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第1章 出会いは、ほんの一瞬の勇気から
④
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「はい、橘ひよりです」
私は彼に向かって、にっこりと笑ってみせた。
すると彼も、安堵したように微笑み返してくれた。
――この瞬間、ようやくきちんと「はじめまして」ができた気がした。
「本当に助かった。ありがとう」
彼は、ベッド脇で深く頭を下げた。
大人の男が真剣に頭を下げる姿は、少し戸惑うほど誠実だった。
「いえ、私が勝手にしたことなので……」
そう答えると、彼は顔を上げて、まっすぐに私を見た。
「でも、それで俺の命は救われた。俺は……君に、どれだけ感謝しても足りない」
その言葉を聞いて、胸の奥がじんわり温かくなる。
この人はきっと、ちゃんと筋を通す人なんだ。
上からでもなく、当たり前でもなく。
ただ、真っ直ぐに「ありがとう」と言える人。
――優しい人だな。そう思ったその時だった。
「ええっと……ひよりさん。今後のことだが……」
「はい?」
思わず、私は首を傾げる。
彼は少し言いにくそうにしながら、それでもはっきりと口にした。
「今回の入院費は、俺が払うから。君は、何もしなくていい」
――えっ?
その瞬間、空気の温度が少しだけ変わった気がした。
あんなに温かかった感謝の言葉が、いきなり“お金”に変わった気がして。
「そんな……お金の話……?」
私は思わず、ぽつりと呟いていた。
「いや、大切なことだろう。だから――」
彼の声が少し硬くなった。
直感的に、嫌な予感がした。
「今回の件……示談にしてもらえないだろうか」
胸の奥で、何かが崩れ落ちた気がした。
こつんと音がして、言葉が、空気が、すべてが冷たく変わっていく。
「どうして……ですか?」
気づけば、私は聞いていた。
聞かなければよかったのに。
「その……俺は、大きな会社に勤めている。若い女性を怪我させた、なんて報道されたら……いろいろと問題があって。」
言葉の続きは聞きたくなかった。
私はゆっくりと、ベッドの上で彼に背を向けた。
「ひよりさん……?」
名前を呼ばれたけれど、振り返ることはできなかった。
優しかった手のぬくもりも、あの夜中の涙も、すべてが遠ざかっていく。
「大丈夫です。入院費も……私が払いますから」
声は、なるべく平静に。
けれど胸の奥では、確かに何かが泣いていた。
私は、ただの“迷惑な事故の加害者”だったんだ――
そう思った瞬間、目の奥がじんと熱くなった。
「今日は、俺、帰るけれど……」
そう言いながら、彼はそっと私の肩に手を置いた。
一瞬だけ、その手に力がこもる。
そして次の瞬間、抱き寄せられた。
近くで感じる体温と、スーツに混じる微かな香水の匂い。
そのすべてが優しくて、ずるかった。
「時間が空いたら……お見舞いに来るから。」
低く、穏やかな声。
それだけを残して、彼は私のもとを離れていった。
私は彼に向かって、にっこりと笑ってみせた。
すると彼も、安堵したように微笑み返してくれた。
――この瞬間、ようやくきちんと「はじめまして」ができた気がした。
「本当に助かった。ありがとう」
彼は、ベッド脇で深く頭を下げた。
大人の男が真剣に頭を下げる姿は、少し戸惑うほど誠実だった。
「いえ、私が勝手にしたことなので……」
そう答えると、彼は顔を上げて、まっすぐに私を見た。
「でも、それで俺の命は救われた。俺は……君に、どれだけ感謝しても足りない」
その言葉を聞いて、胸の奥がじんわり温かくなる。
この人はきっと、ちゃんと筋を通す人なんだ。
上からでもなく、当たり前でもなく。
ただ、真っ直ぐに「ありがとう」と言える人。
――優しい人だな。そう思ったその時だった。
「ええっと……ひよりさん。今後のことだが……」
「はい?」
思わず、私は首を傾げる。
彼は少し言いにくそうにしながら、それでもはっきりと口にした。
「今回の入院費は、俺が払うから。君は、何もしなくていい」
――えっ?
その瞬間、空気の温度が少しだけ変わった気がした。
あんなに温かかった感謝の言葉が、いきなり“お金”に変わった気がして。
「そんな……お金の話……?」
私は思わず、ぽつりと呟いていた。
「いや、大切なことだろう。だから――」
彼の声が少し硬くなった。
直感的に、嫌な予感がした。
「今回の件……示談にしてもらえないだろうか」
胸の奥で、何かが崩れ落ちた気がした。
こつんと音がして、言葉が、空気が、すべてが冷たく変わっていく。
「どうして……ですか?」
気づけば、私は聞いていた。
聞かなければよかったのに。
「その……俺は、大きな会社に勤めている。若い女性を怪我させた、なんて報道されたら……いろいろと問題があって。」
言葉の続きは聞きたくなかった。
私はゆっくりと、ベッドの上で彼に背を向けた。
「ひよりさん……?」
名前を呼ばれたけれど、振り返ることはできなかった。
優しかった手のぬくもりも、あの夜中の涙も、すべてが遠ざかっていく。
「大丈夫です。入院費も……私が払いますから」
声は、なるべく平静に。
けれど胸の奥では、確かに何かが泣いていた。
私は、ただの“迷惑な事故の加害者”だったんだ――
そう思った瞬間、目の奥がじんと熱くなった。
「今日は、俺、帰るけれど……」
そう言いながら、彼はそっと私の肩に手を置いた。
一瞬だけ、その手に力がこもる。
そして次の瞬間、抱き寄せられた。
近くで感じる体温と、スーツに混じる微かな香水の匂い。
そのすべてが優しくて、ずるかった。
「時間が空いたら……お見舞いに来るから。」
低く、穏やかな声。
それだけを残して、彼は私のもとを離れていった。
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