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第2章 恋に落ちるのは、ほんの数日だった
①
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そして翌日、玲央さんは私服で現れた。
白地に淡いグレーのラインが入ったシャツ。
いつものスーツ姿とは違って、少しだけ砕けた雰囲気。でも、それがまた彼によく似合っていた。
「今日は、お仕事はないんですね。」
「うん。午前中で片付けてきた。」
そう言って微笑むと、手に持っていた包みを差し出してくる。
「はい、今日の分。」
「えっ、また……?」
差し出されたのは、淡いピンクと薄紫の花があしらわれた、小ぶりなブーケ。
見惚れるような色の取り合わせに、思わず息を呑む。
「毎日、買うのは苦じゃないですか?」
私がそう尋ねると、玲央さんは肩をすくめて笑った。
「なあに。逆に花屋と馴染みになったよ。名前、覚えられちゃった。」
「ふふっ。」
ふと、ブーケの中に、小さな白いカードが挿してあるのが目に入った。
「あれ……これ、何か書いてあります?」
「……ああ、それは……」
少し間をおいて、彼は照れくさそうに言った。
「店の人が、添えたらどうですかって。……書いちゃった。」
私はそっとカードを引き抜き、花束の香りに包まれながら、指先で開いた。
そこには、玲央さんの筆跡で、こんな言葉が綴られていた。
今日は花を選ぶ時間が、
いちばん穏やかな時間でした。
君が笑ってくれることが、
最近の俺の癒しです。
胸の奥が、きゅっと音を立てる。
私は顔を上げた。
「……こんな言葉、もらったの初めてです。」
玲央さんは、困ったような、それでも優しい顔をしていた。
「言葉って、思ってるだけじゃ伝わらないからね。ちゃんと残してみたくなったんだ。」
私の心の中に、小さな灯がぽっとともる。
何かが始まりそうで、でもまだ、はっきりとは見えない。
だけど――きっと、もう一度会いたいと思ったあの日から、私の時間は変わり始めていたのだ。
彼が帰ったあと、病室の静けさが戻る。
私は枕元のテーブルに視線を落とした。
ふと、さっきのブーケに添えられていたメッセージカードが気になって、指先でそっとつまむ。
表には、丁寧な字で小さく名前が書かれていた。
「一ノ瀬玲央……」
どこかに仕舞っておこうかと思ったけれど、気づけばスマホを手に取っていた。
胸の奥で、知らなくてもいい何かを知ろうとしている、自分がいた。
検索窓に名前を打ち込むと、すぐにいくつもの候補が表示された。
【一ノ瀬玲央 副社長】【一ノ瀬玲央 経歴】【一ノ瀬玲央 CM】
「……やっぱり。」
画面に出てきた写真の中の彼は、スーツ姿で真剣なまなざしをしていた。
今まで見たことのない、仕事の顔。
でも、どこかで見たことがあるような気もする。
そう思いながらスクロールしていくと、ひとつのリンクが目にとまった。
『副社長の一日』という社内ブログ。
白地に淡いグレーのラインが入ったシャツ。
いつものスーツ姿とは違って、少しだけ砕けた雰囲気。でも、それがまた彼によく似合っていた。
「今日は、お仕事はないんですね。」
「うん。午前中で片付けてきた。」
そう言って微笑むと、手に持っていた包みを差し出してくる。
「はい、今日の分。」
「えっ、また……?」
差し出されたのは、淡いピンクと薄紫の花があしらわれた、小ぶりなブーケ。
見惚れるような色の取り合わせに、思わず息を呑む。
「毎日、買うのは苦じゃないですか?」
私がそう尋ねると、玲央さんは肩をすくめて笑った。
「なあに。逆に花屋と馴染みになったよ。名前、覚えられちゃった。」
「ふふっ。」
ふと、ブーケの中に、小さな白いカードが挿してあるのが目に入った。
「あれ……これ、何か書いてあります?」
「……ああ、それは……」
少し間をおいて、彼は照れくさそうに言った。
「店の人が、添えたらどうですかって。……書いちゃった。」
私はそっとカードを引き抜き、花束の香りに包まれながら、指先で開いた。
そこには、玲央さんの筆跡で、こんな言葉が綴られていた。
今日は花を選ぶ時間が、
いちばん穏やかな時間でした。
君が笑ってくれることが、
最近の俺の癒しです。
胸の奥が、きゅっと音を立てる。
私は顔を上げた。
「……こんな言葉、もらったの初めてです。」
玲央さんは、困ったような、それでも優しい顔をしていた。
「言葉って、思ってるだけじゃ伝わらないからね。ちゃんと残してみたくなったんだ。」
私の心の中に、小さな灯がぽっとともる。
何かが始まりそうで、でもまだ、はっきりとは見えない。
だけど――きっと、もう一度会いたいと思ったあの日から、私の時間は変わり始めていたのだ。
彼が帰ったあと、病室の静けさが戻る。
私は枕元のテーブルに視線を落とした。
ふと、さっきのブーケに添えられていたメッセージカードが気になって、指先でそっとつまむ。
表には、丁寧な字で小さく名前が書かれていた。
「一ノ瀬玲央……」
どこかに仕舞っておこうかと思ったけれど、気づけばスマホを手に取っていた。
胸の奥で、知らなくてもいい何かを知ろうとしている、自分がいた。
検索窓に名前を打ち込むと、すぐにいくつもの候補が表示された。
【一ノ瀬玲央 副社長】【一ノ瀬玲央 経歴】【一ノ瀬玲央 CM】
「……やっぱり。」
画面に出てきた写真の中の彼は、スーツ姿で真剣なまなざしをしていた。
今まで見たことのない、仕事の顔。
でも、どこかで見たことがあるような気もする。
そう思いながらスクロールしていくと、ひとつのリンクが目にとまった。
『副社長の一日』という社内ブログ。
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