社長は身代わり婚約者を溺愛する

日下奈緒

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第5話 久しぶりのキス

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温かい。

この温もりを、ずっと離さずにいたい。


「そうだ。イルカのショーが始まるって。」

「ええ⁉見たい!」

「その意気、その意気!」

私と信一郎さんは、ウキウキしてイルカのショーを見に向かった。

「前の席に行こう。」

信一郎さんは、私を引き連れて、水槽に向かって行く。

「でも、水しぶきがかかったら……」

「それも楽しいでしょ。」

信一郎さん、何だかやんちゃな感じがする。

そういう男の人って、いいなぁ。

いいお父さんになれそう。


『では、イルカのショーを始めます!』

アナウンスが流れ、イルカが水面を泳いでいく。

次々と技を繰り出し、周囲からは歓声があがった。

「うわー!」

信一郎さん、子供みたいに騒いでいる。

「ん?何?」

「ううん。信一郎さん、とっても楽しそう。」

「ははは。芹香と一緒にいるからね。」

その笑顔が眩しかった。

この笑顔を、ずっと見続けていられたら。そう思った。


『では、ショーのクライマックスです。一番前の席の方々は、水しぶきにご注意下さい!』

うわー、来た!

私は身構えた。

「ほら、芹香。イルカが来るよ。」

「えっ?」

その瞬間、イルカ達が水面を滑るようにジャンプして、水しぶきが私達にかかった。

「あははは!」

濡れているというのに、信一郎さんは楽しそうだ。

「早く拭かないと。」

私はハンカチを信一郎さんに差し出した。

「ありがとう、芹香。」


眩しい笑顔の裏で、私は傷つく。

私の名前は、本当は礼奈なのに。

でも、芹香だって嘘をついたのは、私だもん。

今更、芹香じゃありませんって、言えないよね。


「あっ、芹香。服、濡れている。」

信一郎さんの言葉に、私は胸元を隠した。

「それじゃあ、風邪引いちゃうね。」

信一郎さんは自分が羽織っていたシャツを、私にかけてくれた。

「いいよ、信一郎さん。」

「いいや、羽織っていて。芹香のそんな姿、他の人に見せたくないからね。」

かぁーっと、又顔が赤くなった。

信一郎さんといると、照れる事ばっかり。


『では、イルカのショーは終わりです。お越し下さり、ありがとうございます!』

イルカが頭を下げているのを見て、一緒に拍手をした。

その時、信一郎さんの香りが、シャツからフワッと漂ってきた。

「いい匂い。」

「ああ、香水の匂いする?」

「うん。」

好きな人の香りに包まれるって、何となく幸せを感じる。

「気に入ったのなら、今度持ってくるよ。」

「いいの?」

「ああ、お揃いの香りを楽しもう。」

私は、信一郎さんの目を見つめた。

「うん。」

私、信一郎さんと一緒にいられて、幸せだ。

その時だった。
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