15歳差の御曹司に甘やかされています〜助けたはずがなぜか溺愛対象に〜 【完結】

日下奈緒

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第6章 あなたが甘くなったのは、私のせい?

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次のデートは、居酒屋だった。

いつもの高級レストランやカフェじゃない、赤ちょうちんの灯る、ちょっとにぎやかな店。

「へえ。こんな場所、初めてだな。」

玲央さんが目を丸くして、周囲をきょろきょろと見渡す姿が、なんだか微笑ましくて笑ってしまった。

「美味しいんですよ、ここ。たまにはこういうのもいいかなって。」

「ひよりとなら、どこでもいいけどね。」

店員さんに案内されてカウンター席へ。

自然と並んで座ることになった。

肩が少し触れる距離が、なんだか新鮮だった。

注文を終えて、料理が届くまでのわずかな時間。

ふと、玲央さんが身を寄せてきて、私の耳元にそっと囁く。

「好きだよ。」

その一言で、心臓が跳ねた。顔がかっと熱くなる。

「玲央さん……ずるい。」

精一杯、平静を装って言い返したけれど、声が震えていたかもしれない。

玲央さんは、そんな私を見て、くすっと笑った。

そして、何も言わずに私の肩に手を回して、そっと抱き寄せてくれた。

周りの喧騒なんて、もう耳に入らない。

この瞬間、私の世界には玲央さんしかいなかった。

「何でも食べたいモノ、注文して。」

居酒屋のざわめきの中、玲央さんは私だけに意識を向けてくれている。

それがくすぐったくて、でも嬉しくて、つい笑ってしまった。

「じゃあ……馬刺し、食べてみたいです。」

ずっと気になってたけど、普段は高くてなかなか手が出せなかった一品。

「うん。あっ、馬刺しください。」

玲央さんは迷いもせず、店員さんにスマートに注文する。

その所作ひとつひとつが、やっぱり“できる男”って感じで、少しだけ誇らしかった。

料理が来るまでのあいだ、私は何気なくスマホを取り出した。

「……あれ?最近、更新してないの?」

私の問いに、玲央さんは苦笑い。

「ネタなくてさ。仕事ばっかりだし。」

玲央さんのSNS──“副社長の一日”という名の、社内でもちょっと話題のアカウント。

「そっか。でも、あれ好きなんです。玲央さんの文章、意外と優しくて。」

「“意外と”は余計。」

「ふふっ、ごめんなさい。」

そんな軽いやりとりをしながら、ふと画面に表示された玲央さんのプロフィール欄に目がいった。

《一ノ瀬玲央/Adworks副社長/趣味:写真・グルメ・“大切な人を笑顔にすること”》

――え?

最後の一文に、思わず動きを止めた。

「……“大切な人を笑顔にすること”って、いつから書いてたんですか?」

玲央さんはグラスに口をつけたまま、私の目をまっすぐに見た。

「さあ、誰のことだろうね?」

にやりと笑ったその顔に、胸がきゅっとなった。

そんなの、もう分かってるよ。

でも、あえて聞き返す勇気はなくて。

私は黙って、馬刺しが運ばれてくるのを待った。
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