社長は身代わり婚約者を溺愛する

日下奈緒

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第3話 ご令嬢

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電車で10分の場所に、美術館はあった。

「芹香さん。」

声のする方を見ると、信一郎さんが近づいて来た。

「信一郎さん……えっ、美術館で待ち合わせじゃ。」

「待てなくて、来てしまいました。」

信一郎さんは、私を見てニコッと笑う。

「と言うのは嘘で。芹香さんに一秒でも早く会いたくて。」

胸がキュンとなった。

「そうですか。」

カバンを持つ手が、恥ずかしがっている。


「行きましょう。」

「はい。」

駅から二人で美術館に向かい、私達は受付の前に立った。

「こちらのチケットで。」

受付の女性が、信一郎さんが出したチケットを見ると、途端に騒ぎ始めた。

「どうぞ。お楽しみ下さい。」

「ありがとう。」

お金を払うことなく、私達は常設展示場へと向かっている。

「お金払わなくて、よかったの?」

「前売り券だからね。」

「でも、受付の人達驚いてましたよ。」

「ああ、特別なチケットだったからね。」

「特別?」

そして常設展に着いて、信一郎さんはもう一度チケットを出した。

「この美術館にはね、僕の家が資金を1/3援助しているんだ。」

「えっ……」

私はそこで立ち止まってしまった。

「そのお礼として、毎年無料のチケットが送られてくるんだ。」

「……凄いですね。」


入り口から見える、高そうな絵画達。

それが、信一郎さんの家が寄付したお金で、買われているだなんて。

世の中には、そんな美術品とか、工芸品を惜しげもなく買える人達がいるのだ。


「芹香さん、行きましょう。」

「あっ、はい。」

もう芹香の名前で、信一郎さんに呼ばれるのにも慣れた。


常設展に入って、見える世界は広がった。

たくさんの素晴らしい絵。

一つ一つ、新しい世界に連れて行ってくれる。

「どうです?」

信一郎さんは、私の顔を覗き込んだ。

「ええ。どれも素晴らしいモノばかりで、楽しいです。」

「それはよかった。」


ふと信一郎さんの横顔を見た。

美術館にお金を寄付しているだなんて、彼の家は本当にお金持ちなんだ。

それこそ芹香の家と同等。

ううん、それ以上の家なのかもしれない。


「どうしました?芹香さん。」

「いえ、何でも。」

私が次の絵に行くと、信一郎さんが付いてきた。

「僕は何でも話してくれた方がいいなぁ。」

信一郎さんを見ると、真剣な目をまた見る事になった。

「……信一郎さんの家の事です。」

「僕の家が何だって?」

「お金持ちで、羨ましいなぁって。」

すると信一郎さんは、クスッと笑った。

「芹香さんの家も、資産家じゃないですか。」
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