15歳差の御曹司に甘やかされています〜助けたはずがなぜか溺愛対象に〜 【完結】

日下奈緒

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第9章 誓いの言葉は、静かな夜に

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しばらくして、大学で誠一に会った。

「よう!」

気軽な挨拶。いつもの調子。

でもその笑顔の裏に、どれだけの気持ちが隠れているのか、もう私には読み取れなかった。

私は寂しく笑いながら、その隣に寄った。

「さくら、元気?」

「元気だけど……最近会ってないんだって?」

私はうなずきそうになったけれど、すぐには答えられなかった。

“あの夜”のことを誠一は知っているのだろうか。

知っていたら、こんなふうに笑えるはずない。

いや、もしかしたら、誠一にとっては、たいしたことじゃなかったのかもしれない。

そう思うと、胸が少し痛んだ。

私たちは一緒に学食の列に並び、トレーを手に取る。

いつもと変わらない、学生たちのざわめき。注文の声、揚げ物の香り。

でも、私の胸の奥だけが静かに冷えていた。

やがて、ふたりでテーブルに座ろうとすると、斜め向かいにもうひとつのトレーが置かれる気配があった。

視線を上げると、そこに彼女がいた。

「……さくら。」

思わず、名前が漏れた。

久しぶりに見る彼女の姿。変わっていなかった。

さらりと肩にかかる髪、淡いピンクのリップ、控えめな装い。

まるで、季節が一巡しても、彼女だけはそのまま時間の中に取り残されているようだった。

「久しぶり。」

さくらがそう言って、穏やかに笑う。

私は一瞬、呼吸を忘れた。

こんなふうに、3人が同じテーブルに座ることが、もう二度とないと思っていたから。

「元気だった?」

彼女の問いかけは優しかった。けれど、その目の奥が探るように揺れていた。

私の視線が、さくらの左手に自然と移る。白く細い指。薬指には、なにもなかった。

けれど──。

私はそっと息を吐きながら、曖昧に笑った。

「うん、元気にしてたよ。」

きっと誰もが、平静を装っていた。

この再会が、誰かの心を少しずつ崩していることに気づきながら。

「彼氏とどう? ひより。」

不意にさくらが尋ねた。あくまで無邪気な口調。

でもその視線は、どこか探るようだった。
私は笑って、頷いた。

「うん、順調だよ。」

「へぇ、いいなぁ……」

さくらは少し羨ましそうに笑った。でも、それ以上は深く踏み込んでこない。

たぶん、そういうことを聞くのが、今の彼女には精一杯なのかもしれない。

「彼氏さんは、ひよりが就職することをどう思ってるの?」

「うん。自由にしていいって言ってくれた。」

答えながら、自分でも少し照れくさい気がした。

あの人は、いつも私を縛らない。大人の余裕、というやつなのかもしれない。

そのとき、誠一が笑いながら言った。

「さすがオジサン系彼氏。包容力が違う。」

「オジサンじゃないもん。」

私はむくれて言い返したが、そこに棘はない。どこか和やかで、空気が少しだけ緩んだ。
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