社長は身代わり婚約者を溺愛する

日下奈緒

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第9話 就活

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その日は、信一郎さんの温もりで起きた。

気が付くと、後ろから信一郎さんに抱きしめられていた。

後ろを向くと、信一郎さんがスースーと寝息を立てて眠っている。

こんな景色を見られるなんて。

胸がじんわり温かくなる。


「ん……」

信一郎さんが、眠い目を擦る。

「起こしちゃいました?」

「ううん……芹香は、もう起きた?」

「はい。」

すると信一郎さんは、私の上に覆いかぶさった。

「朝も、愛し合おう。」

私が返事をする前に、信一郎さんと繋がる。

「信一郎さん……」

「芹香、その顔そそられる。」

信一郎さんは、私を見つめながら、一心不乱に腰を振り続ける。

きっと、私を満足させたいのだろう。


でも、信一郎さんが愛しているのは、芹香であって、私じゃない。

「信一郎さん……」

胸が痛くて、涙が出てくる。

「どうして……泣いてる?」

信一郎さんは、私の涙を拭ってくれた。

「信一郎さんに、愛されているのが、嬉しくて……」

「芹香!この気持ちは、ずっと変わらないよ。」

信一郎さんは、私をぎゅっと抱きしめてくれた。

「芹香……芹香!」

信一郎さんは、私の中で果てると、ぐったりしていた。

その身体を、私はぎゅっと抱きしめる。


その後、二人でシャワーを浴びて、服に着替えた。

「どうだった?楽しかった?」

「うん。またこういう夜を一緒に過ごしたいな。」

芹香、ごめん。

やっぱり私、信一郎さんの事、諦められない。

「そうだな。来週、また時間を取るよ。」

「うん。」

私達は、腕を組んでホテルを出た。

まるで、どこかの映画に出てくるカップルみたいに。


信一郎さんは、タクシーを停めて、私を乗せた。

「ごめん、今日は仕事があって、送る事ができない。」

「いいんです。一人で帰れますから。」

そして、手を振って別れた。

夢のような一晩。

私はタクシーに乗っている中、その幸せに浸っていた。


やがて、タクシーは私の家に着き、私を降ろした。

お金を払って、タクシーが行くと、何だか寂しくもあった。

「もう夢は、終わりか。」

荷物を持って家に帰ると、両親が工場の中で項垂れているのが見えた。

「どうしたの?」

私はそのまま、工場の中に入った。

「ああ、礼奈。」

お母さんの目に、涙が溜まっている。

そして私の腕の中に入ると、嗚咽を漏らしながら泣き始めた。

「えっ?お母さん?」


するとお父さんが、私の側に寄って来た。

「すまん、礼奈。今月の給料出せない。」

「えっ……」

今までだって、少しは貰えていたのに。

「いいけど、生活費は?お父さん達の分は、出るんだよね。」

そう言うと、お母さんは倒れ込むようにして、しゃがみ込んで泣いてしまった。

「これが、今月の収支だ。」
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