15歳差の御曹司に甘やかされています〜助けたはずがなぜか溺愛対象に〜 【完結】

日下奈緒

文字の大きさ
46 / 99
第5章 ようやく始まった恋なのに

しおりを挟む
言いかけたその時だった。

小さな影が玲央さんの足元に駆け寄り、ぎゅっとしがみついた。

「お父さん、抱っこして。」

玲音君――あの、玲央さんにそっくりな男の子だ。

玲央さんは一瞬、私に視線を向けたが、何も言わず、そっと抱き上げた。

その背後から、女性の姿が現れる。

「……ああ、ひよりさんも一緒だったの?」

涼やかな声。萌音さんだった。

その自然な口調と笑みが、私の胸を締めつけた。

――まさか、今日はこの人と会う約束だったの?

三人で並ぶ姿が、まるで「家族」に見えた。玲央さんの腕の中で嬉しそうに笑う玲音君。隣で微笑む萌音さん。

私は、ひとりぼっちだった。

「ひよりさん……話したいことがあるんだ。」

玲央さんが私に向き直る。でも、その腕の中には、確かに「過去の証」がいた。

私は、目をそらさずに言った。

「話してください。全部、聞きます。」

その瞬間、私の決意と、覚悟が玲央さんの目に映った気がした――。

そして私達は、あまり人のいない静かなカフェを選び、話すことにした。

何故か、三人が同じ長椅子に並び、私だけが一人、向かい側に座るという配置になった。

まるで、そこにすでに「家族」がいるかのようで、胸がきゅっと締めつけられる。

「ひよりさん、話っていうのは……玲音のことなんだ。」

玲央さんが静かに切り出す。

「はい。」

私は息を呑んだまま、頷く。

ちょうどその時、頼んでいたアイスティーがテーブルに置かれる。その冷たいグラスの中で、氷が小さく音を立てた。

「萌音とも話し合ったんだけど、玲音を認知することにした。」

予想していた言葉だった。玲央さんは誠実な人だから。

だからこそ、逃げる選択肢は選ばないと思っていた。

「そう、ですか……」

私は微笑もうとしたけれど、うまくいかなかった。

喉の奥がひどく苦しかった。

言葉に詰まり、アイスティーに手を伸ばしても、氷の冷たさは心を癒してはくれなかった。

玲音君が「お父さん」と呼ぶ声が、今も耳に残っている。

私のいる場所は、どこなのだろう。

「それで、その上の話なんだけど――」

そう言ったきり、玲央さんは言葉を失っていた。

私から視線を逸らし、口元を結ぶ。その表情には、戸惑いと痛みが滲んでいる。

どうして。何を言おうとしているの?

私は、テーブルの上にそっと手を伸ばし、玲央さんの指先に触れた。

「玲央さん。私……玲央さんの話なら、どんなことでも聞くから。だから……教えてください。」

自分でも震えているのがわかった。怖かった。けれど、黙っていることはもっと怖かった。

すると玲央さんは、なおさら苦しい顔をして、うつむいた。

……そして代わりに、隣に座っていた萌音さんが、静かに口を開いた。

「――私たちの結婚を、許してほしいの。」

その言葉は、カフェの静寂を破るには充分だった。

耳が、キーンと鳴ったような気がした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

黒瀬部長は部下を溺愛したい

桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。 人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど! 好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。 部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。 スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。

【完結】エリート産業医はウブな彼女を溺愛する。

花澤凛
恋愛
第17回 恋愛小説大賞 奨励賞受賞 皆さまのおかげで賞をいただくことになりました。 ありがとうございます。 今好きな人がいます。 相手は殿上人の千秋柾哉先生。 仕事上の関係で気まずくなるぐらいなら眺めているままでよかった。 それなのに千秋先生からまさかの告白…?! 「俺と付き合ってくれませんか」    どうしよう。うそ。え?本当に? 「結構はじめから可愛いなあって思ってた」 「なんとか自分のものにできないかなって」 「果穂。名前で呼んで」 「今日から俺のもの、ね?」 福原果穂26歳:OL:人事労務部 × 千秋柾哉33歳:産業医(名門外科医家系御曹司出身)

