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第14話 君が好き
①
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芹香から借りたお金で、工場は持ち直したかに見えた。
「払う物は全部払った。後は、注文が来ないとな。」
お父さんは、そう言ってお得意先に、営業の電話をし始めた。
「どう?」
「閑散期だからな。どこも金を使いたくないらしい。」
時期もあるのだろうけど、これでは自転車操業もままならない。
「芹香からの借金は、私が返すから気にしないで。」
「そう言われれもなぁ。」
お父さんは以前から、芹香からの借金を気にかけていたらしい。
「おまえだって、貧乏工場の娘は嫌だろう。」
「私はいいよ。大丈夫だから。」
お父さんが工場を始めたのは、お母さんと結婚する前からで。
なんだかんだ言って、今までやってきた。
兄妹はいなかったけれど、一人娘を育ててくれた両親には、感謝したい。
「でもな。いい加減、あの家から借金するのは、止めにしたいな。」
「あの家って……」
まるで芹香の家を、敵対視しているみたい。
「芹香ちゃんの家ってのは、あの近くの屋敷みたいなところだろ?」
「そうだよ。」
「若い時から、気に食わなかったんだよ。」
お父さんの小さなプライド。
きっと、私が大学で芹香の友人にならなければ、気にせずに済んだのに。
「ごめんね、お父さん。芹香と友達になったばかりに。」
「いいって事よ。おまえの交友関係を、制限する気はないからな。」
お父さんは、いい人だ。
だから営業で、一回断られたら、それ以上言えないんだと思う。
その時だった。
門から、すみませんと言う声が聞こえて来た。
「誰?」
工場から外を覗く。
「こんな時間じゃあ、営業周りの奴だろう。」
「じゃあ、無視した方がいいかな。」
私も営業トークを聞くのは、こりごりだ。
「そう言えば、お母さんは?」
「買い物に行ってくると。」
「そう。」
「そろそろ、帰ってくる頃だろう。」
そう言われて、工場の外を見ると、お母さんが誰かに手招きをしていた。
「なんか、お客さんみたいだよ。」
「客?」
お父さんは、何を勘違いしたのか、立ち上がっていそいそと工場を出て行った。
そして、見えて来たのは……
「信一郎さん!」
私は立ち上がって、よく外を見た。
信一郎さんが、お父さんとお母さんに連れられて、こっちにやってくる。
「何やってんの?」
私が工場から出ると、お母さんが笑顔で近づいて来た。
「ああ、礼奈。この方、礼奈に用事があるみたいよ。」
「えっ……」
信一郎さんは、お母さんとお父さんにお礼を言うと、私の前にやって来た。
「礼奈、話がある。」
「って言うか、どうしてここが分かったの?」
「いろいろ調べた。」
そこまでして、会いに来てくれるなんて。
もう諦めなきゃいけないのに、期待してしまう。
「帰って。」
「礼奈。話を聞いてくれ。」
「もう話はしたじゃない!お嬢様がいいんでしょ。」
それを聞いたお父さんが、近づいて来た。
「何だ、何だ?知ってる奴か?」
私は、軽くため息をついた。
「払う物は全部払った。後は、注文が来ないとな。」
お父さんは、そう言ってお得意先に、営業の電話をし始めた。
「どう?」
「閑散期だからな。どこも金を使いたくないらしい。」
時期もあるのだろうけど、これでは自転車操業もままならない。
「芹香からの借金は、私が返すから気にしないで。」
「そう言われれもなぁ。」
お父さんは以前から、芹香からの借金を気にかけていたらしい。
「おまえだって、貧乏工場の娘は嫌だろう。」
「私はいいよ。大丈夫だから。」
お父さんが工場を始めたのは、お母さんと結婚する前からで。
なんだかんだ言って、今までやってきた。
兄妹はいなかったけれど、一人娘を育ててくれた両親には、感謝したい。
「でもな。いい加減、あの家から借金するのは、止めにしたいな。」
「あの家って……」
まるで芹香の家を、敵対視しているみたい。
「芹香ちゃんの家ってのは、あの近くの屋敷みたいなところだろ?」
「そうだよ。」
「若い時から、気に食わなかったんだよ。」
お父さんの小さなプライド。
きっと、私が大学で芹香の友人にならなければ、気にせずに済んだのに。
「ごめんね、お父さん。芹香と友達になったばかりに。」
「いいって事よ。おまえの交友関係を、制限する気はないからな。」
お父さんは、いい人だ。
だから営業で、一回断られたら、それ以上言えないんだと思う。
その時だった。
門から、すみませんと言う声が聞こえて来た。
「誰?」
工場から外を覗く。
「こんな時間じゃあ、営業周りの奴だろう。」
「じゃあ、無視した方がいいかな。」
私も営業トークを聞くのは、こりごりだ。
「そう言えば、お母さんは?」
「買い物に行ってくると。」
「そう。」
「そろそろ、帰ってくる頃だろう。」
そう言われて、工場の外を見ると、お母さんが誰かに手招きをしていた。
「なんか、お客さんみたいだよ。」
「客?」
お父さんは、何を勘違いしたのか、立ち上がっていそいそと工場を出て行った。
そして、見えて来たのは……
「信一郎さん!」
私は立ち上がって、よく外を見た。
信一郎さんが、お父さんとお母さんに連れられて、こっちにやってくる。
「何やってんの?」
私が工場から出ると、お母さんが笑顔で近づいて来た。
「ああ、礼奈。この方、礼奈に用事があるみたいよ。」
「えっ……」
信一郎さんは、お母さんとお父さんにお礼を言うと、私の前にやって来た。
「礼奈、話がある。」
「って言うか、どうしてここが分かったの?」
「いろいろ調べた。」
そこまでして、会いに来てくれるなんて。
もう諦めなきゃいけないのに、期待してしまう。
「帰って。」
「礼奈。話を聞いてくれ。」
「もう話はしたじゃない!お嬢様がいいんでしょ。」
それを聞いたお父さんが、近づいて来た。
「何だ、何だ?知ってる奴か?」
私は、軽くため息をついた。
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