社長は身代わり婚約者を溺愛する

日下奈緒

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第27話 君を選んでよかった

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あれから、5年の歳月が過ぎた。

私は会社を辞め、大きくなった実家の工場で、働いていた。


「おう、社長。」

近所の人が、お父さんを訪ねて来た。

「なんだ、見知った顔だな。」

「誰を期待してんだよ。ほら、回覧板だ。」

「ありがとよ。」

そして近所の人が、こっちを向いた。

目が合って、私は頭をちょこんと下げた。


「礼奈ちゃん、結婚まだなんだって?」

「ああ、まだだな。」

「女は30になると、結婚できないって言うぞ。見合いでもさせないか。」

おじさん、その話。私の耳にも届いてるんだけど。

「ちょっとぽっちゃりしてるけれど、心のいい奴がいるんだよ。」

「年収はどれくらいだ?」

「そこそこあるよ。」

不思議だ。私の結婚話を、近所のおじさんとお父さんがしている。


「まあ、難しいと思うぞ。そんな程度じゃ、礼奈は靡かないからな。」

お父さんは、ふんぞり返っておじさんの話を否定している。

「あのな。女って言うのは、年々市場価値が落ちるんだよ。」

「だからって、妥協で結婚しないだろ。」

「また。行かず後家になっても知らないぞ。」

いつの時代だよ、と思った。

でも、私の事を話すのは、近所のおじさんだけじゃない。


「礼奈。久しぶり。」

いつものカフェで話す芹香もそうだ。

「いいなぁって思う人、いないの?」

「うん。」

芹香はあの後、好きな人に出会って、スピード婚をした。

一般の人みたいだけど、芹香のお父さんは納得しているらしい。


「って言うか、信一郎さんが迎えに来てくれるから。」

「まだ、そんな事言っているの?」

芹香はコーヒーを零すぐらい驚いている。

「私達、もう30なんだよ。5年も前の恋愛なんて、もうないもんだよ。」


人は、平等に歳をとっていく。

特に女性は、30歳を境に、価値が減少していく。

いづれ、結婚も出産も、諦めなければならない歳も迎える。


でも、私の中では信一郎さんの恋は、今でも鮮やかに色をつけていて。

ふいに、信一郎さんが来てくれるような気がすると、他の人なんて見ている余裕がなかった。


「いいの?このまま結婚できなくても。」

「いいよ。信一郎さん以外の人と結婚したくないし。」

「はーあ。礼奈程の女が、勿体ない。」

いつまでも、私の味方でいてくれる芹香。

5年経っても、私の気持ちは変わっていなかった。


そんなある日の事だった。

「すみません。」

男の人の声がして、仕事の手を止めた。

「こちらに、森井礼奈さんと言う方は、いらっしゃいますか?」

「森井礼奈は、私ですけど。」

何の用だろう。

工場から顔を出してみた瞬間、私は飛び上がる程驚いた。


「礼奈、久しぶり。」

そこには、私の待ち望んでいた人が立っていたからだ。

「何、久しぶり過ぎて、声も出ない?」

あの日と同じ笑顔。

変わらない。でもちょっと前より高いスーツを着ているかもしれない。

「どうして……」

「迎えに来たんだよ。」

そう言って信一郎さんは私に、花束を渡してくれた。


「近所の人に聞いたよ。まだ誰とも結婚していないんだって?」

私は涙を流しながら、うんと頷いた。

「あっ、だけど彼氏ぐらいはいるか。」

「ううん、いない。」

私はこの瞬間を、この5年間待っていた。
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