社長は身代わり婚約者を溺愛する

日下奈緒

文字の大きさ
69 / 105
第18話 もう忘れなよ

しおりを挟む
だけど、その後の信一郎さんのお父さんは、とんでもない事を言い始めた。

「支度金、1億で足りますか?」

「えっ?」

「認知症の施設と言ったら、大変でしょう。足りない場合は、仰って下さい。」

「黒崎さん……」

「何、こんな綺麗なお嬢さんを、信一郎さんのお嫁さんに貰えるなら、安いモノですよ。」

信一郎さんのお父さんとお母さん、笑っている。

「ですが……」

「信一郎、何も言わずに結婚を決めろ。」

信一郎さんのお父さんも、この結婚に乗り気だ。


私はフラッと、窓から離れて、庭を歩いた。

きっと、信一郎さん一人の意思では、この結婚を断れない。

ー 愛だけじゃ、足りないのよー

芹香、本当だね。

私は、何を勘違いしていたんだろう。

お金持ち同士の結婚に、愛なんて必要ない。

必要なのは、支度金だって、今更分かった。


「……っ。」

涙が溢れてくる。

信一郎さん、さようなら。

今まで、楽しかったよ。

私は一人静かに、そのお店を去った。


その次の日から、私の体調は最悪だった。

きっと今頃、芹香と信一郎さんの結婚が決まっていくかと思うと、憂鬱で仕方なかった。

「森井さん、書庫に行ってこの書類、取って来てくれない?」

「はい。」

先輩に言われ、私は一人書庫に行った。


「はぁー。」

ため息をついたせいで、書庫のドアを開けるのも重い。

やっと開けた書庫は、もわっと息苦しかった。

「はいはい、誰も来ないもんね。」

私は書庫の中に入ると、窓を開けた。

新鮮な空気が入ってくる。

小鳥のさえずりも聞こえてくる。


ああ、このままここで、時間を潰していたいな。

その気持ちを打ち破ったのは、一人のサラリーマンだった。

「ここにいた。」

「下沢君。どうして来たの?」

あれ以来、ちょっと仲が良くなっている下沢君。

「そりゃあ、あれだけ元気がなかったら、心配するでしょ。」

下沢君は、私の元に来ると、手を差し出した。

「先輩に言われた資料って、何?」

「これ。」

私は先輩に渡されたメモ紙を、下沢君に見せた。

「俺が揃えてくるから、休んでなよ。」

「あい。」

さすがは、私を好きでいるだけの事はある。

下沢君は、私を甘やかす事が得意だ。

私は近くにあった椅子に座って、窓の外を見ていた。


「そんなに元気がないって、社長との事?」

私の身体がピクッとなる。

そう言えば、信一郎さんとの仲を知っているんだよね。

「もしかして、別れた?」

嬉しそうに聞いてくる下沢君が、嫌いだ。

「別れてないけれど、別れると思う。」

「どうして?」

「あっちが、結婚するから。」

「社長が⁉」

下沢君は驚いて、棚から顔を覗かせた。

「誰と⁉」

「私の友人と。」

「何それ!ドロドロの三角関係じゃん!」

私もそう思う。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

天然だと思ったギルド仲間が、実は策士で独占欲強めでした

星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー本編8話+後日談7話⭐︎ ギルドで働くおっとり回復役リィナは、 自分と似た雰囲気の“天然仲間”カイと出会い、ほっとする。 ……が、彼は実は 天然を演じる策士だった!? 「転ばないで」 「可愛いって言うのは僕の役目」 「固定回復役だから。僕の」 優しいのに過保護。 仲間のはずなのに距離が近い。 しかも噂はいつの間にか——「軍師(彼)が恋してる説」に。 鈍感で頑張り屋なリィナと、 策を捨てるほど恋に負けていくカイの、 コメディ強めの甘々ギルド恋愛、開幕! 「遅いままでいい――置いていかないから。」

十八歳で必ず死ぬ令嬢ですが、今日もまた目を覚ましました【完結】

藤原遊
恋愛
十八歳で、私はいつも死ぬ。 そしてなぜか、また目を覚ましてしまう。 記憶を抱えたまま、幼い頃に――。 どれほど愛されても、どれほど誰かを愛しても、 結末は変わらない。 何度生きても、十八歳のその日が、私の最後になる。 それでも私は今日も微笑む。 過去を知るのは、私だけ。 もう一度、大切な人たちと過ごすために。 もう一度、恋をするために。 「どうせ死ぬのなら、あなたにまた、恋をしたいの」 十一度目の人生。 これは、記憶を繰り返す令嬢が紡ぐ、優しくて、少しだけ残酷な物語。

腹黒外科医に唆された件~恋人(仮)のはずが迫られています~

有木珠乃
恋愛
両親を亡くし、二人だけの姉妹になった一ノ瀬栞と琴美。 ある日、栞は轢き逃げ事故に遭い、姉の琴美が務める病院に入院することになる。 そこで初めて知る、琴美の婚約者の存在。 彼らの逢引きを確保するために利用される栞と外科医の岡。 「二人で自由にならないか?」を囁かれて……。

