何の取り柄もない営業系新入社員の俺が、舌先三寸でバケモノ達の相手をするはめになるなんて。(第二部) Dollhouse ―抱き人形の館―

二式大型七面鳥

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第六章:金曜、それぞれの思惑、それぞれの決意

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「え、八課からは一人だけなんですか?」
 朝礼の直後、いつものキザシで待ち合わせ場所の警視庁の駐車場に待機していた酒井と蒲田の前に現れた、酒井と同じくらいの年格好の刑事を見て、蒲田は開口一番に思わず聞いてしまった。
「え?いや、はい、私だけです。お世話になります、熊川巡査部長です、よろしくお願いします」
「こちらこそ、酒井です」
「すみません、失礼しました、蒲田巡査長です、よろしくお願いします」
「じゃあ、とっとと行こうか」
「はい、よろしくお願いします。あの、酒井さんは……」
 昇進して既に半年以上経つのに、まだ自分が警部であると言うことに若干の違和感を感じている酒井は、ついこういう時に自分の階級を飛ばしてしまう。
「酒井さんは警部です」
 運転席に座りながら、蒲田が答えた。
「え、じゃあ、あの……」
 全く自然に助手席に乗ろうとしている酒井を見て、熊川が後部座席ドアかけた手を離して逡巡している。
「あ、ああ、済まん」
 階級や年功序列から、こういう場合はたいがい上位者が後部座席に座る。が、酒井は駐在所時代はほとんど自分で運転していたし、分調班に移ってからも蒲田と二人で動くことが多く、大抵は助手席、三回に一回くらいは自分で運転していたりもする。なのでつい助手席に回ってしまったが、そうか、警視庁ともなるとそのあたりは……と気付く。
「あ、いえ、どうぞお好きな所に」
「済まんね、どうも後ろは落ち着かなくてね」
「いえ、うちのキャップもそうなんで、問題ありません、では、失礼します」
 そう言って、熊川は後部座席に収まる。
 八課の責任者は榊警視と言ったか、たたき上げだと聞いたが……酒井は、蒲田から以前聞いたそんな情報を思い出した。

「それで、改めて聞くが、八課からは熊川君一人?」
 霞ヶ関からすぐに首都高に入り、都心環状内回りから1号羽田線、5号大黒線を経由して湾岸線本牧ふ頭出口を目指す車の中で、走り出してすぐに酒井は熊川に聞いた。
「はい、今日の家宅捜査の主体は赤坂署の組織犯罪対策課ですので、八課はあくまでお目付役です」
「なるほどね……」
 昨日、蒲田と帰庁してから打ち合わせた時の資料にもあったが、赤坂署が相当入れ込んでいるってのはこの事か。地方警察出身の酒井としても、そのあたりは色々と思い当たる節がある。赤坂署としては、管内で起きた襲撃事件であり、異様な風体の人形をそっち専門の八課と、八課経由で警察庁の分調室にぶん投げたとは言え、襲撃された相手である野槌会と淵野辺連合という新進気鋭の反社組織については自分の所で抑える気満々ということか。とはいえどちらも組事務所は神奈川県、そのあたりの話を通すのに手間をかけて今日の家宅捜査処分遂行と相成ったわけか。
 月曜に速攻でガサ入れとけば、もう少しは早く動けたかもしれんが……まあ、警察は縦割り社会だ、管轄割るなら仕方ないという事か……酒井は、普段ならそれで納得するはずの家宅捜査執行の遅延を納得出来ないのは、自分の中に焦りがあるせいである事は気付いていた。
「……淵野辺連合の方は、誰か行っているのかな?」
「いえ、そっちは行かなくて良いとキャップが」
「あー……」
 なるほど。あくまでヤバイのは野槌会だけと八課は判断したわけか。酒井は即座に納得する。
「何しろ、先日の襲撃は襲撃犯の車が着いてから犯人グループが料亭の壁を飛び越えて離脱するまで十分かかってませんし、そっちの手がかりは未だに掴めてませんし。どっちの組織も面子丸つぶれらしいんですが、マルボーの人たちは末端の販売ルート上げるチャンスだって盛り上がってるそうです」
 そりゃそうだろう。あれだけ外連味たっぷりの事をやらかしておけば当事者グループだけでなく、取り引きのある団体は片っ端からビビリが入るに違いない。頭のいい奴は貝のようにだんまりを決め込むだろうが、腰の据わってないのはあちこちで余計な動きをしてボロを出す。そこを抑えるか、泳がせてさらに大きい得物を狙うか、いずれにしてもその突破口としては申し分ない、暴対としては思ってもないタナボタって所だろう。
 酒井がそんなようなことを言うと、熊川も頷いて、
「その通りです、なんで、襲撃犯の方は一応おざなりに捜査するカッコだけつけて放置して、またやってくれないかなんて言ってるヤツも居るくらいです」
 警官としてはどうかと思わなくもないが、本音としてはそれも理解出来る。拳銃やら刃物やらが出てきて不法所持で現行犯逮捕された構成員に対し、が使ったのはトンファや木刀、証言こそあれ現行犯逮捕出来てないから、万一任意同行出来てもシラを切り通されたら立件は難しいだろう。だったら、実入りの少ない仕事より美味しい仕事したいのは世の常ってもんだ。
 まさか犯人グループと顔見知りだ、などとは口が裂けても言えないので、そこの所は誤魔化しつつそんなような事を酒井と蒲田が言い、熊川も暗に同意する。どうやらこの熊川という巡査部長は人見知りしないタイプのようだ。
「……とはいえ、その人形に関しては逆に分からないことだらけなんですが……今更ですが、そちらにお任せしてしまってよろしかったんでしょうか?」
「まあ、そこのところは、はい。分調班は、その為の部署ですから」
 あっけらかんと、蒲田が答えた。
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