」
〈アロップはさ、慶汰のことが好きだって、何度も言ってたんだけど〉
「おっ……おおう」
その話、聞いていいのだろうか。だがモルネアは一向に気にしない。
〈好きなら一緒にいたいって思うのが普通でしょ? なのになんで、アロップは慶汰と離ればなれになろうとするの?〉
――なんでそれをよりによって俺に聞く!? と叫びたい衝動をなんとか飲み込んで、慶汰の喉が鳴った。
「そりゃお前……アロップは俺のことが、す、好きだから、これ以上、迷惑かけたくないってことだろ」
〈慶汰がそれでもいいって言ったのに?〉
「ホント話振る相手くらい選んでくれよもう……!」
あまりの気恥ずかしさに、慶汰は熱くなった顔面を両手で覆う。
血圧があまりに高まって、脳が破裂しそうだ。慶汰はやけくそになって、思いつくままに答える。
「モルネア、お前にはわからないだろうけど、それが恋って気持ちなんだよ……! 好きな人のことを想うと、一緒にいたいし、胸張れる自分でいたいし、相手のためならなんでもしてやりたくなって、それがどれだけ矛盾しても、好きって気持ちに突き動かされて、自分でも理解できないことを言ったりしたりするんだよ……!」
熱のこもった慶汰の吐息が、穏やかな夜風にさらわれる。まだ、火薬の香りがほのかに残っていた。
風が凪いだ時、モルネアのメンダコのアバターに、不気味なノイズが走る。
〈それが、恋……うん。そっか。この気持ちが、恋なんだね……ああ……!〉
音声もだ。幼き少年のような声に、低い男性の声や老齢な女性の声もミックスされている。
「も、モルネア……?」
〈そうだよ、そうなんだよ……そうだったんだよ……!〉
「だ、大丈夫か……?」
モルネアの声が、二十代ほどの男性の声で安定する。
〈ああ、慶汰……今まで、苦労をかけてしまったね。本当にごめん〉
「お、おい……? 急にどうしちまったんだ?」
〈いや……ようやく、全てを思い出したんだ。そう、ボクは……恋をしていたんだ!〉
突然何を言い出すかと思えば。
「え、誰に……アロップに……?」
呆然としながら尋ねる。モルネアは、静かに答えた。
〈いや……アクアーシャ、というんだけど〉
「ホントに誰だよ!?」
知らない人の名前だという感覚は、続くモルネアの声で覆される。
〈六〇〇年前……こっちの世界では一二〇〇年前、ボクに玉手箱をくれた、乙姫様の名前だよ〉
「……モルネア、聞こえるか?」
〈うん〉
「さっきの話、聞いてたか?」
〈……うん〉
モルネアでも、返事を躊躇うことがあるようだ。
「俺、どうすればよかったのかな」
〈……ごめん、よくわかんないや〉
いままでずっと間延びした喋り方だったのに、そうしてほしい時に限って、そうしてくれないらしい。
「俺さ、モルネアが玉手箱に吸い込まれた日の夜、悩んだんだ。アロップが、玉手箱を解析できなかったら、その時どうなっちゃうんだろうって」
少し間を開けたが、モルネアは相槌を打たなかった。慶汰は続ける。
「でさ、思ったんだ。アロップならやってくれるって。だから、どれだけ時間がかかっても、そばで応援するって決めたんだ。たとえそれで、地上に残した家族と離ればなれになっても……」
そこまで言って、慶汰はひとりでにフフっと笑った。
「姉さんを助けてもらうために、玉手箱の解析を頼んでるのに……それに間に合わなくても応援しようって、おかしな話だよな」
〈……おかしな話……なのかな……〉
モルネアなりに、気を遣ってくれているのだろうか。矛盾があれば突っ込んでくるとばかり思っていただけに、慶汰は訝しみながらも、語りを続けた。
「もしかしたら、その時にはもう、俺はアロップに惚れていたのかも……ああ、自分でもわかんないや」
慶汰は自分に相槌を打つように頷く。
「でも、それぐらいの覚悟で、俺はこっちに――竜宮城に来たんだ。……なのに、ああ言われちゃ、な……」
はぁぁー、と大きく肩を落とした。
「今さらそんなこと伝えても、もっと気にさせるだけだろうし……」
〈アロップ、それはもう知ってるよ?〉
「え……?」
ネイルコアから、メンダコのアバターが浮かび上がる。
〈薬事院で、まだボクが玉手箱に閉じ込められたままだった時、慶汰、玉手箱盗んだ犯人に似たようなこと怒鳴ってたでしょ〉
言われて思い出す。その事件も、もう七日前のことだ。
「ああ、そういえばそうだったな……。つか、玉手箱の中でも声は届いてたのか?」
〈うん、竜宮城に入ってある程度龍脈が溜まった頃からね。玉手箱にはボクの発声に必要な機能がなかったから、お返事できなかったけど〉
「そうだったのか……で、アロップが聞いてたってのは?」
〈言葉通りの意味だよ。玉手箱を取り返すために駆けつけた時に、ちょうど慶汰がそう叫ぶところに居合わせて、アロップだけ外に飛び出していったって、シューティたちから聞いたもん〉
「なっ……。ま、まさか聞かれていたとは……」
しばらく放心する。そうして、改めてアーロドロップの言葉を受け止めた。
「じゃあ、逆にプレッシャーを与えてたんだな、俺は……」
モルネアが、触手の一本を上げる。
〈ねぇ、慶汰。質問いい?〉
「おう」
〈アロップはさ、慶汰のことが好きだって、何度も言ってたんだけど〉
「おっ……おおう」
その話、聞いていいのだろうか。だがモルネアは一向に気にしない。
〈好きなら一緒にいたいって思うのが普通でしょ? なのになんで、アロップは慶汰と離ればなれになろうとするの?〉
――なんでそれをよりによって俺に聞く!? と叫びたい衝動をなんとか飲み込んで、慶汰の喉が鳴った。
「そりゃお前……アロップは俺のことが、す、好きだから、これ以上、迷惑かけたくないってことだろ」
〈慶汰がそれでもいいって言ったのに?〉
「ホント話振る相手くらい選んでくれよもう……!」
あまりの気恥ずかしさに、慶汰は熱くなった顔面を両手で覆う。
