社長は身代わり婚約者を溺愛する

日下奈緒

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第6話 どういう事?

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唇が離れた後も、信一郎さんと見つめ合った。

こうしていると分かる。

信一郎さんと、想いは通じ合っているんだって。


「着いたよ。」

タクシーを降り、お店の前に立った。

「お洒落。」

豪華な飾りが施されているお店。

何だかワクワクしてきた。

「いいだろう?料理も美味しいよ、ここ。」

「期待してます。」


お店の中に入り、私達は窓側の席を用意された。

「何飲む?」

「ワイン……っていきたいところだけど、私飲めないから。カシスオレンジでいい。」

「カクテルね。俺は悪いけれど、ワインのボトルを入れさせて貰うよ。」

「どうぞ。」

ワインを飲めるなんて、大人だな。

運ばれてきたカシスオレンジも、少しだけ赤みが付いているけれど、ワインのボルドー色には敵わない。

「乾杯。」

信一郎さんとグラスを合わせて、お酒を飲めるなんて贅沢な気分がした。

「芹香とこうして飲むのは、初めてだね。」

「うん。」

信一郎さんがワインを飲む姿は、セクシーだと思った。

流石は、大人だと思った。

「私も、ワイン一杯貰おうかな。」

「ああ、いいと思うよ。これはいいワインだしね。」

信一郎さんは、グラスをもう一つ貰うと、ワインを注いでくれた。


「頂きます。」

ワインを一口飲むと、濃厚な味がした。

しかも渋い?えっ?これって、お酒なの?

「ははは。カシスオレンジみたいに、甘くはないね。」

「そうですね。これ以上、飲めるかな。」

「無理しないでいいよ。おいおい、飲めるようになるから。」

信一郎さんの言葉がよそよそしくて、ちょっとショックだった。

私、信一郎さんの為に、ワイン飲めるようになりたいのに。


「今日はどうだった?」

「とても楽しかったです。水族館も楽しかったですし、ここの料理も美味しいですし。」

信一郎さんは、うんうんと頷いてくれた。

「よかった。芹香が楽しいのが、一番だからね。」

「うん。」

私はいつの間にか、芹香と呼ばれる事に、抵抗がなくなっていた。

まるで自分が、芹香のように思っていたんだ。

「今日、家まで送らせてくれないかな。」

でも、一瞬で現実に引き戻された。


自分の家に連れて行くなんて、絶対ダメだし。

芹香の家まで行ったって、怪しまれるだけだ。


「いえ、近くまでで大丈夫です。」

私は酔う為に、ワインを口にした。

「お父さんに、挨拶したいんだ。」

ワインを飲む手が、止まった。

「父は……忙しい人ですし。」

「そんなに時間は取らせないよ。沢井社長が忙しいのは、俺も知っているし。」


そんな事言われても、父親に会わせるなんて、余計にできない。

「又、今度にしましょう。」

「今度か……我慢できるかな。」

「えっ?」

私はニヤッと笑う信一郎さんを見た。

「俺達そろそろ、次のステップに進んでもいいんじゃないかな。」

「次のステップって……」

すると信一郎さんが、私の手を握った。

「一緒に夜を過ごすとか。」

私はかぁーっと、赤くなった。
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