社長は身代わり婚約者を溺愛する

日下奈緒

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第9話 就活

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お父さんに、帳簿を見せて貰うと、入ったお金は全て費用に回され、しかも足りない。

赤字という事だ。

「これって、今月だけ?」

「いや、ここ半年こんな感じだ。」

「半年も⁉」

お父さんは、もう疲れたように、床に座ってしまった。

「今までは何とか、銀行から借りられたが、もう貸せませんだとさ。」

「それはそうでしょ。半年も赤字続きだったら。」

「もう、ダメだ。倒産するしかない。」

「待って!」

私は、急いでバッグの中から、スマホを取り出した。


「どうするの?」

お母さんが、私の足にすがる。

「芹香に、融資して貰えないか、聞いてみる。」

両親は顔を見合わせた。

『はい、もしもし。』

芹香は、いつも直ぐに電話に出てくれる。

「芹香、お願いがあるの。」

『またお金の事?』

図星の回答に、息が止まる。

『いいけど、今回はいくら?』

「……100万。」

『100万⁉』

両親は一斉に、私を見た。


『その金額は、私一人じゃどうにもならないわ。』

「何とかならない?工場が倒産寸前なの。最後のお願いだから。」

芹香のため息が聞こえてくる。

『何とかしてあげたいけれど、返す当てがあるの?』

「うん。」

『どうやって返すの?』

私は歩きながら、考えた。

「……私、外で働くから、その給料から支払うわ。」

『分かった。私もお父さんに言ってみる。』

そこで、電話は切れた。

辺りはシーンとしている。

「そう言う事だから、私今日から就活するわ。」

そう言って工場を去ろうとした私の腕を、お母さんが掴んだ。

「ごめんね。いつも苦労かけて。」

「ううん。自分の生活の為だもん。」

工場に利益が出なければ、給料も出ない。

なのに、私には給料出してくれていて。

生活費はどうしていたの?

きっと、貯金を切り崩していたのかもしれない。

ああ、何でもっと早く、帳簿に気が付かなかったのだろう。


私はその足で、自分の部屋に戻り、スマホで仕事を探した。

こうなったら、選んでいる場合じゃない。

私は、手あたり次第働けそうなところに、応募しまくった。

「はぁー。これで決まればいいんだけど。」


しばらくして、メールが一通届いた。

【ご応募頂き有難うございます。一度登録の為に、来社をお願いしております。】

そして、来社の日時が選べるようになっていたが、どうやらWEB面接もしているらしい。

「WEB面接にしよう。」

私は、明日の午前中に予約を入れた。

「そうか。あの仕事は、派遣だったのか。」

派遣がどうのこうの言う時代は終わったと思うけれど、できれば直接雇用がよかったな。

ベッドに横たわりながら、ボーっと天井を見た。


今日はいろんなことがあるな。
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