婚約者が妹と結婚したいと言ってきたので、私は身を引こうと決めました

日下奈緒

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8、侵略

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ああ、やはりこの方は――真に義に厚く、心の温かい方なのだ。

「そうだったのですね……」

私は思わず、失礼を承知でベンジャミン王の手を取った。

「国王になられたというのに、何のお祝いの品も差し上げられなかった私を……まだ友だと言ってくださるのですね?」

「当たり前だ。一度、友になった者との友情は、決して薄れぬ。」

彼の手は、まるで春の日差しのように温かかった。

そのぬくもりが、冷え切っていた私の心にじんわりと染み込んでいく。

私のために、そこまでしてくれたこの人の誠意を、私は一生忘れないだろう――。

「しかしベンジャミン王。私はこの通り、幽閉の身ではありません。」

「そうみたいだな。」

「我が夫になる騎士団長グレイブが、助け出してくれたのです。」

「なるほど。」

ベンジャミン王は静かに広間を歩き回り、私を見ずに言った。

「それで?あなたは満足か?」

「えっ……?」

「自分の私利私欲で、かつての婚約者を幽閉するなど――国王にあるまじき行為だ。」

その声は低く、怒りを含んでいた。

まさか……。私は思わず息を呑む。

ベンジャミン王は、やはり本気でクリフを――撃つつもりなの?


「待って下さい、ベンジャミン王!」

私は思わず、歩を速めて彼に近づいた。堂々たる背に向かって叫ぶように言葉を投げる。

「国王は今、改心しております。私も、グレイブも、そして国民も……皆、クリフ国王に忠誠を誓っております!」

ベンジャミン王は足を止め、静かにこちらを振り返った。

その目には怒りではなく、深い疑念が宿っている。

「だが、彼は実際、我が軍を迎い撃つ構えを見せた。剣を抜いたのは彼だ。」

「それは……国を守るためです!突然兵が国境に現れたのを知って、何もせずにはいられなかったのです!」

「食料を調達した国に対してか?何の使者もなく、礼もなく、ただ剣を抜いた。」

「それは――ベンジャミン王。あなたの方ではありませんか。」

私ははっきりと目を見据えた。

そう、最初に動いたのは――王、あなたです。


「私はあなたという友の為に動いたのだ。」

そう言って、ベンジャミン王は私の肩に両手を添え、しっかりと目を見据えてきた。

「私は――友を幽閉したクリフ国王を、どうしても許すことができない。」

その言葉に、私は胸が締め付けられるような思いになった。そして、自然と床に膝をついていた。

「お許しください……どうか、この国を……クリフ国王を攻めないでください……!」

必死の願いに、静寂が落ちた。

やがてベンジャミン王は溜息をつき、椅子に腰を下ろした。そして、穏やかに微笑んで言った。

「……ならば、しっかりと反省してもらおうじゃないか。友としてな。」

その笑顔に、私はようやく安堵の息を漏らした。
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