15歳差の御曹司に甘やかされています〜助けたはずがなぜか溺愛対象に〜 【完結】

日下奈緒

文字の大きさ
48 / 99
第5章 ようやく始まった恋なのに

しおりを挟む
その戸惑いが、逆に私の疑念を深めた。

「もしかして……玲央さんの子供ではないんですか?」

そう問うと、萌音さんは視線を逸らした。答えない。

その沈黙が、すべてを物語っていた。

「DNA検査。受けるわ。受ければいいんでしょ。」

萌音さんは唇を噛みしめながらそう言ったが、目は最後まで私を見なかった。

玲央さんも沈黙を守ったまま、複雑な表情で私と萌音さんを見比べていた。

その横で、無邪気な玲音くんだけが屈託なく笑っていた。

胸の奥が、冷たく沈んでいくようだった。

それからDNA検査の結果が出たと聞いて、私はその場に同席させて貰った。

静まり返った会議室の中、書類を差し出したのは一ノ瀬海さん。玲央さんの弟で弁護士だった。

「こちらが、DNA鑑定の結果です」

海さんの声は冷静だったが、テーブルに置かれた一枚の紙が、場の空気を凍らせる。

私も玲央さんも、その文字を見逃さなかった。

《一ノ瀬玲央氏との父子関係は認められません》

萌音さんは唇を震わせながら、うつむいたまま答えない。

弁護士である玲央さんの弟・海さんが、静かに説明を続けた。

「鑑定の結果、玲音君は兄さんの実子ではないと判明しました。」

「……どういうことだ?」

玲央さんの声が震えていた。怒りとも、困惑ともつかない感情が滲んでいる。

対面に座る萌音さんは、紙を見ようともしない。視線は逸れたまま、唇を噛みしめていた。

「萌音……答えてくれ。玲音は、俺の子じゃないのか?」

「……わからなかったの。あの頃、本当に……どっちの子かわからなくて……」

ようやく絞り出された声は震え、涙が頬を伝う。

「あなたと別れた後に、他の人とも……でも、玲音が生まれた時、あなたに似てる気がして……信じたかったの……」

「信じたかった?俺を巻き込んで、勝手に?」

玲央さんの拳が、机の上で小さく震えていた。

静かな怒りと、深い哀しみがそこにはあった。

私は黙って、その場に座っていた。

玲央さんの横顔が、あまりに苦しそうで、何も言えなかった。

玲央さんの心が、砕けていく音が聞こえそうだった。

「……ひよりさん、出ようか。」

海さんの気遣いに、私は小さく頷いた。

でもその時、玲央さんがぽつりと呟いた。

「……あんなに大事にしようと思ったのに。父親として、ちゃんと向き合おうと思ってたのに……全部、嘘だったんだな。」

私の胸が締めつけられた。

彼はただ、真実が欲しかっただけなのに。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

黒瀬部長は部下を溺愛したい

桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。 人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど! 好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。 部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。 スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。

【完結】エリート産業医はウブな彼女を溺愛する。

花澤凛
恋愛
第17回 恋愛小説大賞 奨励賞受賞 皆さまのおかげで賞をいただくことになりました。 ありがとうございます。 今好きな人がいます。 相手は殿上人の千秋柾哉先生。 仕事上の関係で気まずくなるぐらいなら眺めているままでよかった。 それなのに千秋先生からまさかの告白…?! 「俺と付き合ってくれませんか」    どうしよう。うそ。え?本当に? 「結構はじめから可愛いなあって思ってた」 「なんとか自分のものにできないかなって」 「果穂。名前で呼んで」 「今日から俺のもの、ね?」 福原果穂26歳:OL:人事労務部 × 千秋柾哉33歳:産業医(名門外科医家系御曹司出身)

