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第2章 恋に落ちるのは、ほんの数日だった
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まるで夢見がちなヒロインみたいに、
“あの人と恋に落ちるかも”なんて、都合のいい妄想をしていた自分が滑稽で仕方なかった。
「……私って、ほんとバカ。」
ただの女子大生。
アルバイトと勉強で精一杯の、何の取り柄もない女の子。
そんな私が、御曹司に恋してた。
毎日花を持ってきてくれて、優しく微笑んでくれて、手を握ってくれて。
それを全部、特別な感情だと信じ込んでいた。
「違うのに。」
あの人は、私を“助けてくれた女の子”として大切にしてくれているだけ。
それだけなのに――。
目頭が熱くなった。
涙は、もうこぼれないと思っていたのに。
心の中で、そっと思った。
(これ以上、好きになっちゃいけない)
(ちゃんと、現実を見なくちゃ――)
でも、どうしてだろう。
明日また、病室のドアが開いて「ひよりさん」と呼ばれたら。
私は、どんな顔をすればいいの?
その答えが見つからないまま、私は朝まで、ただ布団の中で目を閉じていた。
翌日。昼下がりの病室に、いつもと少し違う空気が流れ込んできた。
「こんにちは。」
ドアの向こうから現れたのは、玲央さん――だけではなかった。
その隣には、スーツ姿の男性がいる。
玲央さんより少し若く、どこか飄々とした雰囲気だ。
「弁護士。一ノ瀬 海です。兄の付き添いで伺いました。」
「……弁護士? 付き添い?」
私はきょとんとしたまま立ち上がろうとして、慌てて玲央さんが止めた。
「無理しないで。彼は俺の弟なんだ。」
「弟さん……?」
驚いていると、海さんが手を差し出してきた。
「どうぞ、握手でも。」
「……あ、はい。」
その手を戸惑いながら握ると、彼はにっこりと笑った。
「さて、急な話で申し訳ないんですが――入院費はこちらで持たせてもらいます。兄がお世話になってますので。」
「え? でも……」
私は思わず、玲央さんを見た。
「玲央さん、そんな……私は保険で払いますから。」
「まあまあ、お嬢さん。」
海さんが軽く手を上げて、ウィンクをひとつ。
「貰えるものは貰っておく。これはね、世の中を渡る処世術ですよ。」
茶化すようなその笑顔に、思わずくすりと笑ってしまった。
「でも、それじゃ私が……」
「玲央がどうしてもって言うからさ。兄貴ってば、妙に律儀でね。」
「……海、余計なことは言うな。」
玲央さんは小さくため息をついて、弟を一瞥した。
「ま、あとはご本人同士で。俺はここで失礼しますね。」
そう言って海さんは軽く頭を下げ、スタスタと病室を後にした。
残された私と玲央さんの間に、少しだけ静けさが落ちる。
「……ごめん。勝手に連れてきて。」
「いえ。なんだか楽しい人ですね、弟さん。」
「うん、まあ。……でも俺とは全然違うだろ?」
“あの人と恋に落ちるかも”なんて、都合のいい妄想をしていた自分が滑稽で仕方なかった。
「……私って、ほんとバカ。」
ただの女子大生。
アルバイトと勉強で精一杯の、何の取り柄もない女の子。
そんな私が、御曹司に恋してた。
毎日花を持ってきてくれて、優しく微笑んでくれて、手を握ってくれて。
それを全部、特別な感情だと信じ込んでいた。
「違うのに。」
あの人は、私を“助けてくれた女の子”として大切にしてくれているだけ。
それだけなのに――。
目頭が熱くなった。
涙は、もうこぼれないと思っていたのに。
心の中で、そっと思った。
(これ以上、好きになっちゃいけない)
(ちゃんと、現実を見なくちゃ――)
でも、どうしてだろう。
明日また、病室のドアが開いて「ひよりさん」と呼ばれたら。
私は、どんな顔をすればいいの?
その答えが見つからないまま、私は朝まで、ただ布団の中で目を閉じていた。
翌日。昼下がりの病室に、いつもと少し違う空気が流れ込んできた。
「こんにちは。」
ドアの向こうから現れたのは、玲央さん――だけではなかった。
その隣には、スーツ姿の男性がいる。
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「弁護士。一ノ瀬 海です。兄の付き添いで伺いました。」
「……弁護士? 付き添い?」
私はきょとんとしたまま立ち上がろうとして、慌てて玲央さんが止めた。
「無理しないで。彼は俺の弟なんだ。」
「弟さん……?」
驚いていると、海さんが手を差し出してきた。
「どうぞ、握手でも。」
「……あ、はい。」
その手を戸惑いながら握ると、彼はにっこりと笑った。
「さて、急な話で申し訳ないんですが――入院費はこちらで持たせてもらいます。兄がお世話になってますので。」
「え? でも……」
私は思わず、玲央さんを見た。
「玲央さん、そんな……私は保険で払いますから。」
「まあまあ、お嬢さん。」
海さんが軽く手を上げて、ウィンクをひとつ。
「貰えるものは貰っておく。これはね、世の中を渡る処世術ですよ。」
茶化すようなその笑顔に、思わずくすりと笑ってしまった。
「でも、それじゃ私が……」
「玲央がどうしてもって言うからさ。兄貴ってば、妙に律儀でね。」
「……海、余計なことは言うな。」
玲央さんは小さくため息をついて、弟を一瞥した。
「ま、あとはご本人同士で。俺はここで失礼しますね。」
そう言って海さんは軽く頭を下げ、スタスタと病室を後にした。
残された私と玲央さんの間に、少しだけ静けさが落ちる。
「……ごめん。勝手に連れてきて。」
「いえ。なんだか楽しい人ですね、弟さん。」
「うん、まあ。……でも俺とは全然違うだろ?」
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