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第五章 社交界のざわめき ④
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「そこまでだ、ユリウス」
私たちの間に、颯爽と割って入ったのは――カイル殿下だった。
毅然とした姿勢、王族としての威厳をまといながら。
「カイル殿下……!」
ユリウスが思わずたじろぐ。
「君は、セレナを──この第2皇子カイルの婚約者だと知っていて、口説いているのか?」
鋭い視線で睨むように問いかけるカイルに、周囲の空気が張りつめる。
けれどユリウスも、必死に反論を口にした。
「しかし……彼女は僕との婚約を破棄したそのすぐ後に、カイル殿下と婚約なさった。到底、それが彼女自身の意思とは思えません!」
ざわつく令嬢たち。私の心も少しだけ乱れかけた――が、その時。
カイルは、くつくつと笑いを漏らした。
「……なるほど。つまり君は、彼女のことを“自分の意思で男を選ぶことのできない女”だと、そう言いたいのか?」
「なっ……」
ユリウスの顔がこわばる。
「だったら聞いてみようか。セレナ。君の口から言ってくれ。君は、誰を選ぶ?」
私を見つめるその瞳は、いつもと変わらず――真剣で、真っ直ぐで。
私は一歩、カイルの横に立った。
「私は……第2皇子カイル殿下を、心から尊敬し、そして信頼しています。」
ユリウスの顔から、色が引いていく。
「もう迷いはありません。私は、彼と共に歩みたい」
カイルは満足げに頷くと、私の肩を抱き寄せ、ユリウスを一瞥した。
「聞いたな、ユリウス。これ以上、彼女に無礼な真似をするなら──王族への侮辱と見なす」
その一言に、ユリウスは唇を噛み、言葉を失った。
ユリウスが、無言で踊りの輪から姿を消す。
誰もがその空気を察したのか、何事もなかったように音楽だけが流れていた。
私は、深呼吸して気を落ち着かせる。
その時だった。
「セレナ。」
カイルは何も言わずに、私の肩をぎゅっと引き寄せ、抱きしめてくれた。
「ユリウスと踊っているのを見て……気が気じゃなかった」
その声は、いつもと違って、どこか不安を含んでいた。
あの自信家のカイルが、こんな風に感情を吐露するなんて――
「これから誰かと踊る時は、俺に一言言ってくれ。」
まるで拗ねた子供のような声音に、私はふっと笑ってしまった。
「はい、すみません。……でも、まさかそんな風に思ってくれてたなんて。」
するとカイルは、私のおでこに自分のおでこをそっと合わせてきた。
額同士が触れ合う距離。視線も、息遣いも、全部重なる。
「怒っているんじゃない。君が心配なんだ。」
その言葉が、私の胸に優しく染み込んでいく。
カイルは、私を守ろうとしてくれている。
ただの婚約者としてではなく、ひとりの大切な女性として――
「……ありがとう、カイル。」
私はそっと彼の腕を抱き返した。
「あなたがいてくれて、よかった」
そう呟くと、カイルは私の頬にキスをしてくれた。
「俺も。君がいてくれて、本当によかった。」
会場の喧騒は、いつの間にか耳に入らなくなっていた。
二人だけの世界に包まれて、私はそっと目を閉じた。
会場を出ようとしたその時だった。
一人の華やかな令嬢が、音もなくカイルの隣に寄ってきた。
「聞きましたわ、セレナとの婚約のこと。」
艶やかな声でそう囁くと、彼女はカイルの腕に絡みつくように触れた。
「ユリウス様への復讐なんですってね。……ふふ、皮肉な話。妃の座がそんな風に使われるなんて。」
カイルは何も言わず、ただ無表情のまま彼女を見下ろした。
「婚約破棄されたら……その時は、どうぞ私の元へ。」
軽やかにウィンクをして、令嬢は去っていく。
私は息が止まりそうになった。
なぜ、カイルは否定しなかったの?
あの人の唇から、「違う」とひと言でもあれば──私は安心できたのに。
私はただの道具?
ユリウスへの当てつけのために選ばれた、都合のいい婚約者?
胸がじわりと痛む。
復讐が終わった今、私はもう……必要ないのかもしれない。
私たちの間に、颯爽と割って入ったのは――カイル殿下だった。
毅然とした姿勢、王族としての威厳をまといながら。
「カイル殿下……!」
ユリウスが思わずたじろぐ。
「君は、セレナを──この第2皇子カイルの婚約者だと知っていて、口説いているのか?」
鋭い視線で睨むように問いかけるカイルに、周囲の空気が張りつめる。
けれどユリウスも、必死に反論を口にした。
「しかし……彼女は僕との婚約を破棄したそのすぐ後に、カイル殿下と婚約なさった。到底、それが彼女自身の意思とは思えません!」
ざわつく令嬢たち。私の心も少しだけ乱れかけた――が、その時。
カイルは、くつくつと笑いを漏らした。
「……なるほど。つまり君は、彼女のことを“自分の意思で男を選ぶことのできない女”だと、そう言いたいのか?」
「なっ……」
ユリウスの顔がこわばる。
「だったら聞いてみようか。セレナ。君の口から言ってくれ。君は、誰を選ぶ?」
私を見つめるその瞳は、いつもと変わらず――真剣で、真っ直ぐで。
私は一歩、カイルの横に立った。
「私は……第2皇子カイル殿下を、心から尊敬し、そして信頼しています。」
ユリウスの顔から、色が引いていく。
「もう迷いはありません。私は、彼と共に歩みたい」
カイルは満足げに頷くと、私の肩を抱き寄せ、ユリウスを一瞥した。
「聞いたな、ユリウス。これ以上、彼女に無礼な真似をするなら──王族への侮辱と見なす」
その一言に、ユリウスは唇を噛み、言葉を失った。
ユリウスが、無言で踊りの輪から姿を消す。
誰もがその空気を察したのか、何事もなかったように音楽だけが流れていた。
私は、深呼吸して気を落ち着かせる。
その時だった。
「セレナ。」
カイルは何も言わずに、私の肩をぎゅっと引き寄せ、抱きしめてくれた。
「ユリウスと踊っているのを見て……気が気じゃなかった」
その声は、いつもと違って、どこか不安を含んでいた。
あの自信家のカイルが、こんな風に感情を吐露するなんて――
「これから誰かと踊る時は、俺に一言言ってくれ。」
まるで拗ねた子供のような声音に、私はふっと笑ってしまった。
「はい、すみません。……でも、まさかそんな風に思ってくれてたなんて。」
するとカイルは、私のおでこに自分のおでこをそっと合わせてきた。
額同士が触れ合う距離。視線も、息遣いも、全部重なる。
「怒っているんじゃない。君が心配なんだ。」
その言葉が、私の胸に優しく染み込んでいく。
カイルは、私を守ろうとしてくれている。
ただの婚約者としてではなく、ひとりの大切な女性として――
「……ありがとう、カイル。」
私はそっと彼の腕を抱き返した。
「あなたがいてくれて、よかった」
そう呟くと、カイルは私の頬にキスをしてくれた。
「俺も。君がいてくれて、本当によかった。」
会場の喧騒は、いつの間にか耳に入らなくなっていた。
二人だけの世界に包まれて、私はそっと目を閉じた。
会場を出ようとしたその時だった。
一人の華やかな令嬢が、音もなくカイルの隣に寄ってきた。
「聞きましたわ、セレナとの婚約のこと。」
艶やかな声でそう囁くと、彼女はカイルの腕に絡みつくように触れた。
「ユリウス様への復讐なんですってね。……ふふ、皮肉な話。妃の座がそんな風に使われるなんて。」
カイルは何も言わず、ただ無表情のまま彼女を見下ろした。
「婚約破棄されたら……その時は、どうぞ私の元へ。」
軽やかにウィンクをして、令嬢は去っていく。
私は息が止まりそうになった。
なぜ、カイルは否定しなかったの?
あの人の唇から、「違う」とひと言でもあれば──私は安心できたのに。
私はただの道具?
ユリウスへの当てつけのために選ばれた、都合のいい婚約者?
胸がじわりと痛む。
復讐が終わった今、私はもう……必要ないのかもしれない。
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