婚約者が妹と結婚したいと言ってきたので、私は身を引こうと決めました

日下奈緒

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8、侵略

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「では、出発!」

号令がかかり、兵士たちが一歩一歩と足を進めていく。

その中に、誇らしげな鎧を身にまとったグレイブの姿があった。

「グレイブ!」

思わず声を上げると、彼は振り向いて、私にだけわかるような優しい笑顔で、手を高く掲げてくれた。

それだけで、胸がいっぱいになった。

どうか――どうか、無事で。

私は祈りながら、彼の背中を見送った。


その時だった。

進軍の中で、なぜかグレイブがくるりと馬を回し、私のもとへ駆けてきた。

驚く私の前で、彼は馬から軽やかに降りると、まっすぐに私の手を取った。

「どうしたの? グレイブ……」

鼓動が速くなる。

戦へ向かう前に、彼が何を伝えようとしているのか――怖くて、でも知りたくて。

グレイブは真剣な瞳で私を見つめ、うんと力強く頷いた。

「帰って来たら、ワイズ家のお父上に結婚の許しを得よう。」

「えっ……」

思いがけない言葉に、胸が詰まりそうになる。

信じられないような、けれどずっと夢見ていた言葉。

「家族を作ろう。いつでも帰って来れるような場所を――一緒に。」

「グレイブ……」

言葉が出なくて、でも気持ちは溢れて。

私達は静かに、でも確かに抱きしめ合った。

彼の温もりを胸に焼きつけながら、必ず帰ってくると信じて。


三日後、私は突然ワイズ家へ呼び出された。

玄関先で待つ使用人に声をかける。

「今更、何の用?」

彼はきっぱりと言った。

「どうしてもアーリン嬢に会いたいと願い出る者がワイズ家に来ています。」

「誰? 私にはそんな人、いませんけど。」

私は不審そうに眉をひそめる。

すると使用人は、声をひそめてこう言った。

「今は申し上げられません。ただ、その方は非常に高貴な方のようでございます。」

その厳格な態度に、私は胸の奥がざわついた。

どんな人物なのか、思いがけぬ訪問者に期待と不安が交錯する。

「支度をします。」

「かしこまりました。お待ちしております。」

使いの言葉を聞きながら、私は静かに身支度を整えた。

何が待ち受けているのだろう。心が波立つ。


使用人と共にワイズ家へ向かうと、玄関前には数頭の馬が並んでいた。

馬に乗る身分の者が来ていることに、私の心は自然と引き締まった。

なぜこんな高貴な方が私に会いに来るのだろう?


何を伝えたいのだろう?

まさか、私が聖女だと見抜いたのかもしれない――そんな思いが頭をよぎった。


広間に入ると、父が私を迎えた。

「来たな、アーリン。」

私は父の目線をたどった。

「どなたですか?私に用がある方というのは?」

父の視線は広間の奥へ注がれている。

そこに、いるはずのない方が静かに座っていた。

「ベンジャミン王……」

その名を聞いた瞬間、胸がざわつき、言葉を失った。

まさか本当に、敵国の王がここにいるなんて——。

私の心は期待と恐怖で揺れていた。


そして、私の姿を見つけたベンジャミン王は、ゆっくりと歩み寄ってきた。

「わが友のアーリン嬢。君が国王に幽閉されていると聞き、我は兵をあげたのだ。」

その言葉に、胸が詰まった。
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