クールなイケメン御曹司が私だけに優しい理由~隣人は「溺愛」という「愛」を教えてくれる~

けいこ
恋愛
マンションの隣の部屋に引越してきたのは、 超絶イケメンのとても優しい男性だった。 誰かを「愛」することを諦めていた詩穂は、 そんな彼に密かに恋心を芽生えさせる。 驚くことに、その彼は大型テーマパークなどを経営する 「桐生グループ」の御曹司で、 なんと詩穂のオフィスに課長として現れた。 でも、隣人としての彼とは全く違って、 会社ではまるで別人のようにクールで近寄り難い。 いったいどっちが本当の彼なの? そして、会社以外で私にとても優しくするのはなぜ? 「桐生グループ」御曹司 桐生 拓弥(きりゅう たくみ) 30歳 × テーマパーク企画部門 姫川 詩穂(ひめかわ しほ) 25歳

胃袋掴んだら御曹司にプロポーズされちゃいました

鳴宮鶉子
恋愛
胃袋掴んだら御曹司にプロポーズされちゃいました

エリート御曹司に甘く介抱され、独占欲全開で迫られています

小達出みかん
恋愛
旧題:残業シンデレラに、王子様の溺愛を 「自分は世界一、醜い女なんだーー」過去の辛い失恋から、男性にトラウマがあるさやかは、恋愛を遠ざけ、仕事に精を出して生きていた。一生誰とも付き合わないし、結婚しない。そう決めて、社内でも一番の地味女として「論外」扱いされていたはずなのに、なぜか営業部の王子様•小鳥遊が、やたらとちょっかいをかけてくる。相手にしたくないさやかだったが、ある日エレベーターで過呼吸を起こしてしまったところを助けられてしまいーー。 「お礼に、俺とキスフレンドになってくれない?」 さやかの鉄壁の防御を溶かしていく小鳥遊。けれど彼には、元婚約者がいてーー?

不埒な一級建築士と一夜を過ごしたら、溺愛が待っていました

入海月子
恋愛
有本瑞希 仕事に燃える設計士 27歳 × 黒瀬諒 飄々として軽い一級建築士 35歳 女たらしと嫌厭していた黒瀬と一緒に働くことになった瑞希。 彼の言動は軽いけど、腕は確かで、真摯な仕事ぶりに惹かれていく。 ある日、同僚のミスが発覚して――。

俺様外科医の溺愛、俺の独占欲に火がついた、お前は俺が守る

ラヴ KAZU
恋愛
ある日、まゆは父親からお見合いを進められる。 義兄を慕ってきたまゆはお見合いを阻止すべく、車に引かれそうになったところを助けてくれた、祐志に恋人の振りを頼む。 そこではじめてを経験する。 まゆは三十六年間、男性経験がなかった。 実は祐志は父親から許嫁の存在を伝えられていた。 深海まゆ、一夜を共にした女性だった。 それからまゆの身が危険にさらされる。 「まゆ、お前は俺が守る」 偽りの恋人のはずが、まゆは祐志に惹かれていく。 祐志はまゆを守り切れるのか。 そして、まゆの目の前に現れた工藤飛鳥。 借金の取り立てをする工藤組若頭。 「俺の女になれ」 工藤の言葉に首を縦に振るも、過去のトラウマから身体を重ねることが出来ない。 そんなまゆに一目惚れをした工藤飛鳥。 そして、まゆも徐々に工藤の優しさに惹かれ始める。 果たして、この恋のトライアングルはどうなるのか。

【完結】溺愛予告~御曹司の告白躱します~

蓮美ちま
恋愛
モテる彼氏はいらない。 嫉妬に身を焦がす恋愛はこりごり。 だから、仲の良い同期のままでいたい。 そう思っているのに。 今までと違う甘い視線で見つめられて、 “女”扱いしてるって私に気付かせようとしてる気がする。 全部ぜんぶ、勘違いだったらいいのに。 「勘違いじゃないから」 告白したい御曹司と 告白されたくない小ボケ女子 ラブバトル開始

処理中です...