15歳差の御曹司に甘やかされています〜助けたはずがなぜか溺愛対象に〜 【完結】

日下奈緒

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第1章 出会いは、ほんの一瞬の勇気から

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「……谷川さんの小説って、ヒロインが平凡なんです」

「平凡?」

玲央さんはベッドの横に置かれた椅子に座り、肘をつきながら私の顔を見た。

「そう。ほんとにどこにでもいるような、目立たない女の子が主人公で」

私はふわっと笑いながら続けた。

「そんな子が、弁護士とか、優秀な外科医とか、社長とか……いわゆる“ハイスぺ男子”に出会って、めちゃくちゃ溺愛されるんです」

「へえ……」

玲央さんは、ふむ、と少しだけ目を細めてこちらを見つめた。

まるでおとぎ話を聞いているみたいに。

でも、からかうような空気は一切なかった。

「なんか……すごく非現実的かもしれないけど。でもね、ヒロインが平凡だからこそ、読んでるこっちも自分に置きかえられるというか」

私は、心の奥をちょっとだけさらけ出すように、そっと言った。

「男性から――『君に溺れている』って、真顔で言われるの、感動ですよね」

言ったあと、自分でもちょっと照れてしまって、目線を逸らす。

だけど、玲央さんの視線は逸れなかった。

むしろ、まっすぐ私を見つめたまま、何かを考えているようだった。

その沈黙に、私は少しだけ鼓動が早くなるのを感じた。

「溺愛か……」

玲央さんがふとつぶやいた。

「俺は女性に、溺れたことないな」

その言葉に、胸が少しだけきゅっとなった。

こんなに素敵な人なのに。

あの優しさや穏やかさは、誰かに向けたものじゃないんだろうか。

「結婚は……されてるんですか?」

迷いながらも、気になって口にしていた。

「してないよ」

あっさりとした答えが返ってくる。

「彼女とか……」

「今はいない」

言葉は少ないのに、なぜかその言い方が、少し寂しそうに聞こえた。

案外――この人、孤独なのかもしれない。

肩書きや外見の華やかさの奥に、静かな空虚さがあるような気がした。

「出会いがないんですか?」

少し踏み込んだ問いに、玲央さんは苦笑した。

「いや、出会いならあるよ。親が勝手に紹介してくるから」

ああ、そうか。

このくらいの年代、それに彼の立場なら、そういうことも自然にあるのかもしれない。

「でも、紹介されるほど冷めてる自分にも、驚くけどね」

そう言って、玲央さんはわずかに視線を落とした。

それが、ほんの少しだけ――寂しげに見えた。

「ひよりさんは?」

不意にそう聞かれて、私は少し戸惑った。

顔を上げると、玲央さんはまっすぐに私を見ていた。

「彼氏、いるの?」

「……ううん」

私は小さく首を横に振った。

「夢とバイトばっかりで。恋愛の方は、おろそかです」

軽く笑ってごまかしたけれど、言ってみて少し寂しくなった。

大学に入っても、誰かに夢中になるような恋なんて、したことがない。
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