26 / 46
第六章 包み込むような愛 ②
しおりを挟む
静かな風の中、私の鼓動が、カイルにだけ届いてしまいそうで、胸が熱くなる。
この人は――やっぱり、本気で私を見てくれている。
私達は、馬車を離れて、宮殿の庭をゆっくりと歩いた。
日が落ちかけていて、空は茜色に染まり、花壇に植えられた花々が柔らかな風に揺れていた。
「セレナ。」
あんな話をしたばかりなのに、カイルは何も言わず、私の手をそっと握ってくれる。
その温もりが、かえって胸を締めつけた。
「不満があるわけじゃないんです。」
そう伝えると、カイルは目をパチクリと瞬かせた。
「でも……不安なんです。」
私の声が、かすかに震えた。
「不安……?」
繰り返すようにカイルが囁く。その目は、優しくもどこか切なげだった。
「本当は……ユリウスへの復讐のために、私を選んだだけで。それが終わった今、カイルにとって私は……もう必要じゃないんじゃないかって……」
言い終わる頃には、目の奥が熱くなり、視界が滲んでいた。
気づけば、一粒の涙が、頬を伝って落ちていた。
「……セレナ。」
カイルは立ち止まり、私の肩を包み込むように抱き寄せた。
そして、濡れた頬に指先で触れ、やさしく涙を拭う。
「馬鹿だな、君は。」
囁きは、まるで愛おしむようだった。
「君が必要なのは、今も、これからも、ずっとだよ。」
その声が、胸に深く染みていく。
「ユリウスへの復讐なんて、ただのきっかけだ。君と婚約できたのが、あの時だったから、それに乗っただけ。……でも、君に触れて、君の心に触れて、もうとっくに俺は、後戻りできなくなってる。」
私の目を覗き込むように、カイルは言った。
「君がいない未来なんて、俺は考えられない。」
まっすぐな瞳に、私の不安は少しずつ溶けていった。
ああ――この人は、ちゃんと、私を見てくれている。
その日は久しぶりに、カイルが私の屋敷を訪れてくれた。
「お忙しい中、ありがとうございます。」
そう言って頭を下げた私に、カイルはふわりと微笑み、小さなブーケを差し出す。
「ええっと……今日は何かの記念日だったかしら?」
首をかしげる私に、カイルは肩をすくめるようにして言った。
「セレナに久しぶりに会えた記念日だよ。」
その言葉に、思わず笑みがこぼれた。
変わらない。あの頃と。
――あの幼い日。庭でこっそり抜け出して、花を摘みに行った。
「これはセレナに似合う」って、手のひらいっぱいの白い花を差し出してくれた、あの子供の殿下と同じ。
「ありがとうございます。」
ブーケを両手で受け取ると、淡い香りが鼻先をくすぐった。
白と薄紫の小さな花々。慎ましくて、可憐で、どこか私自身を映しているようだった。
「本当はもっと会いに来たかったんだけどね。どうしても、公務が立て込んでて。」
この人は――やっぱり、本気で私を見てくれている。
私達は、馬車を離れて、宮殿の庭をゆっくりと歩いた。
日が落ちかけていて、空は茜色に染まり、花壇に植えられた花々が柔らかな風に揺れていた。
「セレナ。」
あんな話をしたばかりなのに、カイルは何も言わず、私の手をそっと握ってくれる。
その温もりが、かえって胸を締めつけた。
「不満があるわけじゃないんです。」
そう伝えると、カイルは目をパチクリと瞬かせた。
「でも……不安なんです。」
私の声が、かすかに震えた。
「不安……?」
繰り返すようにカイルが囁く。その目は、優しくもどこか切なげだった。
「本当は……ユリウスへの復讐のために、私を選んだだけで。それが終わった今、カイルにとって私は……もう必要じゃないんじゃないかって……」
言い終わる頃には、目の奥が熱くなり、視界が滲んでいた。
気づけば、一粒の涙が、頬を伝って落ちていた。
「……セレナ。」
カイルは立ち止まり、私の肩を包み込むように抱き寄せた。
そして、濡れた頬に指先で触れ、やさしく涙を拭う。
「馬鹿だな、君は。」
囁きは、まるで愛おしむようだった。
「君が必要なのは、今も、これからも、ずっとだよ。」
その声が、胸に深く染みていく。
「ユリウスへの復讐なんて、ただのきっかけだ。君と婚約できたのが、あの時だったから、それに乗っただけ。……でも、君に触れて、君の心に触れて、もうとっくに俺は、後戻りできなくなってる。」
私の目を覗き込むように、カイルは言った。
「君がいない未来なんて、俺は考えられない。」
まっすぐな瞳に、私の不安は少しずつ溶けていった。
ああ――この人は、ちゃんと、私を見てくれている。
その日は久しぶりに、カイルが私の屋敷を訪れてくれた。
「お忙しい中、ありがとうございます。」
そう言って頭を下げた私に、カイルはふわりと微笑み、小さなブーケを差し出す。
「ええっと……今日は何かの記念日だったかしら?」
首をかしげる私に、カイルは肩をすくめるようにして言った。
「セレナに久しぶりに会えた記念日だよ。」
その言葉に、思わず笑みがこぼれた。
変わらない。あの頃と。
――あの幼い日。庭でこっそり抜け出して、花を摘みに行った。
「これはセレナに似合う」って、手のひらいっぱいの白い花を差し出してくれた、あの子供の殿下と同じ。
「ありがとうございます。」
ブーケを両手で受け取ると、淡い香りが鼻先をくすぐった。
白と薄紫の小さな花々。慎ましくて、可憐で、どこか私自身を映しているようだった。
「本当はもっと会いに来たかったんだけどね。どうしても、公務が立て込んでて。」
312
あなたにおすすめの小説
セレナの居場所 ~下賜された側妃~
緑谷めい
恋愛
後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。
愛想を尽かした女と尽かされた男
火野村志紀
恋愛
※全16話となります。
「そうですか。今まであなたに尽くしていた私は側妃扱いで、急に湧いて出てきた彼女が正妃だと? どうぞ、お好きになさって。その代わり私も好きにしますので」
新婚初夜に『白い結婚にしてほしい』と言われたので論理的に詰めたら夫が泣きました
ささい
恋愛
「愛人がいるから、白い結婚にしてほしい」
政略結婚の初夜にそう告げた夫ルーファス。
妻カレンの反応は——
「それ、契約不履行ですよね?」
「あなたの感情論、論理的に破綻してますよ?」
泣き落としは通じない。
そして初夜の翌朝、夫は泣いていた。
逃げ道は全部塞がれ、気づけば毎日論破されていた。
これは、論破され続けた夫がなぜか幸せになる話。
元婚約者からの嫌がらせでわたくしと結婚させられた彼が、ざまぁしたら優しくなりました。ですが新婚時代に受けた扱いを忘れてはおりませんよ?
