15歳差の御曹司に甘やかされています〜助けたはずがなぜか溺愛対象に〜 【完結】

日下奈緒

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第9章 誓いの言葉は、静かな夜に

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「一回分で足りる?」

「……うん。」

本当は二回分にしたほうが安心かもしれない。でも、怖さを先延ばしにしたくなかった。

玲央さんは慣れた手つきで、検査薬を他の商品と一緒にレジに持って行く。

会計を済ませると、袋を私にそっと渡してくれた。

「帰ったら、お茶でも飲んでから、ね。」

その優しい一言が、胸に染みた。

家に帰って、ふたりでお茶を飲んだ。

ハーブティーの優しい香りが湯気とともに広がり、少しだけ張り詰めていた空気が和らぐ。

ひと息ついて、私はそっと立ち上がった。

「行ってくるね。」

玲央さんは何も言わず、うなずいてくれた。

私が安心して背中を向けられる、そんな空気を残して。

トイレの中。
妊娠検査薬の袋を開けて、手を震わせながら準備をした。

……数分間。
世界が止まっているかのような、長い時間だった。

線が、ゆっくりと浮かび上がってくる。

一本。……だけ。

じわじわと濃くなっていく線を見つめながら、心のどこかでわかっていたはずなのに、涙が出そうになった。

私は検査薬を持って、トイレを出た。

廊下に出ると、玲央さんが壁にもたれながら、静かに待っていてくれた。

「どうだった?」

声は優しくて、でも少しだけ緊張が滲んでいた。

私は、手に持った検査薬を差し出した。

「……できてなかった。」

その瞬間、玲央さんは迷いなく、私をぎゅっと抱きしめてくれた。

肩に置かれた腕の強さが、まるで何かを守るようだった。

「少し、残念だったかも。」

低く呟いた声は、本音だったのだろう。

押しつけるようでもなく、慰めるようでもなく。

ただ私と、同じ未来を見ようとしてくれていたことが伝わってきた。

私はその胸の中で、ようやく力を抜いた。

「……私も、少しだけ、ホッとして……少しだけ、寂しかった。」

「うん。」

玲央さんの手が、そっと私の髪を撫でる。

まだ大学生。まだ夢の途中。

でも、こうして一緒に“もしも”を見つめられる人がいる。

それが今の私の、確かな未来だった。

そして翌週。
玲央さんは前日、メッセージでこう言ってきた。

《明日、かしこまった格好で来てくれないか。》

何それ。デートなのに?

普段は「楽な格好でいいよ」って言う人なのに、不思議だった。

だけど言われた通り、私はきちんとアイロンのかかったワンピースを着て、髪も丁寧にまとめた。

待ち合わせ場所について、私は思わず目を見張った。

「……ここって。」

大学生の私でも名前を知っている、一流ホテル。

都心の喧騒から少し離れた、格式ある佇まいのその建物に、私はしばし立ち尽くした。

どうして、急にこんな場所に?

高鳴る胸を押さえながら自動ドアをくぐると、空気がひんやりとしていて、香水のような上品な香りが漂っていた。
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