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第1章 出会いは、ほんの一瞬の勇気から
⑨
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「そっか」
玲央さんは、それ以上なにも言わなかった。
責めることも、哀れむこともなく、ただ静かに頷いていた。
私はそっと彼を見上げる。
――こんなに素敵な人が目の前にいるのに。
知的で落ち着いていて、でもどこか寂しげで。
優しさを惜しみなく与えてくれるような人。
きっと、こういう人と恋愛したら、幸せなんだろうな。
そんなことを思ってしまった自分に、ちょっと驚いた。
でも、きっと――私はお子様扱いされて、終わりなんだろう。
相手は一回り以上も年上で、副社長で。
住む世界が違いすぎる。
私は視線を落として、小さく深呼吸をした。
それでも、ほんの少しだけ、胸があたたかくなっていた。
「また来るよ」
そう言って、玲央さんは立ち上がった。
花瓶の花に視線を落とし、最後にもう一度だけ私を見た。
「あっ、もう……大丈夫です」
そう伝えたかった。
本当に、大丈夫だと思っていた。
けれど彼は、ふっと微笑んで言った。
「そんな寂しいこと、言わないで」
そして、そっと手を伸ばして、私の頭の上をポンポンと撫でた。
その瞬間、胸の奥が温かくなって、でも同時に、ひどく切なかった。
――こんなふうに触れられたら、もっと好きになってしまう。
そう思った矢先、翌日。
彼は、いつもの時間になっても来なかった。
病室の時計を何度見ても、扉は開かない。
ナースコールの音や足音に、何度も胸を跳ねさせてしまう。
「今日は……きっと、忙しいんだろうな」
口に出してみても、その声は自分に言い聞かせるようで、少し震えていた。
会いたい。
ただそれだけなのに、どうしようもないくらい寂しい。
ひとりの時間が、やけに長く感じる。
「……ううっ」
気づけば、頬を涙がつたっていた。
静かに、止めようもなく。
私は初めて、自分の気持ちに名前をつけた。
――会いたい、玲央さんに。
それはもう、“憧れ”じゃなくて、“恋”だった。
お見舞いの時間、終了30分前。
もう今日は来ないかもしれない――そう思いかけていたその時、ドアが開いた。
「ひよりさん、遅くなってごめん」
玲央さんの声だった。
その姿には、いつもの花束がなかった。
「会議が長引いて……その、花も買えなくて……」
息を切らしながら、彼は申し訳なさそうに頭を下げた。
乱れたネクタイ、濡れた髪先、スーツのしわ――どれも、急いできてくれた証拠だった。
その姿を見た瞬間、胸に溜めていた言葉が、ふとこぼれた。
「……会いたかった」
自分でも驚くほど素直な声だった。
飾り気のない、真っ直ぐな気持ち。
玲央さんが、目を見開いた。
そして、ゆっくりと歩み寄ってきた。
「ひよりさん……」
彼は迷うことなく、私を抱きしめてくれた。
胸元に顔を埋めたその瞬間、いつもの香水の香りがふわっと広がる。
その香りだけで、涙があふれそうになった。
玲央さんは、それ以上なにも言わなかった。
責めることも、哀れむこともなく、ただ静かに頷いていた。
私はそっと彼を見上げる。
――こんなに素敵な人が目の前にいるのに。
知的で落ち着いていて、でもどこか寂しげで。
優しさを惜しみなく与えてくれるような人。
きっと、こういう人と恋愛したら、幸せなんだろうな。
そんなことを思ってしまった自分に、ちょっと驚いた。
でも、きっと――私はお子様扱いされて、終わりなんだろう。
相手は一回り以上も年上で、副社長で。
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私は視線を落として、小さく深呼吸をした。
それでも、ほんの少しだけ、胸があたたかくなっていた。
「また来るよ」
そう言って、玲央さんは立ち上がった。
花瓶の花に視線を落とし、最後にもう一度だけ私を見た。
「あっ、もう……大丈夫です」
そう伝えたかった。
本当に、大丈夫だと思っていた。
けれど彼は、ふっと微笑んで言った。
「そんな寂しいこと、言わないで」
そして、そっと手を伸ばして、私の頭の上をポンポンと撫でた。
その瞬間、胸の奥が温かくなって、でも同時に、ひどく切なかった。
――こんなふうに触れられたら、もっと好きになってしまう。
そう思った矢先、翌日。
彼は、いつもの時間になっても来なかった。
病室の時計を何度見ても、扉は開かない。
ナースコールの音や足音に、何度も胸を跳ねさせてしまう。
「今日は……きっと、忙しいんだろうな」
口に出してみても、その声は自分に言い聞かせるようで、少し震えていた。
会いたい。
ただそれだけなのに、どうしようもないくらい寂しい。
ひとりの時間が、やけに長く感じる。
「……ううっ」
気づけば、頬を涙がつたっていた。
静かに、止めようもなく。
私は初めて、自分の気持ちに名前をつけた。
――会いたい、玲央さんに。
それはもう、“憧れ”じゃなくて、“恋”だった。
お見舞いの時間、終了30分前。
もう今日は来ないかもしれない――そう思いかけていたその時、ドアが開いた。
「ひよりさん、遅くなってごめん」
玲央さんの声だった。
その姿には、いつもの花束がなかった。
「会議が長引いて……その、花も買えなくて……」
息を切らしながら、彼は申し訳なさそうに頭を下げた。
乱れたネクタイ、濡れた髪先、スーツのしわ――どれも、急いできてくれた証拠だった。
その姿を見た瞬間、胸に溜めていた言葉が、ふとこぼれた。
「……会いたかった」
自分でも驚くほど素直な声だった。
飾り気のない、真っ直ぐな気持ち。
玲央さんが、目を見開いた。
そして、ゆっくりと歩み寄ってきた。
「ひよりさん……」
彼は迷うことなく、私を抱きしめてくれた。
胸元に顔を埋めたその瞬間、いつもの香水の香りがふわっと広がる。
その香りだけで、涙があふれそうになった。
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