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第4章 追いかけた先に、あなたがいた
⑥
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「少し歩くけれど、レストランを予約してるんだ。行こう。」
「はい。」
レストラン……よかった、今日ワンピースで来て。
玲央さんが一歩踏み出すと、私はその後ろを小走りで追いかける。
足元のパンプスがカツンと鳴って、都会の夕暮れに響いた。
歩きながら、周囲の視線に気づいた。
会社帰りらしき女性たちが、こそこそとヒソヒソ話をしている。
「ねえ、あの人見た?超かっこよくない?」
「スーツ似合いすぎ……彼女、羨ましい~」
そんな声が風に乗って聞こえてくる。
「ん?」
玲央さんが振り返って私を見た。
「いえ……玲央さんって、モテるんですね。」
思わず言ってしまった。すると玲央さんは、少しだけ微笑んだ。
「いつものことだよ。」
さらりと、でもどこか照れたように。そう言って、玲央さんはふいに私の手を取った。
「えっ……」
少しひんやりした彼の手が、私の手をしっかりと包む。
繋いだ手の温もりが、胸までじんわりと広がった。
今日のこの時間を、ずっと忘れたくない。そう思った。
レストランに着くと、私たちはすぐに窓際の席へ案内された。
「一ノ瀬様、ご来店ありがとうございます。」
丁寧なお辞儀とともに、黒服のスタッフがメニューを差し出してくれる。
その一言に、私は内心ドキリとした。
――“一ノ瀬様”って……常連?それとも特別なお客様?
目の前に並ぶテーブルセッティングも、どこか上品で、どこか別世界のようだった。
玲央さんは、そんな私の表情に気づいたのか、ふっと耳元に顔を寄せた。
「実は、系列店なんだよ。」
「えっ、系列店?」
「うん。一ノ瀬グループで運営してるレストランのひとつ。」
あっさりと言うけれど、つまりそれって――このレストランも、玲央さんの会社の一部ってこと?
私はぎこちなくメニュー表を開いた。どの料理も、まるで雑誌の中の世界みたいで、桁が違って見える。
「ええっと……値段、桁が違うような……」
メニューに記された数字を見て、私はごくりと唾を飲み込んだ。一人七千円って、ランチ三回分はあるんじゃない?
「大丈夫。社割きくから。」
玲央さんは、あくまで平然とした顔でそう言う。
そうだよね、私に気を遣ってくれてるんだ。
「面倒だから、このコースでいい?」
「ええっと……」
まだ返事もしていないのに、玲央さんは手際よく店員さんを呼んだ。
「すみません。このコースで。飲み物は、カクテル?」
そう言いながら、お酒のメニューをさっと私の前に差し出してくれる。
「じゃあ……カシスオレンジを。」
なるべく控えめなものを選ぶ。すると玲央さんは、くすっと笑った。
「ひよりさんらしいね。」
なんだか恥ずかしくて、私はそっと目を伏せた。
でもその言葉は、不思議と心を温かくしてくれた。
「はい。」
レストラン……よかった、今日ワンピースで来て。
玲央さんが一歩踏み出すと、私はその後ろを小走りで追いかける。
足元のパンプスがカツンと鳴って、都会の夕暮れに響いた。
歩きながら、周囲の視線に気づいた。
会社帰りらしき女性たちが、こそこそとヒソヒソ話をしている。
「ねえ、あの人見た?超かっこよくない?」
「スーツ似合いすぎ……彼女、羨ましい~」
そんな声が風に乗って聞こえてくる。
「ん?」
玲央さんが振り返って私を見た。
「いえ……玲央さんって、モテるんですね。」
思わず言ってしまった。すると玲央さんは、少しだけ微笑んだ。
「いつものことだよ。」
さらりと、でもどこか照れたように。そう言って、玲央さんはふいに私の手を取った。
「えっ……」
少しひんやりした彼の手が、私の手をしっかりと包む。
繋いだ手の温もりが、胸までじんわりと広がった。
今日のこの時間を、ずっと忘れたくない。そう思った。
レストランに着くと、私たちはすぐに窓際の席へ案内された。
「一ノ瀬様、ご来店ありがとうございます。」
丁寧なお辞儀とともに、黒服のスタッフがメニューを差し出してくれる。
その一言に、私は内心ドキリとした。
――“一ノ瀬様”って……常連?それとも特別なお客様?
目の前に並ぶテーブルセッティングも、どこか上品で、どこか別世界のようだった。
玲央さんは、そんな私の表情に気づいたのか、ふっと耳元に顔を寄せた。
「実は、系列店なんだよ。」
「えっ、系列店?」
「うん。一ノ瀬グループで運営してるレストランのひとつ。」
あっさりと言うけれど、つまりそれって――このレストランも、玲央さんの会社の一部ってこと?
私はぎこちなくメニュー表を開いた。どの料理も、まるで雑誌の中の世界みたいで、桁が違って見える。
「ええっと……値段、桁が違うような……」
メニューに記された数字を見て、私はごくりと唾を飲み込んだ。一人七千円って、ランチ三回分はあるんじゃない?
「大丈夫。社割きくから。」
玲央さんは、あくまで平然とした顔でそう言う。
そうだよね、私に気を遣ってくれてるんだ。
「面倒だから、このコースでいい?」
「ええっと……」
まだ返事もしていないのに、玲央さんは手際よく店員さんを呼んだ。
「すみません。このコースで。飲み物は、カクテル?」
そう言いながら、お酒のメニューをさっと私の前に差し出してくれる。
「じゃあ……カシスオレンジを。」
なるべく控えめなものを選ぶ。すると玲央さんは、くすっと笑った。
「ひよりさんらしいね。」
なんだか恥ずかしくて、私はそっと目を伏せた。
でもその言葉は、不思議と心を温かくしてくれた。
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