クールなイケメン御曹司が私だけに優しい理由~隣人は「溺愛」という「愛」を教えてくれる~

けいこ
恋愛
マンションの隣の部屋に引越してきたのは、 超絶イケメンのとても優しい男性だった。 誰かを「愛」することを諦めていた詩穂は、 そんな彼に密かに恋心を芽生えさせる。 驚くことに、その彼は大型テーマパークなどを経営する 「桐生グループ」の御曹司で、 なんと詩穂のオフィスに課長として現れた。 でも、隣人としての彼とは全く違って、 会社ではまるで別人のようにクールで近寄り難い。 いったいどっちが本当の彼なの? そして、会社以外で私にとても優しくするのはなぜ? 「桐生グループ」御曹司 桐生 拓弥(きりゅう たくみ) 30歳 × テーマパーク企画部門 姫川 詩穂(ひめかわ しほ) 25歳

胃袋掴んだら御曹司にプロポーズされちゃいました

鳴宮鶉子
恋愛
胃袋掴んだら御曹司にプロポーズされちゃいました

エリート御曹司に甘く介抱され、独占欲全開で迫られています

小達出みかん
恋愛
旧題:残業シンデレラに、王子様の溺愛を 「自分は世界一、醜い女なんだーー」過去の辛い失恋から、男性にトラウマがあるさやかは、恋愛を遠ざけ、仕事に精を出して生きていた。一生誰とも付き合わないし、結婚しない。そう決めて、社内でも一番の地味女として「論外」扱いされていたはずなのに、なぜか営業部の王子様•小鳥遊が、やたらとちょっかいをかけてくる。相手にしたくないさやかだったが、ある日エレベーターで過呼吸を起こしてしまったところを助けられてしまいーー。 「お礼に、俺とキスフレンドになってくれない?」 さやかの鉄壁の防御を溶かしていく小鳥遊。けれど彼には、元婚約者がいてーー?

不埒な一級建築士と一夜を過ごしたら、溺愛が待っていました

入海月子
恋愛
有本瑞希 仕事に燃える設計士 27歳 × 黒瀬諒 飄々として軽い一級建築士 35歳 女たらしと嫌厭していた黒瀬と一緒に働くことになった瑞希。 彼の言動は軽いけど、腕は確かで、真摯な仕事ぶりに惹かれていく。 ある日、同僚のミスが発覚して――。

俺様外科医の溺愛、俺の独占欲に火がついた、お前は俺が守る

ラヴ KAZU
恋愛
ある日、まゆは父親からお見合いを進められる。 義兄を慕ってきたまゆはお見合いを阻止すべく、車に引かれそうになったところを助けてくれた、祐志に恋人の振りを頼む。 そこではじめてを経験する。 まゆは三十六年間、男性経験がなかった。 実は祐志は父親から許嫁の存在を伝えられていた。 深海まゆ、一夜を共にした女性だった。 それからまゆの身が危険にさらされる。 「まゆ、お前は俺が守る」 偽りの恋人のはずが、まゆは祐志に惹かれていく。 祐志はまゆを守り切れるのか。 そして、まゆの目の前に現れた工藤飛鳥。 借金の取り立てをする工藤組若頭。 「俺の女になれ」 工藤の言葉に首を縦に振るも、過去のトラウマから身体を重ねることが出来ない。 そんなまゆに一目惚れをした工藤飛鳥。 そして、まゆも徐々に工藤の優しさに惹かれ始める。 果たして、この恋のトライアングルはどうなるのか。

【完結】溺愛予告~御曹司の告白躱します~

蓮美ちま
恋愛
モテる彼氏はいらない。 嫉妬に身を焦がす恋愛はこりごり。 だから、仲の良い同期のままでいたい。 そう思っているのに。 今までと違う甘い視線で見つめられて、 “女”扱いしてるって私に気付かせようとしてる気がする。 全部ぜんぶ、勘違いだったらいいのに。 「勘違いじゃないから」 告白したい御曹司と 告白されたくない小ボケ女子 ラブバトル開始

処理中です...