【完結】不貞された私を責めるこの国はおかしい

春風由実

文字の大きさ
30 / 37

30.彼女が婚約破棄を命じた本当の理由

しおりを挟む
 両親の出会いの場は、父に強烈なトラウマを残しつつも、なんとか収拾したそうで。

 父は急ぎ城から逃げ帰ると、すぐに私の曾祖父である商会長に相談したのですが。
 それは国を挙げての大騒動に発展してしまいました。

 帝国は父に爵位を与えるから、夫婦で帝国に住めと言ってくるし。
 祖国は父に爵位を与えるから、皇女を迎えて祖国に住めと言ってくるし。

 これに父は困りました。
 母に押されに押されすぐに絆された父も、商会を継ぎたい気持ちにだけは変化がなかったからです。
 下手に爵位などを得てしまったら、商売に支障となる可能性がありました。

 結局、父に惚れ込んだ母が伯父を脅迫……説得して、商会の支部長のうちは帝国に住むこと、いずれは商会を継ぐ予定だからその際に祖国に戻ること、爵位を得るかどうかは夫婦でじっくりと話し合い決めたい旨を、伯父に納得させたようですね。

 ですけれど伯父はいまだに不満たらたら、母への溺愛振りも変わらず、おかしなことばかり言っています。

『婿殿は無欲で困る。王配でも宰相でも、望むだけの地位を与えてやろうと思っていたというのにな』

 いまだ会うたびぼそぼそと繰り返し、母からの叱責を受けておりますが。
 伯父の話はさらにこう続きます。

『ローゼマリーはどうだ?そろそろ国が欲しくはならないか?』

 伯父は瞳をきらきらと輝かせ、私に問うのです。
 あんなに愛する母のため息を聞こえないものとして。

『祖国に拘らなくてもいいのだぞ。他のどの国でも構わない。ほら、欲しがっていた真珠の採れるあの国はどうだ?何?商会の仕事として良質な真珠が欲しいだけで土地は要らぬと?国ごと奪えばいいではないか。そんな面倒なものがあっては商売の邪魔になるだと?ふーむ。あの男に似て、そなたも無欲に育ったな。ではあの特殊な宝石が採れる鉱山を抱えた……』

 と、長々と妄想に近い伯父の話は続きまして。
 最後に伯父はにこりと微笑み、必ずこう言います。

『生まれた国など要らぬとなれば言ってくれ。あの国はどうも……うん、微妙なところにあってな。私としては、ローゼマリーが治めた方がずっと良き国になろうと考えているのだよ。何だ、まだ政には興味がないか?アニスもいるしだと?ふむ。されど、あいつも国政には興味がないと言っていよう。それにもし興味を持てばだな。すぐにでも次期皇帝に指名してやりたいと思っているのだ。アニスまであちらの国に取られては都合が悪い』

 アニスとは弟のことです。

 伯父にも子どもは沢山いるのですが、何故かうちの弟を次期皇帝にしたいと言い続けておりまして。
 弟に帝位への興味はなく、順当にいけば次期皇帝となるであろう従兄弟たちとも仲良しですから、有難いことに皇位継承権を懸けた血で血を洗う争いなんてことにはならずに済んでいるのですが。

 世が世なら、この伯父の一言で醜悪な世継ぎ争いに発展していたことでしょう。
 伯父が普段真面?であるがゆえに、母が絡んだときの伯父に関しては、「また例のあれでご乱心だ」と誰も相手にしなくなっていたことが良かったのかもしれません。
 でなければ、私たちもどうなっていたか。


 というわけで、私たちの存在は帝国ではよく知られておりまして、皆様からは皇族の一員として扱われる場合も多いのです。
 おかげさまで過ごしやすいような、かえって商売がしにくいような、微妙な環境に身を置いているのですが。

 伯父のおかげか、私たちを良からぬ方向に利用しようと考える方は帝国内にはあまりいらっしゃいません。
 それが露呈した際に何が起こるかと考えますと、悪いことを考える方々はかえって私たちに近寄らない選択をするようですね。

