追放されたお姫様はおとぎ話のごとく優しい少年に救われたので恩返しします。

進藤 樹

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告白

〈そう、ボクは……恋をしていたんだ!〉

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 静まりかえったベンチで一人、慶汰は人差し指のネイルコアに触れた。

「……モルネア、聞こえるか?」
〈うん〉
「さっきの話、聞いてたか?」
〈……うん〉

 モルネアでも、返事を躊躇うことがあるようだ。

「俺、どうすればよかったのかな」
〈……ごめん、よくわかんないや〉

 いままでずっと間延びした喋り方だったのに、そうしてほしい時に限って、そうしてくれないらしい。

「俺さ、モルネアが玉手箱に吸い込まれた日の夜、悩んだんだ。アロップが、玉手箱を解析できなかったら、その時どうなっちゃうんだろうって」

 少し間を開けたが、モルネアは相槌を打たなかった。慶汰は続ける。

「でさ、思ったんだ。アロップならやってくれるって。だから、どれだけ時間がかかっても、そばで応援するって決めたんだ。たとえそれで、地上に残した家族と離ればなれになっても……」

 そこまで言って、慶汰はひとりでにフフっと笑った。

「姉さんを助けてもらうために、玉手箱の解析を頼んでるのに……それに間に合わなくても応援しようって、おかしな話だよな」
〈……おかしな話……なのかな……〉

 モルネアなりに、気を遣ってくれているのだろうか。矛盾があれば突っ込んでくるとばかり思っていただけに、慶汰は訝しみながらも、語りを続けた。

「もしかしたら、その時にはもう、俺はアロップに惚れていたのかも……ああ、自分でもわかんないや」

 慶汰は自分に相槌を打つように頷く。

「でも、それぐらいの覚悟で、俺はこっちに――竜宮城に来たんだ。……なのに、ああ言われちゃ、な……」

 はぁぁー、と大きく肩を落とした。

「今さらそんなこと伝えても、もっと気にさせるだけだろうし……」
〈アロップ、それはもう知ってるよ?〉
「え……?」

 ネイルコアから、メンダコのアバターが浮かび上がる。

〈薬事院で、まだボクが玉手箱に閉じ込められたままだった時、慶汰、玉手箱盗んだ犯人に似たようなこと怒鳴ってたでしょ〉

 言われて思い出す。その事件も、もう七日前のことだ。

「ああ、そういえばそうだったな……。つか、玉手箱の中でも声は届いてたのか?」
〈うん、竜宮城に入ってある程度龍脈が溜まった頃からね。玉手箱にはボクの発声に必要な機能がなかったから、お返事できなかったけど〉
「そうだったのか……で、アロップが聞いてたってのは?」
〈言葉通りの意味だよ。玉手箱を取り返すために駆けつけた時に、ちょうど慶汰がそう叫ぶところに居合わせて、アロップだけ外に飛び出していったって、シューティたちから聞いたもん〉
「なっ……。ま、まさか聞かれていたとは……」

 しばらく放心する。そうして、改めてアーロドロップの言葉を受け止めた。

「じゃあ、逆にプレッシャーを与えてたんだな、俺は……」

 モルネアが、触手の一本を上げる。

〈ねぇ、慶汰。質問いい?〉
「おう」
〈アロップはさ、慶汰のことが好きだって、何度も言ってたんだけど〉
「おっ……おおう」

 その話、聞いていいのだろうか。だがモルネアは一向に気にしない。

〈好きなら一緒にいたいって思うのが普通でしょ? なのになんで、アロップは慶汰と離ればなれになろうとするの?〉

 ――なんでそれをよりによって俺に聞く!? と叫びたい衝動をなんとか飲み込んで、慶汰の喉が鳴った。

「そりゃお前……アロップは俺のことが、す、好きだから、これ以上、迷惑かけたくないってことだろ」
〈慶汰がそれでもいいって言ったのに?〉
「ホント話振る相手くらい選んでくれよもう……!」

 あまりの気恥ずかしさに、慶汰は熱くなった顔面を両手で覆う。
 血圧があまりに高まって、脳が破裂しそうだ。慶汰はやけくそになって、思いつくままに答える。

「モルネア、お前にはわからないだろうけど、それが恋って気持ちなんだよ……! 好きな人のことを想うと、一緒にいたいし、胸張れる自分でいたいし、相手のためならなんでもしてやりたくなって、それがどれだけ矛盾しても、好きって気持ちに突き動かされて、自分でも理解できないことを言ったりしたりするんだよ……!」

 熱のこもった慶汰の吐息が、穏やかな夜風にさらわれる。まだ、火薬の香りがほのかに残っていた。
 風が凪いだ時、モルネアのメンダコのアバターに、不気味なノイズが走る。

〈それが、恋……うん。そっか。この気持ちが、恋なんだね……ああ……!〉

 音声もだ。幼き少年のような声に、低い男性の声や老齢な女性の声もミックスされている。

「も、モルネア……?」
〈そうだよ、そうなんだよ……そうだったんだよ……!〉
「だ、大丈夫か……?」

 モルネアの声が、二十代ほどの男性の声で安定する。

〈ああ、慶汰……今まで、苦労をかけてしまったね。本当にごめん〉
「お、おい……? 急にどうしちまったんだ?」
〈いや……ようやく、全てを思い出したんだ。そう、ボクは……恋をしていたんだ!〉

 突然何を言い出すかと思えば。

「え、誰に……アロップに……?」

 呆然としながら尋ねる。モルネアは、静かに答えた。

〈いや……アクアーシャ、というんだけど〉
「ホントに誰だよ!?」

 知らない人の名前だという感覚は、続くモルネアの声で覆される。

〈六〇〇年前……こっちの世界では一二〇〇年前、ボクに玉手箱をくれた、乙姫様の名前だよ〉
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