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第7章 不安の夜と、確かな腕の中で
⑨
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そして浴室から出ると、そのままベッドに横になった。
玲央さんが、私に腕枕をしてくれる。
「玲央さん、私。玲央さんの事、ちゃんと愛せてる?」
するとクスクスと、玲央さんが笑い出した。
「えっ?どうして笑うの?」
ちょっと拗ねると、玲央さんは髪を撫ででくれた。
「愛せてる。さっきのお風呂だって俺、愛されてるって思った。」
私は玲央さんを抱きしめた。
「本当?」
「男は、好きな女を抱くだけで、俺って愛されてるって思っちゃう動物なんだよ。」
なんだか私も、クスクス笑えた。
「やっと、笑った。」
私は玲央さんを見た。
「そうやって、俺の隣で笑っててほしい。これからもずっと。」
玲央さんも笑顔になってる。
「ひより。俺は、社会人としての君も、妻としての君も、母親になった君も、側で見たい。」
それはこれからの未来も、この人と歩んでいけるという、魔法の言葉だった。
朝の光が、カーテンの隙間からそっと差し込んでいた。
玲央さんが鏡の前でネクタイを締めながら、ぽつりと口にした。
「今度、旅行行こうか。」
私は思わず顔を上げ、ソファから振り返った。
「旅行?」
「うん。近場でいいからさ。温泉でも、海でも。ひよりが行きたいところでいいよ。」
玲央さんは、ネクタイを整える手を止めて、少し照れくさそうに笑った。
「仕事ばっかで、ひよりにちゃんと向き合ってる時間、少ないだろ?」
「そんなこと……ないよ。」
そう言いながら、心の奥がじんと熱くなるのを感じた。
私のこと、ちゃんと見てくれてる。ちゃんと、大切にしようとしてくれてる。
「どこがいいだろね。」
そう呟くと、玲央さんは私の方に向き直り、ポケットからスマホを取り出した。
「ひより、海好きだっけ?それとも山?……あ、でも俺、料理旅館とかも興味あるな」
私は思わずくすっと笑った。
「ねえ、それって……のんびりふたりきりで、ってこと?」
玲央さんは片眉をあげて、小さくうなずいた。
「うん。ふたりで、ちゃんと過ごす時間。欲しいだろ?」
私は静かに頷いた。
なんてことない朝なのに、言葉のひとつひとつが、心に温かく響いた。
玲央さんが玄関に向かって歩き出し、靴を履くと、ドアの前でふと振り返る。
「行ってきます。……旅行、絶対行こうな。」
「うん。楽しみにしてる。」
ドアが閉まったあとも、胸の奥がぽかぽかしていた。
玲央さんと、ふたりきりの時間。
それは、きっとただの旅行じゃなくて――もっと、大切な何かになりそうな気がした。
玲央さんに内緒で、お弁当を作った。
「でーきた。」
キッチンで一人、蓋を閉じた瞬間、胸の中にじんわりと嬉しさが広がる。
食べ終わったらそのまま捨てられるよう、可愛い柄のランチパックに詰めた。
卵焼きに、ほうれん草のお浸し、プチトマト。
そして、メインはふっくら焼いたハンバーグ。
「うん、これなら……玲央さん、絶対喜んでくれるはず。」
お弁当をバッグに入れ、私は電車を乗り継いで玲央さんのオフィスビルへ向かった。
午後の街はビジネスパーソンで溢れていて、私はその中に小さく紛れ込んだ気分だった。
高層ビルが並ぶ一角にある、そのビルの前で、私はスマホを取り出す。
──『今、ビルの外にいます。少しだけ会えますか?』
緊張しながら、送信ボタンを押す。
ふぅ、と深く息を吐いて空を見上げると、ビルのガラスに自分の小さな姿が映っていた。
こんなふうに、誰かのためにお弁当を作る日が来るなんて。
それだけで、胸が温かくなる。
スマホが震える。
《今、降りる。待ってて》
その短い返信が、何より嬉しかった。
数分後。
自動ドアが開いて、紺のスーツに身を包んだ玲央さんが、私を見つけて歩いてくる。