 逆に周辺国には、私たちを利用したいと考える方もまだ多くいらっしゃるとか。
 攫って交渉用の人質にしようと計画されるようなこともたびたび起きていたそうですが、すべては私たちの知らぬ間に対処されていて、こちらも有難いことには私や弟が知るところにはありません。
 近年ではそのような考えがその身どころか国を滅ぼすと理解されるようになってきて、目立って行動される方も減っているとのこと。
 だから私たちも気を緩めていたところだったのですよ。


 それなのに、何故でしょうか。
 
 私たちが最も大事に想う国の方々が、私たちの事情を理解されておらず。
 あのような婚約破棄の騒動を起こしてしまうだなんて。

 それも理由が──。

『この国で一番の姫でいたかったのよ』

 知ってしまっては、なおのこと彼女を認めることが出来ませんでした。
 

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄されたので、もう誰の役にも立たないことにしました 〜静かな公爵家で、何もしない私の本当の人生が始まります〜

ふわふわ
恋愛
王太子の婚約者として、 完璧であることを求められ続けてきた令嬢エリシア。 だがある日、彼女は一方的に婚約を破棄される。 理由は簡単だった。 「君は役に立ちすぎた」から。 すべてを失ったはずの彼女が身を寄せたのは、 “静かな公爵”と呼ばれるアルトゥール・クロイツの屋敷。 そこで待っていたのは―― 期待も、役割も、努力の強要もない日々だった。 前に出なくていい。 誰かのために壊れなくていい。 何もしなくても、ここにいていい。 「第二の人生……いえ、これからが本当の人生です」 婚約破棄ざまぁのその先で描かれる、 何者にもならなくていいヒロインの再生と、 放っておく優しさに満ちた静かな溺愛。 これは、 “役に立たなくなった”令嬢が、 ようやく自分として生き始める物語。

最後の誕生日会

まるまる⭐️
恋愛
「お父様のことを……お願いね……」  母は亡くなる間際、まだ小さかった私の手を握り締めてそう言った。  それから8年……。  母の残したこの言葉は、まるで呪文のようにずっと私の心を縛り付けてきた。  でも、それももう限界だ。  ねぇ、お母様。  私……お父様を捨てて良いですか……?  ****** 宮廷貴族ゾールマン伯爵家の娘アイリスは、愛する母を病気で亡くして以来、父ヨーゼフと2人肩を寄せ合い暮らしてきた。 そんな日々が続いたある日、父ヨーゼフはいきなり宰相から筆頭補佐官への就任を命じられる。それは次の宰相への試金石とも言える重要な役職。日頃からの父の働きぶりが認められたことにアイリスは大きな喜びを感じるが、筆頭補佐官の仕事は激務。それ以来、アイリスが父と過ごす時間は激減してしまう。 そんなある日、父ヨーゼフは彼の秘書官だったメラニアを後妻に迎えると屋敷に突然連れて帰って来た。 「彼女にはお前と一つ違いの娘がいるんだ。喜べアイリス。お前に母と妹が一度に出来るんだ! これでもう寂しくはないだろう?」 父は満面の笑みを浮かべながらアイリスにそう告げるが……。

初恋を諦めたあなたが、幸せでありますように

ぽんちゃん
恋愛
『あなたのヒーローをお返しします。末永くお幸せに』  運命の日。  ルキナは婚約者候補のロミオに、早く帰ってきてほしいとお願いしていた。 (私がどんなに足掻いても、この先の未来はわかってる。でも……)  今頃、ロミオは思い出の小屋で、初恋の人と偶然の再会を果たしているだろう。  ロミオが夕刻までに帰ってくれば、サプライズでルキナとの婚約発表をする。  もし帰ってこなければ、ある程度のお金と文を渡し、お別れするつもりだ。  そしてルキナは、両親が決めた相手と婚姻することになる。  ただ、ルキナとロミオは、友人以上、恋人未満のような関係。  ルキナは、ロミオの言葉を信じて帰りを待っていた。  でも、帰ってきたのは護衛のみ。  その後に知らされたのは、ロミオは初恋の相手であるブリトニーと、一夜を共にしたという報告だった――。 《登場人物》  ☆ルキナ(16) 公爵令嬢。  ☆ジークレイン(24) ルキナの兄。  ☆ロミオ(18) 男爵子息、公爵家で保護中。  ★ブリトニー(18) パン屋の娘。

