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めでたしめでたし
「そういうわけで、会いに来た」
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ある日の竜宮城、王城の書庫にて。
「ねぇモルネア。あたしはどうして机仕事なんてしているのかしら」
アーロドロップはつまらなさそうに、古い文献をペラペラとめくっていた。
人差し指のネイルコアが光って、幼き少年の声が答える。
〈そりゃ、玉手箱なんてとんでもないポテンシャルを秘めたものが実在するってわかったんだ。となれば、他にもそういうものがあってもおかしくない――なら調査しないと。でしょ?〉
「そりゃそうだけど……」
もっとも、浦島太郎がモルネアになったことについて解明したいという気持ちが、アーロドロップにはあった。その手がかりを探すついでとしては、悪くない仕事ではある。
「だからって、なんでそれを探すのがあたしたちシードランなわけ?」
読み終わった文献をパタンと閉じて、積み上げた書物の山に放るように乗せる。紙の塔がぐらぐらと揺れて、咄嗟に側にいたシュークティが手を添えた。
「ちょ、殿下……もう少し丁寧に扱ってくださいっス」
「理不尽だわ。あたしの扱いは全然丁寧じゃないのに」
その呟きを聞いて、近くの書棚で伝承を読みあさっているレックマンが、はぁと溜息を吐いた。
「うまいこと言ったつもりですか。集中してください、殿下。まだ休憩明けから一時間も経っていませんよ」
「仕方なかろう、ここ数ヶ月、ずっとこの調子で変化のない調べ物ばかりだからな」
ジャグランドも、別のテーブルで目頭を揉みながら、熱心に資料を読み込んでいる。
一人、記入表のボードを持ったイーリアスが、読み終えた資料のタイトルを書き写しながら、会話に加わった。
「たしかに長く感じますが、まだ四ヶ月です。外では帰還不可能な追放処分を受けた殿下の帰還ニュースが収まりきっていないので、もうしばらくお城の外に出るのは控えた方がよろしいかと」
「さては姉上、あたしを閉じ込めるためにこの仕事を押しつけてきたのね……!」
そう、アーロドロップが愚痴をこぼした瞬間。
書庫の扉が勢いよく開かれて、乙姫羽衣を身に纏った長身の少女が飛び込んできた。キラティアーズだ。
「――アロップ!」
アーロドロップは咄嗟に背筋を伸ばし、キラティアーズに両手を向ける。
「えっ姉上!? ち、違うんです今のは別に文句というわけではなく……!」
「文句? ……何の話だったのかは後ほど聞かせてもらうとして、今すぐ作業を中断して港に来てください」
「はい?」
チカチカと、アーロドロップのネイルコアが点滅する。
〈あ、ほんとだ。騒ぎの情報出回ってる。えーとなになに? 所属不明の潜水艦が一隻、外界から竜宮城に来訪……だって〉
「いったい何事よ……?」
昼下がりの竜宮城は、外界とを隔てる境界面の眩い輝きで照らされていた。
もしもに備え鉄扇を握ったアーロドロップが「道をあけなさい」と声を張れば、人混みがゆっくり蠢いて、岬への道が開かれる。
その向こうには、巨大な潜水艦が一隻、岬にタラップを下ろしていた。その下に、スーツ姿の若い美男美女が一組。見た感じ、彼らに龍脈の気配はない。
〈あ、慶汰だ〉
「はぁ⁉」
アーロドロップが素っ頓狂な声を上げた刹那、その男女が、ぱっと顔を明るく輝かせた。
「あぁ……そうか、俺は、アロップとまた会うために……!」
女性の方は見覚えがなかったが、青年の方は違う。
見た目の年齢感は、二十代半ばといった様子だが……目元や鼻筋、顔貌、その全ての面影が、あの地上の少年に、よく似ているのだ。
「う、うそ……ほんとに、慶汰、なの……!?」
驚愕して身体が動かなくなる。
――なぜ? 記憶は消したはずなのに。
――どうやって? 龍脈がないと入れないはずなのに。
疑問が頭を埋め尽くして、思考もままならない。
慶汰が、音が聞こえるほどに強く息を呑んだ。
「……おう。久しぶりだな、アロップ」
「……え、えぇ」
「あれから十年経ったが……たしかこっちじゃ、まだ半年も経ってないんだよな? わかっちゃいたけど、相変わらずあの時のままだな」
そう喋る慶汰の声は記憶のそれより低くて、重みがある。顔立ちや体つきも、数ヶ月前より精悍になっていて、男らしく見えた。どこか肌も焼けている。
そんな男の色気を直視するには、今のアーロドロップは幼すぎた。
「どうした? 顔赤いけど」
「き、気のせいよっ! それより、ど、どうしてここまで来れたのよ!? だいたい、あたしのことも竜宮城のことも、忘れさせたはずでしょ!?」
「ああ、それはだな――」
慶汰がちらりと隣に立つ女性を見やる。
「こうしてお顔を拝見するのは初めてですね。あたし、浦島海来と申します」
名前を聞いた瞬間、アーロドロップはハッとする。
「えっ……あぁ!」
たった二回しか……それも病院のベッドで眠っているところしか見ていなかったので、思い出したというより納得がいったような感覚だ。
「慶汰のお姉さん!?」
「はい。あの時は、私の命を救っていただいて、本当にありがとうございました!」
大きく頭を下げられて、アーロドロップは咄嗟に両手を胸の前に上げる。鉄扇を握りっぱなしだったことに気づいて、慌てて袖の中にしまった。
顔を上げた海来の笑顔は、とても幸せそうで……混乱していた心が、不思議と落ち着く。
「無事に意識を取り戻せたようで、なによりです。後遺症は……?」
「このとおり、元気です!」
スーツを見せびらかすように両腕を曲げて、軽そうにターン。元気な振る舞いに、自然とアーロドロップの頬がはにかんだ。
はにかんだまま、アーロドロップは慶汰の方を向いて、声を低くする。
「で、はぐらかさないでくれる? どうやってここまで来たのよ」
慶汰は「器用な奴め」と頬を引きつらせる。その隣で、海来が代わりに説明した。
「実は私、病院で寝たきり状態になっている時から、意識だけはありまして」
海来は子供っぽい笑顔をしながら、黒い長髪に手を当てた。
「え」
「なので、殿下が地上に来た際、慶汰と二人で竜宮城に行く時のお話や、戻ってきた際の報告も、一通り憶えていたんです」
予想外だと息を呑む。しかしそれでは説明がついていない。
「だとしても、それで慶汰が思い出せるはずが……! 記憶麻酔術で忘れた人を思い出すには、直接本人を見るか本人の声を聞くかしないと……!」
アーロドロップが目を向けた先、慶汰はどこか照れくさそうに、そっと唇を手で隠していた。
その仕草に気づいて、アーロドロップの体温が急上昇する。
――そういえば、慶汰の唇を奪ったのって、記憶麻酔術の後だったような……。
「ちゃんと思い出せたのは、今さっきさ。でも、その……俺には大切な人がいるってことは、だいぶ昔のうちに確信してた」
恥ずかしさに感極まって声が出せなくなる。そんなアーロドロップの揺れる瞳に、慶汰の熱い眼差しが重なった。
「こほん。まあ、なんだ……龍脈についても、姉さんのおかげで朧気ながらに思い出せてな。そうなればあとは地道な研究さ。高校と大学の時間全部費やして、龍脈を宿した深海生物の探し方を発見したんだ」
慶汰はそこまで言うと、わざとらしく咳払い。
「そういうわけで、会いに来た」
「ほへぁ!?」
ひっくり返った声を上げて、咄嗟にアーロドロップは口を両手で塞ぐ。
「あああ、会いに来たって、でも、でも……!」
どんどん心臓が高鳴っていく。
「だ、だとしても、地上はどうするつもりなの!? 時間差のピーク、これからなのよ!?」
アーロドロップ自身、どうしようもないことだと諦めていながら、どうにかできるならどうにかしたいと、何度も神様に願った世界の理。
どうにかする術を手に入れたからこそ、こうして会いに来てくれたのだろう。
そんな希望と期待を込めた眼差しを慶汰に送ると――慶汰は、真剣な顔をして、アーロドロップに言った。
「まさにそれについて、頼みたいことがある」
慶汰は右足を下げて、潜水艦の方へ身体を向けた。地上人の男が一人、木箱を抱えてタラップを下りてきている。
普通の加工法では製作不可能な、木の板一枚で作られた箱を、見間違えるわけがない。
「た、玉手箱……持ってきたの……?」
「植物状態の姉さんを目覚めさせることすらできたあの玉手箱なら、不可能なことも実現できそうな気がしてさ」
慶汰は後ろ髪を乱暴に指で梳きながら、悪戯のバレた子供のような笑顔を作った。
「アロップなら、なんとかできるんじゃないか?」
「……へ?」
ぽかん、と。まるで時間が止まったように、急な静寂が訪れる。
それでも、冷たいそよ風は吹いていて……アーロドロップのときめいて火照っていた顔が、急激に青ざめた。
「つまり無策で来たってこと!? バカなの!?」
「バカはないだろ……これでも深海調査関連でそれなりに有名になったんだが」
アーロドロップが絶句している間に、慶汰がタラップを下りてきた男性に「ありがとう、父さん」と声をかけ、玉手箱を受け取り、アーロドロップの元に戻ってくる。
「というわけで、頼むよ。発明王女様」
慶汰が、臆面もなく、玉手箱を差し出してきた。
アーロドロップの眉や頬や指先が、ぴくぴくと震える。
見れば、潜水艦からは何人もの大人たちが降りてきていた。彼らの脳天気に談笑する様子からは、とても竜宮城内で数時間過ごしただけで故郷が何日も過ぎることを理解しているようには思えない。
ただでさえ血の気の引いていたアーロドロップの顔が、どんどん真っ青になっていく。彼らの運命が、差し出された箱一つに詰まっているのだ。
「ああもう、どうなっても知らないからね!?」
お腹の底から声を張り上げて、アーロドロップはひったくるように玉手箱を受け取った。
◇
こうして、地上の男の子と深海のお姫様は、再会を果たしました。
慶汰とアーロドロップの歳の差は離れ、地上と竜宮城の時間差は刻一刻と広がり、地上に竜宮城の存在が知られて……と、問題は山積みな上に増えていく一方でしたが、それは、これからの二人を繋ぐお題目にもなりました。
それから二人は、共に手を取り合って、時に喧嘩もしながら、仲睦まじく将来を歩んでいくのでした。
めでたしめでたし。
「ねぇモルネア。あたしはどうして机仕事なんてしているのかしら」
アーロドロップはつまらなさそうに、古い文献をペラペラとめくっていた。
人差し指のネイルコアが光って、幼き少年の声が答える。
〈そりゃ、玉手箱なんてとんでもないポテンシャルを秘めたものが実在するってわかったんだ。となれば、他にもそういうものがあってもおかしくない――なら調査しないと。でしょ?〉
「そりゃそうだけど……」
もっとも、浦島太郎がモルネアになったことについて解明したいという気持ちが、アーロドロップにはあった。その手がかりを探すついでとしては、悪くない仕事ではある。
「だからって、なんでそれを探すのがあたしたちシードランなわけ?」
読み終わった文献をパタンと閉じて、積み上げた書物の山に放るように乗せる。紙の塔がぐらぐらと揺れて、咄嗟に側にいたシュークティが手を添えた。
「ちょ、殿下……もう少し丁寧に扱ってくださいっス」
「理不尽だわ。あたしの扱いは全然丁寧じゃないのに」
その呟きを聞いて、近くの書棚で伝承を読みあさっているレックマンが、はぁと溜息を吐いた。
「うまいこと言ったつもりですか。集中してください、殿下。まだ休憩明けから一時間も経っていませんよ」
「仕方なかろう、ここ数ヶ月、ずっとこの調子で変化のない調べ物ばかりだからな」
ジャグランドも、別のテーブルで目頭を揉みながら、熱心に資料を読み込んでいる。
一人、記入表のボードを持ったイーリアスが、読み終えた資料のタイトルを書き写しながら、会話に加わった。
「たしかに長く感じますが、まだ四ヶ月です。外では帰還不可能な追放処分を受けた殿下の帰還ニュースが収まりきっていないので、もうしばらくお城の外に出るのは控えた方がよろしいかと」
「さては姉上、あたしを閉じ込めるためにこの仕事を押しつけてきたのね……!」
そう、アーロドロップが愚痴をこぼした瞬間。
書庫の扉が勢いよく開かれて、乙姫羽衣を身に纏った長身の少女が飛び込んできた。キラティアーズだ。
「――アロップ!」
アーロドロップは咄嗟に背筋を伸ばし、キラティアーズに両手を向ける。
「えっ姉上!? ち、違うんです今のは別に文句というわけではなく……!」
「文句? ……何の話だったのかは後ほど聞かせてもらうとして、今すぐ作業を中断して港に来てください」
「はい?」
チカチカと、アーロドロップのネイルコアが点滅する。
〈あ、ほんとだ。騒ぎの情報出回ってる。えーとなになに? 所属不明の潜水艦が一隻、外界から竜宮城に来訪……だって〉
「いったい何事よ……?」
昼下がりの竜宮城は、外界とを隔てる境界面の眩い輝きで照らされていた。
もしもに備え鉄扇を握ったアーロドロップが「道をあけなさい」と声を張れば、人混みがゆっくり蠢いて、岬への道が開かれる。
その向こうには、巨大な潜水艦が一隻、岬にタラップを下ろしていた。その下に、スーツ姿の若い美男美女が一組。見た感じ、彼らに龍脈の気配はない。
〈あ、慶汰だ〉
「はぁ⁉」
アーロドロップが素っ頓狂な声を上げた刹那、その男女が、ぱっと顔を明るく輝かせた。
「あぁ……そうか、俺は、アロップとまた会うために……!」
女性の方は見覚えがなかったが、青年の方は違う。
見た目の年齢感は、二十代半ばといった様子だが……目元や鼻筋、顔貌、その全ての面影が、あの地上の少年に、よく似ているのだ。
「う、うそ……ほんとに、慶汰、なの……!?」
驚愕して身体が動かなくなる。
――なぜ? 記憶は消したはずなのに。
――どうやって? 龍脈がないと入れないはずなのに。
疑問が頭を埋め尽くして、思考もままならない。
慶汰が、音が聞こえるほどに強く息を呑んだ。
「……おう。久しぶりだな、アロップ」
「……え、えぇ」
「あれから十年経ったが……たしかこっちじゃ、まだ半年も経ってないんだよな? わかっちゃいたけど、相変わらずあの時のままだな」
そう喋る慶汰の声は記憶のそれより低くて、重みがある。顔立ちや体つきも、数ヶ月前より精悍になっていて、男らしく見えた。どこか肌も焼けている。
そんな男の色気を直視するには、今のアーロドロップは幼すぎた。
「どうした? 顔赤いけど」
「き、気のせいよっ! それより、ど、どうしてここまで来れたのよ!? だいたい、あたしのことも竜宮城のことも、忘れさせたはずでしょ!?」
「ああ、それはだな――」
慶汰がちらりと隣に立つ女性を見やる。
「こうしてお顔を拝見するのは初めてですね。あたし、浦島海来と申します」
名前を聞いた瞬間、アーロドロップはハッとする。
「えっ……あぁ!」
たった二回しか……それも病院のベッドで眠っているところしか見ていなかったので、思い出したというより納得がいったような感覚だ。
「慶汰のお姉さん!?」
「はい。あの時は、私の命を救っていただいて、本当にありがとうございました!」
大きく頭を下げられて、アーロドロップは咄嗟に両手を胸の前に上げる。鉄扇を握りっぱなしだったことに気づいて、慌てて袖の中にしまった。
顔を上げた海来の笑顔は、とても幸せそうで……混乱していた心が、不思議と落ち着く。
「無事に意識を取り戻せたようで、なによりです。後遺症は……?」
「このとおり、元気です!」
スーツを見せびらかすように両腕を曲げて、軽そうにターン。元気な振る舞いに、自然とアーロドロップの頬がはにかんだ。
はにかんだまま、アーロドロップは慶汰の方を向いて、声を低くする。
「で、はぐらかさないでくれる? どうやってここまで来たのよ」
慶汰は「器用な奴め」と頬を引きつらせる。その隣で、海来が代わりに説明した。
「実は私、病院で寝たきり状態になっている時から、意識だけはありまして」
海来は子供っぽい笑顔をしながら、黒い長髪に手を当てた。
「え」
「なので、殿下が地上に来た際、慶汰と二人で竜宮城に行く時のお話や、戻ってきた際の報告も、一通り憶えていたんです」
予想外だと息を呑む。しかしそれでは説明がついていない。
「だとしても、それで慶汰が思い出せるはずが……! 記憶麻酔術で忘れた人を思い出すには、直接本人を見るか本人の声を聞くかしないと……!」
アーロドロップが目を向けた先、慶汰はどこか照れくさそうに、そっと唇を手で隠していた。
その仕草に気づいて、アーロドロップの体温が急上昇する。
――そういえば、慶汰の唇を奪ったのって、記憶麻酔術の後だったような……。
「ちゃんと思い出せたのは、今さっきさ。でも、その……俺には大切な人がいるってことは、だいぶ昔のうちに確信してた」
恥ずかしさに感極まって声が出せなくなる。そんなアーロドロップの揺れる瞳に、慶汰の熱い眼差しが重なった。
「こほん。まあ、なんだ……龍脈についても、姉さんのおかげで朧気ながらに思い出せてな。そうなればあとは地道な研究さ。高校と大学の時間全部費やして、龍脈を宿した深海生物の探し方を発見したんだ」
慶汰はそこまで言うと、わざとらしく咳払い。
「そういうわけで、会いに来た」
「ほへぁ!?」
ひっくり返った声を上げて、咄嗟にアーロドロップは口を両手で塞ぐ。
「あああ、会いに来たって、でも、でも……!」
どんどん心臓が高鳴っていく。
「だ、だとしても、地上はどうするつもりなの!? 時間差のピーク、これからなのよ!?」
アーロドロップ自身、どうしようもないことだと諦めていながら、どうにかできるならどうにかしたいと、何度も神様に願った世界の理。
どうにかする術を手に入れたからこそ、こうして会いに来てくれたのだろう。
そんな希望と期待を込めた眼差しを慶汰に送ると――慶汰は、真剣な顔をして、アーロドロップに言った。
「まさにそれについて、頼みたいことがある」
慶汰は右足を下げて、潜水艦の方へ身体を向けた。地上人の男が一人、木箱を抱えてタラップを下りてきている。
普通の加工法では製作不可能な、木の板一枚で作られた箱を、見間違えるわけがない。
「た、玉手箱……持ってきたの……?」
「植物状態の姉さんを目覚めさせることすらできたあの玉手箱なら、不可能なことも実現できそうな気がしてさ」
慶汰は後ろ髪を乱暴に指で梳きながら、悪戯のバレた子供のような笑顔を作った。
「アロップなら、なんとかできるんじゃないか?」
「……へ?」
ぽかん、と。まるで時間が止まったように、急な静寂が訪れる。
それでも、冷たいそよ風は吹いていて……アーロドロップのときめいて火照っていた顔が、急激に青ざめた。
「つまり無策で来たってこと!? バカなの!?」
「バカはないだろ……これでも深海調査関連でそれなりに有名になったんだが」
アーロドロップが絶句している間に、慶汰がタラップを下りてきた男性に「ありがとう、父さん」と声をかけ、玉手箱を受け取り、アーロドロップの元に戻ってくる。
「というわけで、頼むよ。発明王女様」
慶汰が、臆面もなく、玉手箱を差し出してきた。
アーロドロップの眉や頬や指先が、ぴくぴくと震える。
見れば、潜水艦からは何人もの大人たちが降りてきていた。彼らの脳天気に談笑する様子からは、とても竜宮城内で数時間過ごしただけで故郷が何日も過ぎることを理解しているようには思えない。
ただでさえ血の気の引いていたアーロドロップの顔が、どんどん真っ青になっていく。彼らの運命が、差し出された箱一つに詰まっているのだ。
「ああもう、どうなっても知らないからね!?」
お腹の底から声を張り上げて、アーロドロップはひったくるように玉手箱を受け取った。
◇
こうして、地上の男の子と深海のお姫様は、再会を果たしました。
慶汰とアーロドロップの歳の差は離れ、地上と竜宮城の時間差は刻一刻と広がり、地上に竜宮城の存在が知られて……と、問題は山積みな上に増えていく一方でしたが、それは、これからの二人を繋ぐお題目にもなりました。
それから二人は、共に手を取り合って、時に喧嘩もしながら、仲睦まじく将来を歩んでいくのでした。
めでたしめでたし。
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