15歳差の御曹司に甘やかされています〜助けたはずがなぜか溺愛対象に〜 【完結】

日下奈緒

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第1章 出会いは、ほんの一瞬の勇気から

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「そっか」

玲央さんは、それ以上なにも言わなかった。

責めることも、哀れむこともなく、ただ静かに頷いていた。

私はそっと彼を見上げる。

――こんなに素敵な人が目の前にいるのに。

知的で落ち着いていて、でもどこか寂しげで。

優しさを惜しみなく与えてくれるような人。

きっと、こういう人と恋愛したら、幸せなんだろうな。

そんなことを思ってしまった自分に、ちょっと驚いた。

でも、きっと――私はお子様扱いされて、終わりなんだろう。

相手は一回り以上も年上で、副社長で。

住む世界が違いすぎる。

私は視線を落として、小さく深呼吸をした。

それでも、ほんの少しだけ、胸があたたかくなっていた。

「また来るよ」

そう言って、玲央さんは立ち上がった。

花瓶の花に視線を落とし、最後にもう一度だけ私を見た。

「あっ、もう……大丈夫です」

そう伝えたかった。

本当に、大丈夫だと思っていた。

けれど彼は、ふっと微笑んで言った。

「そんな寂しいこと、言わないで」

そして、そっと手を伸ばして、私の頭の上をポンポンと撫でた。

その瞬間、胸の奥が温かくなって、でも同時に、ひどく切なかった。

――こんなふうに触れられたら、もっと好きになってしまう。

そう思った矢先、翌日。

彼は、いつもの時間になっても来なかった。

病室の時計を何度見ても、扉は開かない。

ナースコールの音や足音に、何度も胸を跳ねさせてしまう。

「今日は……きっと、忙しいんだろうな」

口に出してみても、その声は自分に言い聞かせるようで、少し震えていた。

会いたい。

ただそれだけなのに、どうしようもないくらい寂しい。

ひとりの時間が、やけに長く感じる。

「……ううっ」

気づけば、頬を涙がつたっていた。

静かに、止めようもなく。

私は初めて、自分の気持ちに名前をつけた。

――会いたい、玲央さんに。

それはもう、“憧れ”じゃなくて、“恋”だった。

お見舞いの時間、終了30分前。

もう今日は来ないかもしれない――そう思いかけていたその時、ドアが開いた。

「ひよりさん、遅くなってごめん」

玲央さんの声だった。

その姿には、いつもの花束がなかった。

「会議が長引いて……その、花も買えなくて……」

息を切らしながら、彼は申し訳なさそうに頭を下げた。

乱れたネクタイ、濡れた髪先、スーツのしわ――どれも、急いできてくれた証拠だった。

その姿を見た瞬間、胸に溜めていた言葉が、ふとこぼれた。

「……会いたかった」

自分でも驚くほど素直な声だった。

飾り気のない、真っ直ぐな気持ち。

玲央さんが、目を見開いた。

そして、ゆっくりと歩み寄ってきた。

「ひよりさん……」

彼は迷うことなく、私を抱きしめてくれた。

胸元に顔を埋めたその瞬間、いつもの香水の香りがふわっと広がる。

その香りだけで、涙があふれそうになった。
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