【完結】この運命を受け入れましょうか

なか
恋愛
「君のようは妃は必要ない。ここで廃妃を宣言する」  自らの夫であるルーク陛下の言葉。  それに対して、ヴィオラ・カトレアは余裕に満ちた微笑みで答える。   「承知しました。受け入れましょう」  ヴィオラにはもう、ルークへの愛など残ってすらいない。  彼女が王妃として支えてきた献身の中で、平民生まれのリアという女性に入れ込んだルーク。  みっともなく、情けない彼に対して恋情など抱く事すら不快だ。  だが聖女の素養を持つリアを、ルークは寵愛する。  そして貴族達も、莫大な益を生み出す聖女を妃に仕立てるため……ヴィオラへと無実の罪を被せた。  あっけなく信じるルークに呆れつつも、ヴィオラに不安はなかった。  これからの顛末も、打開策も全て知っているからだ。  前世の記憶を持ち、ここが物語の世界だと知るヴィオラは……悲運な運命を受け入れて彼らに意趣返す。  ふりかかる不幸を全て覆して、幸せな人生を歩むため。     ◇◇◇◇◇  設定は甘め。  不安のない、さっくり読める物語を目指してます。  良ければ読んでくだされば、嬉しいです。

婚約破棄されたので、とりあえず王太子のことは忘れます!

パリパリかぷちーの
恋愛
クライネルト公爵令嬢のリーチュは、王太子ジークフリートから卒業パーティーで大勢の前で婚約破棄を告げられる。しかし、王太子妃教育から解放されることを喜ぶリーチュは全く意に介さず、むしろ祝杯をあげる始末。彼女は領地の離宮に引きこもり、趣味である薬草園作りに没頭する自由な日々を謳歌し始める。

婚約破棄された令嬢は、ざまぁの先で国を動かす ――元王太子の後悔が届かないほど、私は前へ進みます』

ふわふわ
恋愛
名門アーデン公爵家の令嬢ロザリーは、 王太子エドワードの婚約者として完璧に役目を果たしてきた――はずだった。 しかし彼女に返ってきたのは、 「聖女」と名乗る平民の少女に心酔した王太子からの一方的な婚約破棄。 感情論と神託に振り回され、 これまでロザリーが支えてきた国政はたちまち混乱していく。 けれど、ロザリーは泣かない。縋らない。復讐に溺れもしない。 「では、私は“必要な場所”へ行きますわ」 冷静に、淡々と、 彼女は“正しい判断”と“責任の取り方”だけで評価を積み上げ、 やがて王太子すら手を出せない国政の中枢へ――。 感情で選んだ王太子は静かに失墜し、 理性で積み上げた令嬢は、誰にも代替できない存在になる。 これは、 怒鳴らない、晒さない、断罪しない。 それでも確実に差がついていく、**強くて静かな「ざまぁ」**の物語。 婚約破棄の先に待っていたのは、 恋愛の勝利ではなく、 「私がいなくても国が回る」ほどの完成された未来だった。 ――ざまぁの、そのさらに先へ進む令嬢の物語。

言いたいことはそれだけですか。では始めましょう

井藤 美樹
恋愛
常々、社交を苦手としていましたが、今回ばかりは仕方なく出席しておりましたの。婚約者と一緒にね。 その席で、突然始まった婚約破棄という名の茶番劇。 頭がお花畑の方々の発言が続きます。 すると、なぜが、私の名前が…… もちろん、火の粉はその場で消しましたよ。 ついでに、独立宣言もしちゃいました。 主人公、めちゃくちゃ口悪いです。 成り立てホヤホヤのミネリア王女殿下の溺愛&奮闘記。ちょっとだけ、冒険譚もあります。

婚約破棄されるはずでしたが、王太子の目の前で皇帝に攫われました』

鷹 綾
恋愛
舞踏会で王太子から婚約破棄を告げられそうになった瞬間―― 目の前に現れたのは、馬に乗った仮面の皇帝だった。 そのまま攫われた公爵令嬢ビアンキーナは、誘拐されたはずなのに超VIP待遇。 一方、助けようともしなかった王太子は「無能」と嘲笑され、静かに失墜していく。 選ばれる側から、選ぶ側へ。 これは、誰も断罪せず、すべてを終わらせた令嬢の物語。 --

処理中です...