家族に支度金目当てで売られた令嬢ですが、成り上がり伯爵に溺愛されました

日下奈緒

文字の大きさ
27 / 101
第3部 見捨てられた令嬢、伯爵邸で咲く

しおりを挟む
午後の陽射しの中、私はゆっくりと庭を散歩していた。

「広い敷地ね。」

何気なく呟くと、後ろからマリーナが答えてくれる。

「お屋敷が小さいので、そう思われるのです。」

彼女の遠慮のない物言いに、少しだけ親近感を覚える。

「花が多いわね。」

「ええ。伯爵夫人――前の伯爵夫人のお好みです。」

マリーナは私についてくるのに必死なようで、私はわざと歩くスピードを緩めた。

そんな時だった。

「やあ、新しい夫人かぁ。」

陽に焼けた顔の中年男性が、手にした剪定ばさみを持ったまま笑いかけてきた。

「クラリスです。宜しく。」

「ロルフ・ヘンダーソンだ。庭師をしている。ロルフと呼んでくれ。」

「分かったわ、ロルフ。」

気さくな笑顔と、手入れの行き届いた庭が、彼の誠実な人柄を物語っていた。

ここでの生活にも、少しずつ馴染める気がしてきた。

「そうだ。この前、敷地の整備をして空いている土地がある。クラリス様の好きな花を植えよう。」

ロルフが少し照れくさそうに言った。

「ありがとう、ロルフ。楽しみにしているわ。」

自分のために何かをしてくれる――それがこんなにも嬉しいものなのだと、私は改めて実感した。

そこからまたしばらく歩いていくと、ふと人の声が聞こえてきた。

声のする方へ目を向けると、数人の使用人たちがバルコニーに集まって、お茶を楽しんでいる様子だった。

敷地のほぼ真ん中にあるその場所は、日当たりも良く、風通しのいい気持ちのよい空間。

だが、驚いたのはそこが使用人たちに使われていることだった。

「バルコニーって……使用人が使っていいの?」

私は思わずマリーナに尋ねた。

「ええ。旦那様が、”いい空間は皆で分け合おう”とおっしゃって、使用人の休憩所として開放されたのです。」

セドリックの優しさと、公正な人柄をまた一つ知ることになった。

そして、侍女の一人が私に気づいた。

「クラリス様……!」

彼女の声に反応して、他の侍女たちも一斉にこちらを振り向いた。

そして、まるでいたずらを見つかった子どもたちのように、慌ててお茶会の茶器を片付け始めた。

「まあまあ、いいのよ。そのままで。」

私はにっこりと微笑んで言い、バルコニーの椅子に腰を下ろした。

「いつもここでお茶会をしているの?」

私の問いかけに、少し戸惑いながらも一人の侍女が答えた。

「はい。伯爵夫人……いえ、前の伯爵夫人が、“ここは良い場所だから、皆で使いなさい”と仰せられて。」

確かに、お母様ならそう言いそうだ。あの方は本当に、心の広い人だから。

「それなら、私も参加してもいいかしら?」

私がそう言うと、侍女たちの顔が一気に明るくなった。

「はい!ぜひぜひ!」

「お茶、淹れ直しますね!」

「お菓子もまだありますから!」

たちまちその場は、嬉しそうな声でにぎやかになった。

どこか緊張していた私の心が、ふっとほどけていくようだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界転生公爵令嬢は、オタク知識で世界を救う。

ふわふわ
恋愛
過労死したオタク女子SE・桜井美咲は、アストラル王国の公爵令嬢エリアナとして転生。 前世知識フル装備でEDTA(重金属解毒)、ペニシリン、輸血、輪作・土壌改良、下水道整備、時計や文字の改良まで――「ラノベで読んだ」「ゲームで見た」を現実にして、疫病と貧困にあえぐ世界を丸ごとアップデートしていく。 婚約破棄→ザマァから始まり、医学革命・農業革命・衛生革命で「狂気のお嬢様」呼ばわりから一転“聖女様”に。 国家間の緊張が高まる中、平和のために隣国アリディアの第一王子レオナルド(5歳→6歳)と政略婚約→結婚へ。 無邪気で健気な“甘えん坊王子”に日々萌え悶えつつも、彼の未来の王としての成長を支え合う「清らかで温かい夫婦日常」と「社会を良くする小さな革命」を描く、爽快×癒しの異世界恋愛ザマァ物語。

「地味で無能」と捨てられた令嬢は、冷酷な【年上イケオジ公爵】に嫁ぎました〜今更私の価値に気づいた元王太子が後悔で顔面蒼白になっても今更遅い

腐ったバナナ
恋愛
伯爵令嬢クラウディアは、婚約者のアルバート王太子と妹リリアンに「地味で無能」と断罪され、公衆の面前で婚約破棄される。 お飾りの厄介払いとして押し付けられた嫁ぎ先は、「氷壁公爵」と恐れられる年上の冷酷な辺境伯アレクシス・グレイヴナー公爵だった。 当初は冷徹だった公爵は、クラウディアの才能と、過去の傷を癒やす温もりに触れ、その愛を「二度と失わない」と固く誓う。 彼の愛は、包容力と同時に、狂気的な独占欲を伴った「大人の愛」へと昇華していく。