3333(トリささみ)
恋愛
貴族令嬢だが自他ともに認める醜女のマルフィナは、あるとき王命により結婚することになった。
相手は王女エンジェに婚約破棄をされたことで有名な、若き公爵テオバルト。
あまりにも不釣り合いなその結婚は、エンジェによるテオバルトへの嫌がらせだった。
それを知ったマルフィナはテオバルトに同情し、少しでも彼が報われるよう努力する。
だがテオバルトはそんなマルフィナを、徹底的に冷たくあしらった。
その後あるキッカケで美しくなったマルフィナによりエンジェは自滅。
その日からテオバルトは手のひらを返したように優しくなる。
だがマルフィナが新婚時代に受けた仕打ちを、忘れることはなかった。
《完結》「パパはいますか?」ある日、夫に似た子供が訪ねて来た。
ヴァンドール
恋愛
嫁いですぐに夫は戦地に赴いた。すると突然一人の男の子が訪ねて来た「パパはいますか?」
その子供の顔は戦地に行った夫にそっくりだった。
王子は婚約破棄を泣いて詫びる
tartan321
恋愛
最愛の妹を失った王子は婚約者のキャシーに復讐を企てた。非力な王子ではあったが、仲間の協力を取り付けて、キャシーを王宮から追い出すことに成功する。
目的を達成し安堵した王子の前に突然死んだ妹の霊が現れた。
「お兄さま。キャシー様を3日以内に連れ戻して!」
存亡をかけた戦いの前に王子はただただ無力だった。
王子は妹の言葉を信じ、遥か遠くの村にいるキャシーを訪ねることにした……。
【完結】冷酷伯爵ディートリヒは、去った妻を取り戻せない
くろねこ
恋愛
名門伯爵家に政略結婚で嫁いだ、正妻エレノア・リーヴェルト。夫である伯爵ディートリヒ・フォン・アイゼンヴァルトは、
軍務と義務を最優先し、彼女に関心を向けることはなかった。
言葉も、視線も、愛情も与えられない日々。それでも伯爵夫人として尽くし続けたエレノアは、ある一言をきっかけに、静かに伯爵家を去る決意をする。
――そして初めて、夫は気づく。
自分がどれほど多くのものを、彼女から与えられていたのかを。
一方、エレノアは新たな地でその才覚と人柄を評価され、
「必要とされる存在」として歩き始めていた。
去った妻を想い、今さら後悔する冷酷伯爵。前を向いて生きる正妻令嬢。
これは、失ってから愛に気づいた男と、
二度と戻らないかもしれない夫婦の物語。
――今さら、遅いのです。
大嫌いな幼馴染の皇太子殿下と婚姻させられたので、白い結婚をお願いいたしました
柴野
恋愛
「これは白い結婚ということにいたしましょう」
結婚初夜、そうお願いしたジェシカに、夫となる人は眉を顰めて答えた。
「……ああ、お前の好きにしろ」
婚約者だった隣国の王弟に別れを切り出され嫁ぎ先を失った公爵令嬢ジェシカ・スタンナードは、幼馴染でありながら、たいへん仲の悪かった皇太子ヒューパートと王命で婚姻させられた。
ヒューパート皇太子には陰ながら想っていた令嬢がいたのに、彼女は第二王子の婚約者になってしまったので長年婚約者を作っていなかったという噂がある。それだというのに王命で大嫌いなジェシカを娶ることになったのだ。
いくら政略結婚とはいえ、ヒューパートに抱かれるのは嫌だ。子供ができないという理由があれば離縁できると考えたジェシカは白い結婚を望み、ヒューパートもそれを受け入れた。
そのはず、だったのだが……?
離縁を望みながらも徐々に絆されていく公爵令嬢と、実は彼女のことが大好きで仕方ないツンデレ皇太子によるじれじれラブストーリー。
※こちらの作品は小説家になろうにも重複投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる