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第5章 ようやく始まった恋なのに
⑨
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玲央さんの車に乗り込んだ私は、静かにドアを閉めた。
運転席の玲央さんは、エンジンをかけたまま、アクセルに足を運ぼうとしない。
フロントガラス越しに沈んだ夕暮れが滲んで見える。
ただ、彼の横顔は――深く傷ついていた。
「玲央さん……」
私は、そっと彼の手を取った。
冷たくなったその指先を、自分の手のひらで包み込む。
「私は、玲央さんを裏切ったりしない」
言葉にした瞬間、喉が詰まりそうになった。
どれだけこの人が、信じていたものに裏切られたか。
私には、その苦しみが痛いほど分かった。
だから、私は身体を寄せて、彼の肩に顔を埋めるように抱きしめた。
「あなたに、嘘はつかないから。……私を、信じて」
玲央さんの胸の奥で、張りつめていた何かが、少しだけほぐれたような気がした。
「ひよりさん。」
私の腕の中で、玲央さんがぽつりと呟いた。
その声は、どこか寂しげで頼りなくて――普段の彼とはまるで違っていた。
一回りも年上の人なのに。
頼れるはずの大人なのに。
今は、誰よりも脆くて、壊れてしまいそうで。
私は、腕に力を込めた。
逃げないで、と願うように、玲央さんを強く抱きしめる。
すると彼が、小さく笑った。
「何だか……ひよりさんに守られてる気がするな。」
その笑顔には、悲しさと、少しの安らぎが混じっていた。
私はそっと顔を上げて、彼の瞳を見つめる。
「守って……あげるよ?」
震える声だったかもしれない。
でもそれでもいい。
この想いが、玲央さんの心に届けば――それだけで。
玲央さんのまつ毛が、静かに揺れた。
「ひより。」
優しく名前を呼ばれて、私は顔を上げる。
玲央さんが、私の髪をそっと撫でた。
その手の温もりに、胸が高鳴る。
「君が、好きだ。」
その声は低く、真っ直ぐで、心に染み込むようだった。
次の瞬間、玲央さんの顔が近づいてくる。ゆっくりと、ためらいなく。
唇と唇が、触れ合った。
一度目は柔らかく、私の様子をうかがうように。
私が戸惑い、頬を赤らめると――玲央さんは、再び唇を重ねてきた。
今度は少し深く、角度を変えながら、何度も。
甘く、優しく、でも熱を帯びていくキスに、私の心も溶けていく。
「……困ったな。止まらないよ。」
囁きながら、玲央さんはシートベルトを外し、身を寄せてくる。
再び唇が触れる。何度も、何度も。
まるでこの想いを確かめるかのように、飽きることなく、愛おしげに。
車内は静かで、私たちの吐息だけが重なる夜。
私はただ、玲央さんのキスに身を委ねた。
すると窓ガラスをコツコツと叩く音がした。
運転席側の窓の向こうに、スーツ姿の男性が立っている。玲央さんの弟――海さんだった。
私は咄嗟に顔をそむけた。まだ玲央さんの腕に包まれたままで、さっきのキスの熱が頬に残っている。
そんな姿を見られたかと思うと、恥ずかしくてたまらなかった。
運転席の玲央さんは、エンジンをかけたまま、アクセルに足を運ぼうとしない。
フロントガラス越しに沈んだ夕暮れが滲んで見える。
ただ、彼の横顔は――深く傷ついていた。
「玲央さん……」
私は、そっと彼の手を取った。
冷たくなったその指先を、自分の手のひらで包み込む。
「私は、玲央さんを裏切ったりしない」
言葉にした瞬間、喉が詰まりそうになった。
どれだけこの人が、信じていたものに裏切られたか。
私には、その苦しみが痛いほど分かった。
だから、私は身体を寄せて、彼の肩に顔を埋めるように抱きしめた。
「あなたに、嘘はつかないから。……私を、信じて」
玲央さんの胸の奥で、張りつめていた何かが、少しだけほぐれたような気がした。
「ひよりさん。」
私の腕の中で、玲央さんがぽつりと呟いた。
その声は、どこか寂しげで頼りなくて――普段の彼とはまるで違っていた。
一回りも年上の人なのに。
頼れるはずの大人なのに。
今は、誰よりも脆くて、壊れてしまいそうで。
私は、腕に力を込めた。
逃げないで、と願うように、玲央さんを強く抱きしめる。
すると彼が、小さく笑った。
「何だか……ひよりさんに守られてる気がするな。」
その笑顔には、悲しさと、少しの安らぎが混じっていた。
私はそっと顔を上げて、彼の瞳を見つめる。
「守って……あげるよ?」
震える声だったかもしれない。
でもそれでもいい。
この想いが、玲央さんの心に届けば――それだけで。
玲央さんのまつ毛が、静かに揺れた。
「ひより。」
優しく名前を呼ばれて、私は顔を上げる。
玲央さんが、私の髪をそっと撫でた。
その手の温もりに、胸が高鳴る。
「君が、好きだ。」
その声は低く、真っ直ぐで、心に染み込むようだった。
次の瞬間、玲央さんの顔が近づいてくる。ゆっくりと、ためらいなく。
唇と唇が、触れ合った。
一度目は柔らかく、私の様子をうかがうように。
私が戸惑い、頬を赤らめると――玲央さんは、再び唇を重ねてきた。
今度は少し深く、角度を変えながら、何度も。
甘く、優しく、でも熱を帯びていくキスに、私の心も溶けていく。
「……困ったな。止まらないよ。」
囁きながら、玲央さんはシートベルトを外し、身を寄せてくる。
再び唇が触れる。何度も、何度も。
まるでこの想いを確かめるかのように、飽きることなく、愛おしげに。
車内は静かで、私たちの吐息だけが重なる夜。
私はただ、玲央さんのキスに身を委ねた。
すると窓ガラスをコツコツと叩く音がした。
運転席側の窓の向こうに、スーツ姿の男性が立っている。玲央さんの弟――海さんだった。
私は咄嗟に顔をそむけた。まだ玲央さんの腕に包まれたままで、さっきのキスの熱が頬に残っている。
そんな姿を見られたかと思うと、恥ずかしくてたまらなかった。
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