婚約破棄されたので田舎で猫と暮らします

たくわん
恋愛
社交界の華と謳われた伯爵令嬢セレスティアは、王太子から「完璧すぎて息が詰まる」と婚約破棄を告げられる。傷心のまま逃げるように向かったのは、亡き祖母が遺した田舎の小さな屋敷だった。 荒れ果てた屋敷、慣れない一人暮らし、そして庭に住みついた五匹の野良猫たち。途方に暮れるセレスティアの隣には、無愛想で人嫌いな青年医師・ノアが暮らしていた。 「この猫に構うな。人間嫌いだから」 冷たく突き放すノアだが、捨て猫を保護し、傷ついた動物を治療する彼の本当の姿を知るうちに、セレスティアの心は少しずつ惹かれていく。 猫の世話を通じて近づく二人。やがて明かされるノアの過去と、王都から届く縁談の催促。「完璧な令嬢」を脱ぎ捨てた先に待つ、本当の自分と本当の恋——。

編み物好き地味令嬢はお荷物として幼女化されましたが、えっ?これ魔法陣なんですか?

灯息めてら
恋愛
編み物しか芸がないと言われた地味令嬢ニニィアネは、家族から冷遇された挙句、幼女化されて魔族の公爵に売り飛ばされてしまう。 しかし、彼女の編み物が複雑な魔法陣だと発見した公爵によって、ニニィアネの生活は一変する。しかもなんだか……溺愛されてる!?

婚約破棄?結構ですわ。公爵令嬢は今日も優雅に生きております

鍛高譚
恋愛
婚約破棄された直後、階段から転げ落ちて前世の記憶が蘇った公爵令嬢レイラ・フォン・アーデルハイド。 彼女の前世は、ブラック企業で心身をすり減らして働いていたOLだった。――けれど、今は違う! 「復讐? 見返す? そんな面倒くさいこと、やってられませんわ」 「婚約破棄? そんなの大したことじゃありません。むしろ、自由になって最高ですわ!」 貴族の婚姻は家同士の結びつき――つまりビジネス。恋愛感情など二の次なのだから、破談になったところで何のダメージもなし。 それよりも、レイラにはやりたいことがたくさんある。ぶどう園の品種改良、ワインの販路拡大、新商品の開発、そして優雅なティータイム! そう、彼女はただ「貴族令嬢としての特権をフル活用して、人生を楽しむ」ことを決めたのだ。 ところが、彼女の自由気ままな行動が、なぜか周囲をざわつかせていく。 婚約破棄した王太子はなぜか複雑な顔をし、貴族たちは彼女の事業に注目し始める。 そして、彼女が手がけた最高級ワインはプレミア化し、ついには王室から直々に取引の申し出が……!? 「はぁ……復讐しないのに、勝手に“ざまぁ”になってしまいましたわ」 復讐も愛憎劇も不要! ただひたすらに自分の幸せを追求するだけの公爵令嬢が、気づけば最強の貴族になっていた!? 優雅で自由気ままな貴族ライフ、ここに開幕!

冷酷侯爵と政略結婚したら、実家がざまぁされました

鍛高譚
恋愛
「この結婚は、家のため。ただの政略結婚よ」 そう言い聞かせ、愛のない結婚を受け入れた公爵令嬢リゼット。 しかし、挙式後すぐに父が「婚約破棄しろ」と命じてきた!? だが、夫であるアレクシス・フォン・シュヴァルツ侯爵は冷たく言い放つ。 「彼女を渡すつもりはない」 冷酷無慈悲と噂される侯爵が、なぜかリゼットを溺愛し始める!? 毎日甘やかされ、守られ、気づけば逃げ場なし! さらに、父の不正が明るみに出て、公爵家は失墜―― リゼットを道具として利用しようとした者たちに、ざまぁの鉄槌が下される! 政略結婚から始まる、甘々溺愛ラブストーリー! 「愛なんてないはずなのに……どうしてこんなに大切にされるの?」

婚約破棄されるはずでしたが、王太子の目の前で皇帝に攫われました』

鷹 綾
恋愛
舞踏会で王太子から婚約破棄を告げられそうになった瞬間―― 目の前に現れたのは、馬に乗った仮面の皇帝だった。 そのまま攫われた公爵令嬢ビアンキーナは、誘拐されたはずなのに超VIP待遇。 一方、助けようともしなかった王太子は「無能」と嘲笑され、静かに失墜していく。 選ばれる側から、選ぶ側へ。 これは、誰も断罪せず、すべてを終わらせた令嬢の物語。 --

【完結】魔力の見えない公爵令嬢は、王国最強の魔術師でした

er
恋愛
「魔力がない」と婚約破棄された公爵令嬢リーナ。だが真実は逆だった――純粋魔力を持つ規格外の天才魔術師! 王立試験で元婚約者を圧倒し首席合格、宮廷魔術師団長すら降参させる。王宮を救う活躍で副団長に昇進、イケメン公爵様からの求愛も!? 一方、元婚約者は没落し後悔の日々……。見る目のなかった男たちへの完全勝利と、新たな恋の物語。

処理中です...