ネクタイの結び目、シャツの襟元、全部きちんとしていて、見惚れてしまう。
玲央さんが、私に腕枕をしてくれる。
「玲央さん、私。玲央さんの事、ちゃんと愛せてる?」
するとクスクスと、玲央さんが笑い出した。
「えっ?どうして笑うの?」
ちょっと拗ねると、玲央さんは髪を撫ででくれた。
「愛せてる。さっきのお風呂だって俺、愛されてるって思った。」
私は玲央さんを抱きしめた。
「本当?」
「男は、好きな女を抱くだけで、俺って愛されてるって思っちゃう動物なんだよ。」
なんだか私も、クスクス笑えた。
「やっと、笑った。」
私は玲央さんを見た。
「そうやって、俺の隣で笑っててほしい。これからもずっと。」
玲央さんも笑顔になってる。
「ひより。俺は、社会人としての君も、妻としての君も、母親になった君も、側で見たい。」
それはこれからの未来も、この人と歩んでいけるという、魔法の言葉だった。
朝の光が、カーテンの隙間からそっと差し込んでいた。
玲央さんが鏡の前でネクタイを締めながら、ぽつりと口にした。
「今度、旅行行こうか。」
私は思わず顔を上げ、ソファから振り返った。
「旅行?」
「うん。近場でいいからさ。温泉でも、海でも。ひよりが行きたいところでいいよ。」
玲央さんは、ネクタイを整える手を止めて、少し照れくさそうに笑った。
「仕事ばっかで、ひよりにちゃんと向き合ってる時間、少ないだろ?」
「そんなこと……ないよ。」
そう言いながら、心の奥がじんと熱くなるのを感じた。
私のこと、ちゃんと見てくれてる。ちゃんと、大切にしようとしてくれてる。
「どこがいいだろね。」
そう呟くと、玲央さんは私の方に向き直り、ポケットからスマホを取り出した。
「ひより、海好きだっけ?それとも山?……あ、でも俺、料理旅館とかも興味あるな」
私は思わずくすっと笑った。
「ねえ、それって……のんびりふたりきりで、ってこと?」
玲央さんは片眉をあげて、小さくうなずいた。
「うん。ふたりで、ちゃんと過ごす時間。欲しいだろ?」
私は静かに頷いた。
なんてことない朝なのに、言葉のひとつひとつが、心に温かく響いた。
玲央さんが玄関に向かって歩き出し、靴を履くと、ドアの前でふと振り返る。
「行ってきます。……旅行、絶対行こうな。」
「うん。楽しみにしてる。」
ドアが閉まったあとも、胸の奥がぽかぽかしていた。
玲央さんと、ふたりきりの時間。
それは、きっとただの旅行じゃなくて――もっと、大切な何かになりそうな気がした。
玲央さんに内緒で、お弁当を作った。
「でーきた。」
キッチンで一人、蓋を閉じた瞬間、胸の中にじんわりと嬉しさが広がる。
食べ終わったらそのまま捨てられるよう、可愛い柄のランチパックに詰めた。
卵焼きに、ほうれん草のお浸し、プチトマト。
そして、メインはふっくら焼いたハンバーグ。
「うん、これなら……玲央さん、絶対喜んでくれるはず。」
お弁当をバッグに入れ、私は電車を乗り継いで玲央さんのオフィスビルへ向かった。
午後の街はビジネスパーソンで溢れていて、私はその中に小さく紛れ込んだ気分だった。
高層ビルが並ぶ一角にある、そのビルの前で、私はスマホを取り出す。
──『今、ビルの外にいます。少しだけ会えますか?』
緊張しながら、送信ボタンを押す。
ふぅ、と深く息を吐いて空を見上げると、ビルのガラスに自分の小さな姿が映っていた。
こんなふうに、誰かのためにお弁当を作る日が来るなんて。
それだけで、胸が温かくなる。
スマホが震える。
《今、降りる。待ってて》
その短い返信が、何より嬉しかった。
数分後。
自動ドアが開いて、紺のスーツに身を包んだ玲央さんが、私を見つけて歩いてくる。
ネクタイの結び目、シャツの襟元、全部きちんとしていて、見惚れてしまう。
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