何の取り柄もない営業系新入社員の俺が、舌先三寸でバケモノ達の相手をするはめになるなんて。(第二部) Dollhouse ―抱き人形の館―

二式大型七面鳥

文字の大きさ
101 / 141
第七章:決戦は土曜0時

100

しおりを挟む
 ……なんだ、これは。
 酒井源三郎さかい げんざぶろう警部は、急に胸の奥で沸き起こった焦燥感に戸惑っていた。
 胸の奥がムズムズする。何かしたくてたまらないが、何をしたいのかがわからない。横を見れば、蒲田浩司かまた こうじ巡査長も困ったような顔でこちらを見ている。
「大丈夫ですか!玲子さん!」
 その声に気付いた酒井が振り向くと、北条柾木が、胸を押さえて呻きつつしゃがみ込んでしまった西条玲子の肩を抱くようにしてかがみ込み、介抱している。
「……こりゃあ、なんか仕掛けられてた、か?……」
 滝波信仁たきなみ しんじは、隊列の殿しんがりに回ってあたりを警戒している。
「……だわね。あんたたち、大丈夫?」
 その信仁のすぐ側に居る蘭円あららぎ まどかは、信仁の言葉を引き取り、そして孫達に声をかける。
「……あたしはまあ、ちょっとイライラするだけ?どっちかってーと逆にイライラをぶつけたくてたまんない感じ?」
 かおるが、トンファーを握り直しながら言う。
「っとにもう。まあ、それがアタシ達なんだけどね……」
 かじかが、やれやれとため息をつきつつ、
「……でも、アタシにはちょっと効いてるわよ。上手くイメージが練れないもの」
 腰に手を当て、フンスと鼻息をつく。
「何よだらしない……」
 円も、軽くため息をつく。
「……どういう事、ですか?」
 ほぼ先頭に居る蒲田が、振り向いて円に聞く。
「嵌められたって事よ。さっき巴が斬ったのは囮の結界、あたし達が入るのを待って本チャン立ち上げやがったのよ。ったく、やってくれるわ」
「じゃあ……」
「別にピンポイントであたし達を狙ったわけじゃないと思うけどね、これ、中に入った術者に術を使わせない、嫌がらせの結界よ……巴、あんたは大丈夫?」
 声をかけられた巴は、ちょっと不機嫌そうに、無言で木刀を横薙ぎに振る。鈍色にびいろ、ではなく、もっと白い斬撃が飛び、少し離れた門扉脇のコンクリ壁にぶち当たり、その表面の苔と汚れが飛び散る。
「……念が練れてないじゃない?未熟ねぇ……」
「返す言葉もないわよ、あーもう腹立つ!」
 巴は、もう一度、感情の高ぶりのままに木刀を薙いだ。

 人狼達のやりとりを背中で聞きながら、柾木は玲子の肩に手を置き、その顔をのぞき込む。ベールの奥の瞳は、暗がりである事もあってまるで見えないが、苦しげに目を閉じているのが柾木には分かる。
「玲子さん……」
「……大丈夫です、ご心配なく……」
 玲子は、唾を飲み込み、頑張って立ち上がる、ふらつく足を踏ん張り、柾木の腕を支えにして。
 ……この雰囲気は、未練。何かしらこの世に残して逝った人たちの、未練……
 玲子は、いつの間にか、そういう事が分かるようになっている自分に気付き、それを不思議に思い、そして、すぐにその原因にも気付く。
 気付いて、柾木に触れている手にわずかに力を込める。
 その手から伝わる温もりが、玲子の体の芯に染み渡る。
 ――気付かせてくれたのは、あなた――
 玲子は、顔を上げ、目を開ける。
 柾木の目を、まっすぐ見据えて。
 つかの間見つめ合った玲子と柾木の後ろで、誰かの声がし、何かを振る風切り音がし、そして何か、酷く大きな音がした。