血圧があまりに高まって、脳が破裂しそうだ。慶汰はやけくそになって、思いつくままに答える。
「モルネア、お前にはわからないだろうけど、それが恋って気持ちなんだよ……! 好きな人のことを想うと、一緒にいたいし、胸張れる自分でいたいし、相手のためならなんでもしてやりたくなって、それがどれだけ矛盾しても、好きって気持ちに突き動かされて、自分でも理解できないことを言ったりしたりするんだよ……!」
熱のこもった慶汰の吐息が、穏やかな夜風にさらわれる。まだ、火薬の香りがほのかに残っていた。
風が凪いだ時、モルネアのメンダコのアバターに、不気味なノイズが走る。
〈それが、恋……うん。そっか。この気持ちが、恋なんだね……ああ……!〉
音声もだ。幼き少年のような声に、低い男性の声や老齢な女性の声もミックスされている。
「も、モルネア……?」
〈そうだよ、そうなんだよ……そうだったんだよ……!〉
「だ、大丈夫か……?」
モルネアの声が、二十代ほどの男性の声で安定する。
〈ああ、慶汰……今まで、苦労をかけてしまったね。本当にごめん〉
「お、おい……? 急にどうしちまったんだ?」
〈いや……ようやく、全てを思い出したんだ。そう、ボクは……恋をしていたんだ!〉
突然何を言い出すかと思えば。
「え、誰に……アロップに……?」
呆然としながら尋ねる。モルネアは、静かに答えた。
〈いや……アクアーシャ、というんだけど〉
「ホントに誰だよ!?」
知らない人の名前だという感覚は、続くモルネアの声で覆される。
〈六〇〇年前……こっちの世界では一二〇〇年前、ボクに玉手箱をくれた、乙姫様の名前だよ〉
0
あなたにおすすめの小説
処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜
放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!?
「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」
不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。
『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』
夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」
教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。
ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。
王命による“形式結婚”。
夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。
だから、はい、離婚。勝手に。
白い結婚だったので、勝手に離婚しました。
何か問題あります?
【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件
三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。
※アルファポリスのみの公開です。
天然だと思ったギルド仲間が、実は策士で独占欲強めでした
星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー本編8話+後日談7話⭐︎
ギルドで働くおっとり回復役リィナは、
自分と似た雰囲気の“天然仲間”カイと出会い、ほっとする。
……が、彼は実は 天然を演じる策士だった!?
「転ばないで」
「可愛いって言うのは僕の役目」
「固定回復役だから。僕の」
優しいのに過保護。
仲間のはずなのに距離が近い。
しかも噂はいつの間にか——「軍師(彼)が恋してる説」に。
鈍感で頑張り屋なリィナと、
策を捨てるほど恋に負けていくカイの、
コメディ強めの甘々ギルド恋愛、開幕!
「遅いままでいい――置いていかないから。」
短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜
美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?
冷徹団長の「ここにいろ」は、騎士団公認の“抱きしめ命令”です
星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー全16話+後日談5話⭐︎
王都最硬派、規律と責任の塊――騎士団長ヴァルド・アークライトは、夜の見回り中に路地で“落とし物”を拾った。
……いや、拾ったのは魔物の卵ではなく、道端で寝ていた少女だった。しかも目覚めた彼女は満面の笑みで「落とし物です!拾ってくださってありがとうございます!」と言い張り、団長の屋敷を“保護施設”だと勘違いして、掃除・料理・当番表作りに騎士の悩み相談まで勝手に開始。
追い出せば泣く、士気は落ちる、そして何より――ヴァルド自身の休息が、彼女の存在に依存し始めていく。
無表情のまま「危ないから、ここにいろ」と命令し続ける団長に、周囲はざわつく。「それ、溺愛ですよ」
騎士団内ではついに“団長語翻訳係”まで誕生し、命令が全部“愛の保護”に変換されていく甘々溺愛コメディ!
《完結》「パパはいますか?」ある日、夫に似た子供が訪ねて来た。
ヴァンドール
恋愛
嫁いですぐに夫は戦地に赴いた。すると突然一人の男の子が訪ねて来た「パパはいますか?」
その子供の顔は戦地に行った夫にそっくりだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる