【完結】不貞された私を責めるこの国はおかしい

春風由実

文字の大きさ
8 / 37

8.どうしても私が悪女でなけば困るようです

しおりを挟む
 婚約破棄からの慰謝料を目的として私が最初から動いていたように感じさせる公爵様のご発言は、最後まで続きませんでした。
 この議会に参加されている皆様が、口々に声を荒げて、私を罵り始めたからです。


「これは婚約詐欺ぞ!」

「犯罪ではないか!早く引っ捕らえよ!」

「あれが貴族とは。情けない」

「聞けば、爵位も金で買ったそうではないか」

「あのような悍ましい娘を生む家の者たちに貴族など名乗らせてはならん」

「即刻、平民に落とせ!」

「貴族を騙る平民が、貴族を騙したのだ。決して許してはならんぞ」

「裁判など不要。すぐに民衆の前で処刑せよ!」


 皆様あれこれと口に出しているうちに、熱くなられてしまったのでしょうか。
 私にはそれが、自暴自棄にさえ感じられました。

 物騒な発言もありましたが、何より陛下への不敬な発言が気になります。
 ご自身が何を語ろうとしているか、今一度よく考えてからのご発言を願いたいものですね。

 けれども今さら考えまして、謝罪されたところで、言ってしまったことは覆りません。
 私には発言を無かったことにするような慈悲深さはありませんからね。
 王家はどうかしら?泣いて縋れば許していただけるのかしらね?


 もう十分に皆様のお顔は拝見しておりましたから、私は公爵様を見据えます。


 公爵様。
 あなたはあえて最後まで言わず、皆様を騒がせることにしましたね?
 この場に参加なさる皆様とは、はじめから口裏を合わせておいたのでしょう。

 だってまさか公爵様が『この国では侯爵家の長女に過ぎない私にも王女殿下を好きに出来る』とは言えませんものね。


 威勢よく発言されている皆様も、園遊会であったことはご存知なのだと思います。
 私への悪意ある言葉は止まりませんけれど、皆様揃って王女殿下に直接繋がるような発言を控えられているからです。

 女がすべて悪いと考える皆様ですから、私が慰謝料のために女性を用意したというお考えを本気で信じていたのであれば、その女性のことも罵っていておかしくはありませんのに、誰一人そのような発言をなさいませんでした。

 それでいて私の処刑には言及出来るとは。

 ただただこの方々を当主とする家の皆様が不憫でならないと思いました。
 それでも私は彼らを助けるつもりはございません。
 家族でもそうですが、家族でない他人の言動には、とても責任を持てませんからね。


 さて、その公爵様ですが。
 今や私の方を見てはおりませんでした。

 しきりに気にされ、視線を長く向けていらっしゃる相手は、別の御方です。
 それもお気持ちを窺うようにして、先までと同一人物とは信じられないほどに、頼りないお顔をされておりました。
 額には汗も浮かんでいますね。
 この会場は最初からひんやりとしておりまして、特に暑くは感じませんが、あの汗はどんなお気持ちの表れかしら?

 そこで私は、公爵様の視線の先にある御人が、ただの議長様ではないことを思い出しました。
 近くでお顔を拝見したことはなかったのですが、貴族名鑑でその絵姿だけは知っています。

 かなり昔の絵姿を使い続けているのでしょうね。
 絵姿の方が大分幼くて、すぐには気が付けませんでした。

 私としましたことが。
 この場に来るにあたっての調査不足と言えましょう。


 そうして私はやっと公爵様のお考えが理解出来たのです。

 公爵様は王家からすでにお咎めの言葉でも受け取っていたのでしょう。
 それで慌てて、何もかも私のせいにしなければと思い、今回の行動に出られたのだとお見受けします。

 どうやら慌て過ぎたようで、様々なことを失念されているようですね。
 お可哀想だとは思いますが、こちらも助けて差し上げる気持ちはございません。

 この場にわざわざ私を引っ張り出したことが、どれだけの失策か。
 それは公爵様ご自身で後悔してください。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄されたので、もう誰の役にも立たないことにしました 〜静かな公爵家で、何もしない私の本当の人生が始まります〜

ふわふわ
恋愛
王太子の婚約者として、 完璧であることを求められ続けてきた令嬢エリシア。 だがある日、彼女は一方的に婚約を破棄される。 理由は簡単だった。 「君は役に立ちすぎた」から。 すべてを失ったはずの彼女が身を寄せたのは、 “静かな公爵”と呼ばれるアルトゥール・クロイツの屋敷。 そこで待っていたのは―― 期待も、役割も、努力の強要もない日々だった。 前に出なくていい。 誰かのために壊れなくていい。 何もしなくても、ここにいていい。 「第二の人生……いえ、これからが本当の人生です」 婚約破棄ざまぁのその先で描かれる、 何者にもならなくていいヒロインの再生と、 放っておく優しさに満ちた静かな溺愛。 これは、 “役に立たなくなった”令嬢が、 ようやく自分として生き始める物語。

最後の誕生日会

まるまる⭐️
恋愛
「お父様のことを……お願いね……」  母は亡くなる間際、まだ小さかった私の手を握り締めてそう言った。  それから8年……。  母の残したこの言葉は、まるで呪文のようにずっと私の心を縛り付けてきた。  でも、それももう限界だ。  ねぇ、お母様。  私……お父様を捨てて良いですか……?  ****** 宮廷貴族ゾールマン伯爵家の娘アイリスは、愛する母を病気で亡くして以来、父ヨーゼフと2人肩を寄せ合い暮らしてきた。 そんな日々が続いたある日、父ヨーゼフはいきなり宰相から筆頭補佐官への就任を命じられる。それは次の宰相への試金石とも言える重要な役職。日頃からの父の働きぶりが認められたことにアイリスは大きな喜びを感じるが、筆頭補佐官の仕事は激務。それ以来、アイリスが父と過ごす時間は激減してしまう。 そんなある日、父ヨーゼフは彼の秘書官だったメラニアを後妻に迎えると屋敷に突然連れて帰って来た。 「彼女にはお前と一つ違いの娘がいるんだ。喜べアイリス。お前に母と妹が一度に出来るんだ! これでもう寂しくはないだろう?」 父は満面の笑みを浮かべながらアイリスにそう告げるが……。

初恋を諦めたあなたが、幸せでありますように

ぽんちゃん
恋愛
『あなたのヒーローをお返しします。末永くお幸せに』  運命の日。  ルキナは婚約者候補のロミオに、早く帰ってきてほしいとお願いしていた。 (私がどんなに足掻いても、この先の未来はわかってる。でも……)  今頃、ロミオは思い出の小屋で、初恋の人と偶然の再会を果たしているだろう。  ロミオが夕刻までに帰ってくれば、サプライズでルキナとの婚約発表をする。  もし帰ってこなければ、ある程度のお金と文を渡し、お別れするつもりだ。  そしてルキナは、両親が決めた相手と婚姻することになる。  ただ、ルキナとロミオは、友人以上、恋人未満のような関係。  ルキナは、ロミオの言葉を信じて帰りを待っていた。  でも、帰ってきたのは護衛のみ。  その後に知らされたのは、ロミオは初恋の相手であるブリトニーと、一夜を共にしたという報告だった――。 《登場人物》  ☆ルキナ(16) 公爵令嬢。  ☆ジークレイン(24) ルキナの兄。  ☆ロミオ(18) 男爵子息、公爵家で保護中。  ★ブリトニー(18) パン屋の娘。

【完結】この運命を受け入れましょうか

なか
恋愛
「君のようは妃は必要ない。ここで廃妃を宣言する」  自らの夫であるルーク陛下の言葉。  それに対して、ヴィオラ・カトレアは余裕に満ちた微笑みで答える。   「承知しました。受け入れましょう」  ヴィオラにはもう、ルークへの愛など残ってすらいない。  彼女が王妃として支えてきた献身の中で、平民生まれのリアという女性に入れ込んだルーク。  みっともなく、情けない彼に対して恋情など抱く事すら不快だ。  だが聖女の素養を持つリアを、ルークは寵愛する。  そして貴族達も、莫大な益を生み出す聖女を妃に仕立てるため……ヴィオラへと無実の罪を被せた。  あっけなく信じるルークに呆れつつも、ヴィオラに不安はなかった。  これからの顛末も、打開策も全て知っているからだ。  前世の記憶を持ち、ここが物語の世界だと知るヴィオラは……悲運な運命を受け入れて彼らに意趣返す。  ふりかかる不幸を全て覆して、幸せな人生を歩むため。     ◇◇◇◇◇  設定は甘め。  不安のない、さっくり読める物語を目指してます。  良ければ読んでくだされば、嬉しいです。

婚約破棄されたので、とりあえず王太子のことは忘れます!

パリパリかぷちーの
恋愛
クライネルト公爵令嬢のリーチュは、王太子ジークフリートから卒業パーティーで大勢の前で婚約破棄を告げられる。しかし、王太子妃教育から解放されることを喜ぶリーチュは全く意に介さず、むしろ祝杯をあげる始末。彼女は領地の離宮に引きこもり、趣味である薬草園作りに没頭する自由な日々を謳歌し始める。

婚約破棄された令嬢は、ざまぁの先で国を動かす ――元王太子の後悔が届かないほど、私は前へ進みます』

ふわふわ
恋愛
名門アーデン公爵家の令嬢ロザリーは、 王太子エドワードの婚約者として完璧に役目を果たしてきた――はずだった。 しかし彼女に返ってきたのは、 「聖女」と名乗る平民の少女に心酔した王太子からの一方的な婚約破棄。 感情論と神託に振り回され、 これまでロザリーが支えてきた国政はたちまち混乱していく。 けれど、ロザリーは泣かない。縋らない。復讐に溺れもしない。 「では、私は“必要な場所”へ行きますわ」 冷静に、淡々と、 彼女は“正しい判断”と“責任の取り方”だけで評価を積み上げ、 やがて王太子すら手を出せない国政の中枢へ――。 感情で選んだ王太子は静かに失墜し、 理性で積み上げた令嬢は、誰にも代替できない存在になる。 これは、 怒鳴らない、晒さない、断罪しない。 それでも確実に差がついていく、**強くて静かな「ざまぁ」**の物語。 婚約破棄の先に待っていたのは、 恋愛の勝利ではなく、 「私がいなくても国が回る」ほどの完成された未来だった。 ――ざまぁの、そのさらに先へ進む令嬢の物語。

言いたいことはそれだけですか。では始めましょう

井藤 美樹
恋愛
常々、社交を苦手としていましたが、今回ばかりは仕方なく出席しておりましたの。婚約者と一緒にね。 その席で、突然始まった婚約破棄という名の茶番劇。 頭がお花畑の方々の発言が続きます。 すると、なぜが、私の名前が…… もちろん、火の粉はその場で消しましたよ。 ついでに、独立宣言もしちゃいました。 主人公、めちゃくちゃ口悪いです。 成り立てホヤホヤのミネリア王女殿下の溺愛&奮闘記。ちょっとだけ、冒険譚もあります。

婚約破棄されるはずでしたが、王太子の目の前で皇帝に攫われました』

鷹 綾
恋愛
舞踏会で王太子から婚約破棄を告げられそうになった瞬間―― 目の前に現れたのは、馬に乗った仮面の皇帝だった。 そのまま攫われた公爵令嬢ビアンキーナは、誘拐されたはずなのに超VIP待遇。 一方、助けようともしなかった王太子は「無能」と嘲笑され、静かに失墜していく。 選ばれる側から、選ぶ側へ。 これは、誰も断罪せず、すべてを終わらせた令嬢の物語。 --

処理中です...