押しつけられた身代わり婚のはずが、最上級の溺愛生活が待っていました

cheeery
恋愛
名家・御堂家の次女・澪は、一卵性双生の双子の姉・零と常に比較され、冷遇されて育った。社交界で華やかに振る舞う姉とは対照的に、澪は人前に出されることもなく、ひっそりと生きてきた。 そんなある日、姉の零のもとに日本有数の財閥・凰条一真との縁談が舞い込む。しかし凰条一真の悪いウワサを聞きつけた零は、「ブサイクとの結婚なんて嫌」と当日に逃亡。 双子の妹、澪に縁談を押し付ける。 両親はこんな機会を逃すわけにはいかないと、顔が同じ澪に姉の代わりになるよう言って送り出す。 「はじめまして」 そうして出会った凰条一真は、冷徹で金に汚いという噂とは異なり、端正な顔立ちで品位のある落ち着いた物腰の男性だった。 なんてカッコイイ人なの……。 戸惑いながらも、澪は姉の零として振る舞うが……澪は一真を好きになってしまって──。 「澪、キミを探していたんだ」 「キミ以外はいらない」

高塚くんの愛はとっても重いらしい

橋本彩里(Ayari)
恋愛
時期外れ、しかも偏差値の高い有名校からなぜかわざわざやってきた話題の転校生。 「どこに隠れていたの?」 そんな彼に、突然探していたと莉乃は背後から抱きしめられ、強引に連れて行かれる。 その日から莉乃は高塚くんに振り回される毎日。 この関係は何? 悩みながらもまるで大事な恋人のように莉乃を扱う彼に絆されかけていた、あの言葉を聞くまでは……。 高塚くんの重愛と狂愛。 すれ違いラブ。 見目がいいだけの男ではないのでご注意ください。 表紙イラストは友人のkouma.作です。

あなたと恋に落ちるまで~御曹司は、一途に私に恋をする~

けいこ
恋愛
カフェも併設されたオシャレなパン屋で働く私は、大好きなパンに囲まれて幸せな日々を送っていた。 ただ… トラウマを抱え、恋愛が上手く出来ない私。 誰かを好きになりたいのに傷つくのが怖いって言う恋愛こじらせ女子。 いや…もう女子と言える年齢ではない。 キラキラドキドキした恋愛はしたい… 結婚もしなきゃいけないと…思ってはいる25歳。 最近、パン屋に来てくれるようになったスーツ姿のイケメン過ぎる男性。 彼が百貨店などを幅広く経営する榊グループの社長で御曹司とわかり、店のみんなが騒ぎ出して… そんな人が、 『「杏」のパンを、時々会社に配達してもらいたい』 だなんて、私を指名してくれて… そして… スーパーで買ったイチゴを落としてしまったバカな私を、必死に走って追いかけ、届けてくれた20歳の可愛い系イケメン君には、 『今度、一緒にテーマパーク行って下さい。この…メロンパンと塩パンとカフェオレのお礼したいから』 って、誘われた… いったい私に何が起こっているの? パン屋に出入りする同年齢の爽やかイケメン、パン屋の明るい美人店長、バイトの可愛い女の子… たくさんの個性溢れる人々に関わる中で、私の平凡過ぎる毎日が変わっていくのがわかる。 誰かを思いっきり好きになって… 甘えてみても…いいですか? ※after story別作品で公開中(同じタイトル)

【完結】あなた専属になります―借金OLは副社長の「専属」にされた―

七転び八起き
恋愛
『借金を返済する為に働いていたラウンジに現れたのは、勤務先の副社長だった。 彼から出された取引、それは『専属』になる事だった。』 実家の借金返済のため、昼は会社員、夜はラウンジ嬢として働く優美。 ある夜、一人でグラスを傾ける謎めいた男性客に指名される。 口数は少ないけれど、なぜか心に残る人だった。 「また来る」 そう言い残して去った彼。 しかし翌日、会社に現れたのは、なんと店に来た彼で、勤務先の副社長の河内だった。 「俺専属の嬢になって欲しい」 ラウンジで働いている事を秘密にする代わりに出された取引。 突然の取引提案に戸惑う優美。 しかし借金に追われる現状では、断る選択肢はなかった。 恋愛経験ゼロの優美と、完璧に見えて不器用な副社長。 立場も境遇も違う二人が紡ぐラブストーリー。

夜の帝王の一途な愛

ラヴ KAZU
恋愛
彼氏ナシ・子供ナシ・仕事ナシ……、ないない尽くしで人生に焦りを感じているアラフォー女性の前に、ある日突然、白馬の王子様が現れた! ピュアな主人公が待ちに待った〝白馬の王子様"の正体は、若くしてホストクラブを経営するカリスマNO.1ホスト。「俺と一緒に暮らさないか」突然のプロポーズと思いきや、契約結婚の申し出だった。 ところが、イケメンホスト麻生凌はたっぷりの愛情を濯ぐ。 翻弄される結城あゆみ。 そんな凌には誰にも言えない秘密があった。 あゆみの運命は……

処理中です...