 感情の高ぶりのままに薙がれた巴の木刀からはしった白い斬撃――衝撃波は、当てても大丈夫そうなものを無意識に狙ったのだろう、ロールコンテナ――車体から切り離し可能な、ほとんどが無天蓋型で鋼鉄製の、ダンプのそれによく似たトラックの荷台――に命中し、轟音と共に中身の段ボール辺が飛び散った。そして。
 ……ぼて。
 人民服に人民帽、手にはヌンチャクらしきものを持った、防犯灯の頼りない明かりの下でも分かる土気色の顔をした中年男性が、明らかに衝撃波に弾かれて隠れていたロールコンテナの向こう側からはみ出し、地面にこぼれ落ちてこけた。
「……はい?」
 玲子に気を取られており、巴が木刀を振ったのに気付かなかったために完全に隙を突かれ、轟音に心底驚いて振り返った柾木が、間の抜けた声を出す。
 その声に、柾木に向かって二度三度申し訳なさそうに頭を下げると、その中年男性は再びロールコンテナの向こうに姿を消す。
 ――いやいやいやいや。
 全員が、心の中で突っ込む。
「えっと。これって、つまり……」
 蒲田が、誰にともなく聞く。
「待ち伏せでしょ?してないわけないと思ってたけど……」
「大方、こっちが都合良い位置に来るまで待ってたって事?」
「静かすぎるとは思ってたのよのねぇ……」
 三姉妹が、下から順に感想を述べる。
「……作戦変更ね。封印の上書きはあたしがするわ」
 円が、祓串を仕舞いながら言う。
「信仁君は、刑事さん達のバックアップ。玲子ちゃんは……」
わたくしも、時田と袴田を探します」
 ぱっと円に振り向いた玲子が、食い気味にそう宣言する。一瞬気圧された円は、
「……OK。じゃあ、先に本丸落しちゃいましょ」
 明かり取り越しに、内部に電灯がついていることが伺える奥の倉庫を見つめ、言う。
 駐車エリアのあちこちに置かれたコンテナの影から、ぱらぱらと人影が出てくる。
「刑事さん達と玲子ちゃん柾木君は倉庫に突入、巴と信仁君がバックアップ。馨と鰍は突破口開いてから陽動、あたしは封印の上書き、それでいい?」
 一同を見渡した円に、全員から肯定の頷きが返る。それを確認した円は、どんどん増える人影に目を移し、言った。
「……じゃあ、GO!」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! 仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。 カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

義務ですもの。

あんど もあ
ファンタジー
貴族令嬢の義務として親の決めた相手に嫁いだが、夫には愛する人がいた。夫にないがしろにされても、妻として母として嫁としての義務を果たして誠実に生きたヒロインの掴んだ、ちょっと歪んだ幸せとは。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

MP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

相続した畑で拾ったエルフがいつの間にか嫁になっていた件 ~魔法で快適!田舎で農業スローライフ~

ちくでん
ファンタジー
山科啓介28歳。祖父の畑を相続した彼は、脱サラして農業者になるためにとある田舎町にやってきた。 休耕地を畑に戻そうとして草刈りをしていたところで発見したのは、倒れた美少女エルフ。 啓介はそのエルフを家に連れ帰ったのだった。 異世界からこちらの世界に迷い込んだエルフの魔法使いと初心者農業者の主人公は、畑をおこして田舎に馴染んでいく。 これは生活を共にする二人が、やがて好き合うことになり、付き合ったり結婚したり作物を育てたり、日々を生活していくお話です。

僕に仕えるメイドは世界最強の英雄です1~またクビになったけど、親代わりのメイドが慰めてくれるので悲しくなんてない!!~

あきくん☆ひろくん
ファンタジー
仕事を失い、居場所をなくした青年。 彼に仕えるのは――世界を救った英雄たちだった。 剣も魔法も得意ではない主人公は、 最強のメイドたちに守られながら生きている。 だが彼自身は、 「守られるだけの存在」でいることを良しとしなかった。 自分にできることは何か。 この世界で、どう生きていくべきか。 最強の力を持つ者たちと、 何者でもない一人の青年。 その主従関係は、やがて世界の歪みと過去へと繋がっていく。 本作は、 圧倒的な安心感のある日常パートと、 必要なときには本格的に描かれる戦い、 そして「守られる側の成長」を軸にした 完結済み長編ファンタジーです。 シリーズ作品の一編ですが、本作単体でもお楽しみいただけます。 最後まで安心して、一気読みしていただければ幸いです。

 社畜のおじさん過労で死に、異世界でダンジョンマスターと なり自由に行動し、それを脅かす人間には容赦しません。

本条蒼依
ファンタジー
 山本優(やまもとまさる)45歳はブラック企業に勤め、 残業、休日出勤は当たり前で、連続出勤30日目にして 遂に過労死をしてしまい、女神に異世界転移をはたす。  そして、あまりな強大な力を得て、貴族達にその身柄を 拘束させられ、地球のように束縛をされそうになり、 町から逃げ出すところから始まる。

処理中です...