15歳差の御曹司に甘やかされています〜助けたはずがなぜか溺愛対象に〜 【完結】

日下奈緒

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第5章 ようやく始まった恋なのに

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窓が開くと、海さんは苦笑交じりに言った。

「兄さん、一応、今後近づかないように先方から念書取ってきたよ。」

「……ああ。仕事できるな。」

玲央さんが低く答え、差し出された封筒を受け取る。

その仕草もどこか沈んでいて、私の心が少しだけ痛んだ。

海さんはちらりと助手席の私に視線を向け、興味深そうに首を傾げた。

「で、彼女……いくつ?」

玲央さんは少しだけ間を置いてから、答えた。

「……二十歳だけど。」

「へえ……やるね、兄さん。」

海さんが軽口を叩くと、玲央さんは少し睨むように視線を投げたが、それ以上は何も言わなかった。

「付き合ってんの?」

「ああ。」

その一言に、私は思わず玲央さんの横顔を見つめた。

本気なんだ――そんな強い意思が、言葉の裏にあった。

海さんは目を細めて私を見つめると、ふっと笑った。

「……ま、兄さんが幸せなら、それでいっか。」

玲央さんは黙ったまま、私の手を握ってくれた。

その温もりが、どんな言葉よりも優しかった。

「まっ。ホテル行く時は同意書書いてもらった方がいいよ。」

唐突な海さんの言葉に、私は思わず息を呑んだ。

「……同意書?」

玲央さんの声が低くなる。

軽く睨みつけるような目で、弟を見た。

「あとで“このセックスは合意のもとではありませんでした”って、言われないようにね。」

「……海っ!」

苛立った声で玲央さんが呼び捨てにする。

その声音に、怒りと焦り、そして照れが混ざっていた。

だけど海さんはどこ吹く風で、ひらりと手を振った。

「じゃ、俺はこれで。お幸せに~」

気楽な足取りで、彼は車の前から離れていった。

「……あの野郎、セックスの同意書って……」

玲央さんが小さく悪態をつく。けれど次の瞬間、助手席の私の方をちらっと見る。

「あ……」

視線が合った瞬間、私は恥ずかしさに耐えられなくなって、そっと顔を背けた。

頬が熱い。頭の中が真っ白になる。

玲央さんは、黙って私の赤くなった顔を見ている。

「見ないでください……」

ぽつりと、声がこぼれた。

すると、玲央さんがふっと息をついた。

「……俺も今、顔真っ赤かもしれない。」

そう言って、照れ隠しのように笑った。

私たちの間に、静かであたたかな空気が流れた。

玲央さんは、静かに車を止めた。

見慣れた私の家の前。だけど、今日は少し違う景色に見えた。

「……ひより。今日は、ありがとう。」

初めて、呼び捨てで名前を呼ばれた。

それだけで、心が跳ねる。

「いえ……私のほうこそ……」

言葉を探していると、玲央さんがこちらを向いた。深くて優しい、真っ直ぐな眼差しが胸に届く。

「俺、ひよりのこと守るから。」

その言葉は、重くて、あたたかくて、ずっと欲しかったものだった。

「そのつもりで。」

冗談みたいに言うくせに、目は本気だった。

「……はい」

震える声で返事をすると、玲央さんは満足そうに微笑んだ。

「じゃあ、また連絡する。」

そう言って車を降り、手を振って去っていく背中。

私は玄関に入ることも忘れて、いつまでもその姿を見送っていた。
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