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第9章 誓いの言葉は、静かな夜に
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でも、次の瞬間、私はふと視線をふたりに向けた。
誠一も、さくらも。
互いを見ていなかった。
誠一はスマホを弄るふりをしていて、さくらはスープを静かに掬っていた。
何もない。
何も、感じなかった。
あの夜のことを誠一が知っているのか、知らないのか。それはわからない。
でも、少なくとも今のふたりには、もう“恋人同士”としての気配がなかった。
たぶん──この二人の恋は、もう終わったんだ。
それがなぜだとか、どうしてだとか、そんな理由は分からない。
でも、終わるっていうのは、きっとこういうことなんだと思った。
静かに、何も言わず、ただ隣に座っていても心が遠い。
それは、終わりの証だ。
私は黙って、冷めたお味噌汁を口に運んだ。
何も言わず、ただこの空気の重さだけを感じながら。
その日は、さくらと二人で駅前の雑貨屋に立ち寄った。
ふらりと入った店内には、アロマの香りと小さな音楽。
静かに揺れるガラスのモビールが、午後の日差しを反射している。
「出たー。黒猫シリーズ。」
さくらが笑いながら棚を指差す。
黒猫のイラストが描かれたマグカップやポーチ、文具たちが整然と並んでいる。
「大学で使ってるのも、ここで買ってるんだよ。」
そう言って手に取ったマグカップをくるりと回すと、さくらがクスクスと笑った。
「黒猫シリーズは、彼氏さん知ってるの?」
「うん。家でお揃いで使ってるし。」
「え、なにそれ、仲良しすぎじゃん。」
さくらはまた、呆れたような、でも少し照れたような顔で私を見た。
「結婚したら、意外とひよりがリードしそう。」
「それはないよ。玲央さんは完璧だもん。」
そう答えると、さくらはわざとらしくため息をついて、また呆れ顔をした。
「完璧って……どこまで惚れてんのよ、ほんと。」
私は少しだけ笑って、けれど心のどこかでふと気づいていた。
さくらが私の話を聞いているその瞳の奥に、ほんの少しだけ、遠さがある。
彼女の隣で、こんなに自然に恋バナをしているのに、私たちの距離は確かに変わってきていた。
でも、それを口にするほどの勇気は、私にはまだなかった。
そしてさくらは、棚の間を歩きながら、何げなくこう言った。
「もうしばらくすると、私たち司書課程入るね。」
「……うん。」
その言葉に、胸の奥がわずかに揺れた。
司書になりたい人は、大学に入ってから司書課程をとる。
時間はかかるけれど、現実的な道。私たちは、そうやって夢に近づいていく。
「ひよりも、司書教諭取るんでしょ?」
「うん、まあ……一応ね。」
未来は、さくらにとってどこまでも続く青空のようだった。
誠一も、さくらも。
互いを見ていなかった。
誠一はスマホを弄るふりをしていて、さくらはスープを静かに掬っていた。
何もない。
何も、感じなかった。
あの夜のことを誠一が知っているのか、知らないのか。それはわからない。
でも、少なくとも今のふたりには、もう“恋人同士”としての気配がなかった。
たぶん──この二人の恋は、もう終わったんだ。
それがなぜだとか、どうしてだとか、そんな理由は分からない。
でも、終わるっていうのは、きっとこういうことなんだと思った。
静かに、何も言わず、ただ隣に座っていても心が遠い。
それは、終わりの証だ。
私は黙って、冷めたお味噌汁を口に運んだ。
何も言わず、ただこの空気の重さだけを感じながら。
その日は、さくらと二人で駅前の雑貨屋に立ち寄った。
ふらりと入った店内には、アロマの香りと小さな音楽。
静かに揺れるガラスのモビールが、午後の日差しを反射している。
「出たー。黒猫シリーズ。」
さくらが笑いながら棚を指差す。
黒猫のイラストが描かれたマグカップやポーチ、文具たちが整然と並んでいる。
「大学で使ってるのも、ここで買ってるんだよ。」
そう言って手に取ったマグカップをくるりと回すと、さくらがクスクスと笑った。
「黒猫シリーズは、彼氏さん知ってるの?」
「うん。家でお揃いで使ってるし。」
「え、なにそれ、仲良しすぎじゃん。」
さくらはまた、呆れたような、でも少し照れたような顔で私を見た。
「結婚したら、意外とひよりがリードしそう。」
「それはないよ。玲央さんは完璧だもん。」
そう答えると、さくらはわざとらしくため息をついて、また呆れ顔をした。
「完璧って……どこまで惚れてんのよ、ほんと。」
私は少しだけ笑って、けれど心のどこかでふと気づいていた。
さくらが私の話を聞いているその瞳の奥に、ほんの少しだけ、遠さがある。
彼女の隣で、こんなに自然に恋バナをしているのに、私たちの距離は確かに変わってきていた。
でも、それを口にするほどの勇気は、私にはまだなかった。
そしてさくらは、棚の間を歩きながら、何げなくこう言った。
「もうしばらくすると、私たち司書課程入るね。」
「……うん。」
その言葉に、胸の奥がわずかに揺れた。
司書になりたい人は、大学に入ってから司書課程をとる。
時間はかかるけれど、現実的な道。私たちは、そうやって夢に近づいていく。
「ひよりも、司書教諭取るんでしょ?」
「うん、まあ……一応ね。」
未来は、さくらにとってどこまでも続く青空のようだった。
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