何の取り柄もない営業系新入社員の俺が、舌先三寸でバケモノ達の相手をするはめになるなんて。(第二部) Dollhouse ―抱き人形の館―

二式大型七面鳥

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第六章:金曜、それぞれの思惑、それぞれの決意

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「あれ、どういう意味なんでしょう?」
 キザシの運転席で、慌て気味にシートベルトを付けながら蒲田が酒井に尋ねる。
「書いてある通りだろう、北条君も誘拐されたって事さ!」
 酒井も、気がせくのかシートベルトを上手くはめられない。
「やっぱ、同じ連中に?」
「だろうな!」
 ようやっと二人はシートベルトを装着する。蒲田は、セレクトレバーをドライブに入れ、サイドブレーキに手をかける。
「出します!」
「おう」
「それじゃあ、お願いします」
 一瞬の空白。
 あってはならないものを見る目つきで、ゆっくりと同時に後部座席を振り向いた酒井と蒲田は、そこに熊川警部補がきちんとシートベルトを着用して座っているのを発見した。

 西条玲子からのメールを受け、酒井は即座に本日のガサ入れの主役である警視庁組織犯罪対策部第四課の責任者に断りを入れる。曰く「緊急の事案発生により、至急帰庁の要請が出た。慚愧の念に堪えないが、この場はお任せしてそちらに向かわせていただきたいがよろしいか」と。
 ソタイ――組織犯罪対策部あるいは課の略称――としても、得体の知れない八課や分調班がいても正直仕事の邪魔なので、内心は願ったり、というのを隠そうとして隠しきれない表情で二つ返事でこれを了承、同様内容を八課から派遣されている熊川警部補に伝えた蒲田と駐車場で合流、押っ取り刀で玲子から連絡のあった北条柾木のワンルームマンションに向かう、はずだった。

「いやあ、なんか予定してたのとやってることが違うっぽいってキャップに連絡したらですね、だったらいいからとっとと帰って来ちまえってキャップ激怒りで。そしたら皆さんもお帰りになるって伺いまして」
 よく言えば肩の力の抜けた、悪く言えばダレた空気の中で、酒井は熊川の説明を聞く。
 調子いいなこいつ。いやしかし、このタイミングでこうやってスルッと入ってこれる無神経さというか面の皮の厚さというか、これはやろうと思ってやれるものではない、ある意味天才かも知れない。
 酒井は、熊川を派遣した八課のキャップの恐ろしさを垣間見た気がした。
「なので、はい、一旦本庁に熊川警部補を送ってから行きます、酒井さん、いいですよね?」
「まあ、大して遠回りって事でもないんだろ?それに、丁度いいから熊川君、八課の方に事情を連絡してくれないか?」
「はい、それは勿論大丈夫です」
 熊川の返事はいい。
「じゃあ、我々はこれから、この事案の重要参考人に会いに行くんだが、場合によっては八課にも応援を頼むかもしれん。今から経緯を話すから、よく聞いていてくれ」
「この事案って、野槌のづち淵野辺ふちのべの襲撃の件ですか?」
 イマイチ飲み込めないのか、熊川が聞き返す。分調班に重要参考人のアテがあるのが腑に落ちないのかも知れない。
「勿論そうだ。そもそも今回、君たち八課や俺たち分調班が動くことになったのは何故だ?」
「それは……襲撃現場に不審な人形があったから、です」
「そうだ。マル暴やソタイは人形にはあまり興味がなくて、ヤクザの抗争の線で見てるみたいだが、少なくとも俺たち分調班の興味はそこにはない」
 自分の中の情報を整理する意味も兼ねて、酒井は熊川に説明する。
「手打ちが襲撃されたのは、警告の意味が強いと俺たちは見ている。襲撃犯の意図は、こいつらに関わると同じ目に遭わせるぞ、っていうのが俺たちの推定だ」
 まさか、その襲撃犯と顔見知りどころか昵懇じっこんだとは、口が裂けても言えない。
「で、だ。襲撃犯の真の目的は、その人形、そいつが、というかその人形を使って組織を牛耳ろうとしていた奴をあぶりだそうって腹だろう、とも推定している。猟犬を突っ込ませて穴熊を飛び出させようって事だ」
 突っ込んだのは猟犬ならぬ人狼、しかも四匹というか四人だが。
「ええと、つまり……」
「俺たちの目的も、チンピラのシノギなんかどうでもよくて、その後ろに居て文字通り糸を引いている奴、って事だ。マル暴ソタイとは目的が違う。丁度いいから聞きたいんだが、そこんとこ、八課はどう見てるんだ?」
「え?ええっと……」
 急に聞かれるとは思っていなかったらしい熊川は、ちょっとうろたえて考え込む。
「話すなと言われてるなら言わなくても良いが……」
「いえ、そうじゃなくて。キャップは、この件は深入りしなくて良い、何か出てきたらあらためて人を割くって言ってました……マル暴の連中が手に負えなくて泣きついてくるまでほっとけって」
 なるほど。そりゃそうだ、八課は既に二人も行方不明者が出ている事実は掴んでいないはず……いや、もしかしたら俺たちも知らない所でもっと行方不明者がいるかも知れないが。
 酒井は、八課のキャップの思考を少し辿ってみる。
 多分、いいとこ取りしようっていう各方面の圧力にそこそこ嫌気がさしてるんだろう。OK、だったら、こっちに協力してもらえるかもしれない、上手くいけば花を持たせられるかも知れない。少なくとも俺は実が取れれば良い、名はいらないから、上手いことやって八課に貸しを作れればその方が後々こっちも得になる。
「わかった、じゃあ、とっておきを教える。まだ捜査中だが、多分野槌も淵野辺も利用されてるだけで、その人形使いが黒幕だ」
「え、じゃあ、もう目星がついてるんですか?」
 この熊川警部補、いまいち人柄が掴めんが、やはり警官だ。喰いついてきた。
「いや、残念ながらまだそこまで行ってはいない。だが、複数の誘拐や窃盗がそいつに繋がっているらしい、って所までは分かってる」
「……わかりました、これからその参考人に会うって事なんですね?もしかして、さっき、誘拐って言ってたのも関係してるって事ですね?」
「ご名答だ。そこで、だ。俺たちはなにぶん本来は捜査や逮捕はしない部署だ、人手もまるで足りない。だから、もう少し容疑が固まったら八課に応援要請するから、手伝って欲しいって伝えて欲しい。出来れば、口頭でいいからその返事を聞かせてくれ。OKなら書類と資料まとめて説明に行くからって」
「わかりました。そういうことなら……」
 熊川は、その後の言葉は言わなかったが、酒井は聞かずとも言いたいことは分かった、と思った。
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