「妃に相応しくない」と言われた私が、第2皇子に溺愛されています 【完結】

日下奈緒

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第六章 包み込むような愛 ①

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あの舞踏会から、カイル殿下はますます多忙になった。

妃を迎えること。それはつまり、“国”の未来を背負うということ。

文書に署名する姿や、側近に囲まれて歩く姿を、遠くから見かけることはあっても――

あの日のように私を見つめてくれる瞳は、もう私の方を向かない。

会いたい。

声が聞きたい。

でもそれは、我儘なのだろうか。

「セレナ様?」

ハッと我に返った。目の前には講師の厳しい眼差し。

教本のページは開かれたまま、私の手は、いつの間にか止まっていた。

「申し訳ありません……」

小さく頭を下げると、講師はため息をつきながら静かに言った。

「最近のセレナ様は、明らかに様子がおかしい。講義に集中できないということは、心がどこかにある証拠です。」

……それは、きっと、あの人の隣。

「この国の第二皇子妃として、ただ美しければ良いという時代は過ぎました。妃は、王子と国民を結ぶ象徴でもあるのです。もっと自覚を持ってください。」

「……はい」

言葉は素直に出た。でも、心は素直になれなかった。

私は今、“誰のために”妃になろうとしているのだろう。

カイル殿下のため?

それとも、“選ばれた”という誇りのため?

(――いいえ、私は……)

手帳を閉じ、そっと視線を落とす。

私がこの席に座るのは、カイル殿下に認められたから。

あの時、手を取ってくれたから。

けれど、今の私は……その温もりを、見失っていた。

そして今日は珍しく、講義を終えた私が馬車に向かおうとしたその時――

「セレナ。」

聞き慣れた声がして振り向いた。

そこには、カイル殿下が立っていた。

宮廷服の襟元が少し乱れていて、額には薄い汗。いつもより少し疲れているように見える。

「殿下……。」

「久しぶりだね。」

ゆっくりと歩み寄ってきたカイルは、私の肩を引き寄せ、そっと抱きしめた。

この感覚。懐かしくて、安心できて、胸がいっぱいになる。

「殿下、お疲れのようですね。」

そう言うと、カイルはふっと笑った。

「君の顔見たら、疲れなんて吹き飛んだ。」

その言葉に、思わず私も微笑んでしまう。けれど、カイルの表情が少しだけ真剣なものに変わった。

「ところで……噂を小耳に挟んだんだけど。」

「……はい?」

「最近、君――心ここにあらずだって。」

私はドキリとした。講師の言葉を、誰かがカイルに伝えたのだろうか。それとも……カイル自身が、私の様子に気づいていた?

「疲れてるのかなって、思ってた。でも違ったんだね。」

そう言って、カイルは私の頬に手を添えた。優しい眼差しが、まっすぐ私を見つめてくる。

「もしかして……俺に、何か不満がある?」

「違います、そんな……ただ……」

言葉に詰まる私の手を、カイルはしっかりと握ってくれた。

「なら、聞かせてほしい。セレナの心の声を。」
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