15歳差の御曹司に甘やかされています〜助けたはずがなぜか溺愛対象に〜 【完結】

日下奈緒

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第2章 恋に落ちるのは、ほんの数日だった

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そして翌日、玲央さんは私服で現れた。
白地に淡いグレーのラインが入ったシャツ。

いつものスーツ姿とは違って、少しだけ砕けた雰囲気。でも、それがまた彼によく似合っていた。

「今日は、お仕事はないんですね。」

「うん。午前中で片付けてきた。」

そう言って微笑むと、手に持っていた包みを差し出してくる。

「はい、今日の分。」

「えっ、また……?」

差し出されたのは、淡いピンクと薄紫の花があしらわれた、小ぶりなブーケ。

見惚れるような色の取り合わせに、思わず息を呑む。

「毎日、買うのは苦じゃないですか?」

私がそう尋ねると、玲央さんは肩をすくめて笑った。

「なあに。逆に花屋と馴染みになったよ。名前、覚えられちゃった。」

「ふふっ。」

ふと、ブーケの中に、小さな白いカードが挿してあるのが目に入った。

「あれ……これ、何か書いてあります?」

「……ああ、それは……」

少し間をおいて、彼は照れくさそうに言った。

「店の人が、添えたらどうですかって。……書いちゃった。」

私はそっとカードを引き抜き、花束の香りに包まれながら、指先で開いた。

そこには、玲央さんの筆跡で、こんな言葉が綴られていた。

今日は花を選ぶ時間が、
いちばん穏やかな時間でした。
君が笑ってくれることが、
最近の俺の癒しです。

胸の奥が、きゅっと音を立てる。

私は顔を上げた。

「……こんな言葉、もらったの初めてです。」

玲央さんは、困ったような、それでも優しい顔をしていた。

「言葉って、思ってるだけじゃ伝わらないからね。ちゃんと残してみたくなったんだ。」

私の心の中に、小さな灯がぽっとともる。

何かが始まりそうで、でもまだ、はっきりとは見えない。

だけど――きっと、もう一度会いたいと思ったあの日から、私の時間は変わり始めていたのだ。

彼が帰ったあと、病室の静けさが戻る。

私は枕元のテーブルに視線を落とした。

ふと、さっきのブーケに添えられていたメッセージカードが気になって、指先でそっとつまむ。

表には、丁寧な字で小さく名前が書かれていた。

「一ノ瀬玲央……」

どこかに仕舞っておこうかと思ったけれど、気づけばスマホを手に取っていた。

胸の奥で、知らなくてもいい何かを知ろうとしている、自分がいた。

検索窓に名前を打ち込むと、すぐにいくつもの候補が表示された。

【一ノ瀬玲央 副社長】【一ノ瀬玲央 経歴】【一ノ瀬玲央 CM】

「……やっぱり。」

画面に出てきた写真の中の彼は、スーツ姿で真剣なまなざしをしていた。

今まで見たことのない、仕事の顔。

でも、どこかで見たことがあるような気もする。

そう思いながらスクロールしていくと、ひとつのリンクが目にとまった。

『副社長の一日』という社内ブログ。

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