婚約者が妹と結婚したいと言ってきたので、私は身を引こうと決めました

日下奈緒

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1、夜会

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晩餐会の華やかな余韻がまだ残る宮殿の一室で、国王と王妃は私に向かって穏やかな声で言った。

「クリフの気持ちは、放っておけばいずれ収まるだろう。心配しすぎることはないよ、アーリン」

私はただ黙って頷いた。

国王と王妃の言葉に、どこか安心したかったのかもしれない。

けれど、その安心はまもなく崩れ去った。


それから数日後のこと。私はふとした瞬間、カーテンの陰から彼らの姿を目にしてしまった。

クリフがセシリーの自室の前で待ち伏せるように立っている。

彼の目にはためらいはなく、確かな決意が宿っていた。

セシリーが現れると、クリフは迷いなく彼女の手を取り、静かに引き寄せた。

そして、二人は唇を重ねた。


あの優しかったクリフの姿はそこにはなく、ただ情熱的に、セシリーに向ける視線が私を貫いた。

その瞬間、胸の奥から何かが音を立てて崩れ落ちた。

もう私には、彼への想いはないのだと痛感した。


涙は出なかった。

ただ、深い喪失感が静かに心を包み込んだ。

彼がもう私のものではない。

彼の心は、遠く、セシリーのもとへと向かっている。

それを目の当たりにした私は、静かにその場を離れた。

暗闇の中で、自分の感情と向き合いながら、私は新たな決意を胸に抱いたのだった。


あの日、宮殿の大広間は静寂に包まれていた。

クリフが家臣たちの前で宣言をするという知らせに、誰もが息を呑んだ。


私は、心のどこかでこの日が来ることを覚悟していた。

けれど、いざその場に立ち会うと、胸の奥が締めつけられて言葉を失った。

クリフは凛とした表情で、はっきりと宣言した。


「私はアーリンとの婚約を破棄する。これ以上、彼女を欺くわけにはいかない。私はセシリーと結婚する。」

その声は揺らぐことなく、誰にも否定の余地を与えなかった。

国王も王妃も、静かに彼の言葉を聞いていた。

反論はなかった。何も言わなかった。


その沈黙が、私にとって何よりも痛かった。

一週間後、セシリーは正式に皇太子妃となった。

お妃教育も受けずに――まるで急いで仕立て上げられたかのように、彼女は新しい冠を頭に戴いていた。

私はただ、遠くからそれを見つめることしかできなかった。

あのクリフの笑顔は、もう私のためのものではなかった。


私の未来は、知らない誰かに奪われてしまった。

だが、心の奥底で一つだけ、確かなことがあった。

私は、これからの道を自分の足で歩かなければならないのだと。
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