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第1章 出会いは、ほんの一瞬の勇気から
③
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「あなた、一人?」
救急隊の人が問いかけてきた。
けれど返事ができなかった。口は動くのに、声にならなかった。
「意識、朦朧!」
誰かが叫ぶ。
そのときだった――
私の手が、温かいもので包まれた。
ぎゅっと、しっかりと。
「俺が、一緒に乗ります」
低くて、でも強い声。
聞き覚えのあるその声に、心が微かに反応した。
「あなたは?」
「彼女に、助けてもらった者です」
ああ……あの人だ。
あのグレーのスーツの、紺色の傘の――あの人。
視界はにじんでいて、表情ははっきり見えないのに、
その手のぬくもりだけで、誰なのか分かった。
私は、かすかに指を動かした。
でも、ちゃんと握り返せたかどうかは分からない。
ただ、意識が薄れていく中で思った。
“……この手、あたたかいな”と。
目を覚ますと、病室は静まり返っていた。
窓の外は夜。カーテンの隙間から、かすかな街灯の明かりが差し込んでいる。
「んん……」
喉が渇いて、微かに声が漏れる。
ゆっくりと手元に視線を向けると、誰かの手が、私の手を握っていた。
温かくて、しっかりとした手だった。
その存在が、妙に心強かった。
「あの……」
声をかけると、その人はびくりと反応して目を開けた。
眠っていたらしい。
「あ……気がついたか」
それは、あの人だった。
紺色の傘に、グレーのスーツの――あの交差点で出会った人。
「はい……」と答えると、彼は一瞬だけ顔を伏せてから、右手で目元を拭った。
「……よかった」
「……?」
「俺を助けてくれた人が、死なないでくれて」
その言葉には、どこか深くて静かな想いがにじんでいた。
どう受け取ればいいのか分からず、私はただ見つめ返す。
「すみません。ずっと……いてくれたんですか?」
そう尋ねると、彼はゆっくりとうなずいた。
「うん。ずっと、君の手を離せなかったから」
その目には、深い感謝の念がこもっていた。
真っ直ぐに私を見つめる視線が、まるで言葉よりも雄弁だった。
「ええっと、私は……」
自分の状況を確認しようとしたその瞬間、彼が静かに口を開いた。
「交差点で車に轢かれそうになった俺を、君が助けてくれたんだ」
ああ、そうだ。
一瞬だけ記憶が逆戻りして、あの雨の交差点がよみがえった。
グレーのスーツ、紺の傘、そして赤信号を無視して突っ込んできた車。
「俺はかすり傷で済んだけど……君が頭を強く打ってね」
確かに、ずきずきと鈍く痛む。これがその証拠なんだろう。
「どう? 自分の名前、思い出せる?」
その問いに、少しだけ笑ってしまった。
記憶喪失なんてドラマの中の話だと思っていたけれど、聞かれると不思議な感じがする。
救急隊の人が問いかけてきた。
けれど返事ができなかった。口は動くのに、声にならなかった。
「意識、朦朧!」
誰かが叫ぶ。
そのときだった――
私の手が、温かいもので包まれた。
ぎゅっと、しっかりと。
「俺が、一緒に乗ります」
低くて、でも強い声。
聞き覚えのあるその声に、心が微かに反応した。
「あなたは?」
「彼女に、助けてもらった者です」
ああ……あの人だ。
あのグレーのスーツの、紺色の傘の――あの人。
視界はにじんでいて、表情ははっきり見えないのに、
その手のぬくもりだけで、誰なのか分かった。
私は、かすかに指を動かした。
でも、ちゃんと握り返せたかどうかは分からない。
ただ、意識が薄れていく中で思った。
“……この手、あたたかいな”と。
目を覚ますと、病室は静まり返っていた。
窓の外は夜。カーテンの隙間から、かすかな街灯の明かりが差し込んでいる。
「んん……」
喉が渇いて、微かに声が漏れる。
ゆっくりと手元に視線を向けると、誰かの手が、私の手を握っていた。
温かくて、しっかりとした手だった。
その存在が、妙に心強かった。
「あの……」
声をかけると、その人はびくりと反応して目を開けた。
眠っていたらしい。
「あ……気がついたか」
それは、あの人だった。
紺色の傘に、グレーのスーツの――あの交差点で出会った人。
「はい……」と答えると、彼は一瞬だけ顔を伏せてから、右手で目元を拭った。
「……よかった」
「……?」
「俺を助けてくれた人が、死なないでくれて」
その言葉には、どこか深くて静かな想いがにじんでいた。
どう受け取ればいいのか分からず、私はただ見つめ返す。
「すみません。ずっと……いてくれたんですか?」
そう尋ねると、彼はゆっくりとうなずいた。
「うん。ずっと、君の手を離せなかったから」
その目には、深い感謝の念がこもっていた。
真っ直ぐに私を見つめる視線が、まるで言葉よりも雄弁だった。
「ええっと、私は……」
自分の状況を確認しようとしたその瞬間、彼が静かに口を開いた。
「交差点で車に轢かれそうになった俺を、君が助けてくれたんだ」
ああ、そうだ。
一瞬だけ記憶が逆戻りして、あの雨の交差点がよみがえった。
グレーのスーツ、紺の傘、そして赤信号を無視して突っ込んできた車。
「俺はかすり傷で済んだけど……君が頭を強く打ってね」
確かに、ずきずきと鈍く痛む。これがその証拠なんだろう。
「どう? 自分の名前、思い出せる?」
その問いに、少しだけ笑ってしまった。
記憶喪失なんてドラマの中の話だと思っていたけれど、聞かれると不思議な感じがする。
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