47 / 50
9、友好
①
しおりを挟む
私はベンジャミン王を、城の裏手にある小高い丘へと案内した。
ここなら人目を忍び、静かに話ができる。
誰にも邪魔されず、そしてなにより、彼――クリフと再び向き合うにはふさわしい場所だと思った。
「ここで本当に、国王陛下と会えるのか?」
そう問いかけるベンジャミン王の声には、わずかな不安が混じっていた。けれど私は、迷いなく頷いた。
「はい。彼なら、きっと来てくれます。」
私が昨夜、急ぎで書いた手紙には、事の次第と、私の切なる願いが綴られている。
クリフがどんなに忙しくとも、きっとその真意を汲んでくれるはずだ。
だって彼は――私が知っている、あの頃のクリフに戻りつつあるのだから。
ベンジャミン王は私の顔を見つめた後、ふっと息をついた。
「君の信頼は深いのだな。」
「ええ、彼は変わりました。自ら兵を率いたあの日から。」
風が丘を渡る。あの懐かしい香りが胸を締めつける。
そして私は、丘の向こうに誰かの姿が現れるのを待った。
きっと、来てくれる。あのまなざしを、再び信じているから。
しばらくして、丘の下に白い砂煙が立ち上るのが見えた。
やがて、兵を従えた馬の列が、まっすぐこの丘へ向かってくる。
陽光を背に、堂々と先頭を進むその姿――クリフだった。
「来た……」
私は思わず呟いた。
風が吹き、草が揺れる。
軍旗がはためくたび、彼の意思がこの丘に届くようで、胸が熱くなる。
私の手紙に応えてくれた。
彼はまだ、私の言葉に耳を傾けてくれるのだ。
その事実だけで、私は一度、大きく息を吐いた。
しかし、隣に立つベンジャミン王の顔には緊張の色が浮かんでいた。
「彼は……私を討ちに来たのではないか?」
低く呟いたその言葉が、心に刺さる。
もし、クリフがまだ誤解しているなら。
もし、私の手紙が届いていなかったなら――。
私は胸の前で手を握り、祈るように言った。
「どうか、ご安心を。クリフは、もう変わったのです。きっと、戦いのために来たのではありません。」
それでも不安は拭いきれなかった。
私は丘の上から、まっすぐに進んでくるクリフの瞳を見つめた。
どうか、話し合いのために来てくれたのだと――私の信じた彼でいてくれるのだと、心から願っていた。
そして、ついにクリフが兵を率いて小高い丘に現れた。
馬上の彼は凛とした気配をまとい、静かに風を切ってこちらへと歩を進めてくる。
その姿は、かつて私が愛し、恐れた国王――でも今は、私が信じたい男だった。
クリフはベンジャミン王の姿を認めると、無言で馬を降りた。
すかさず傍にいたグレイブが手綱を引き、彼を支える。
どこか緊張した空気が流れた。
「ベンジャミン王。やっと会えた。」
先に口を開いたのはクリフだった。
だが、その声音にはどこか探るような冷たさがあった。
「私も同じ思いだ。」
ベンジャミン王も応じる。
けれど二人の間に歩み寄る気配はない。
ただ、静かに風だけが吹いていた。
私はじっとその様子を見守った。ああ、どうか……。
そして次の瞬間、クリフが少しだけ前に出て言った。
「早速だが、なぜこの度、この国に進軍したのだ。」
その問いには剣気すら感じられた。
だが私は知っている。
この問いは、誤解を解くための第一歩――二人がもう一度、対話できることを願う声だった。
どうか、この言葉の先に、争いではなく理解が生まれますように。
私は祈るように二人を見つめていた。
ここなら人目を忍び、静かに話ができる。
誰にも邪魔されず、そしてなにより、彼――クリフと再び向き合うにはふさわしい場所だと思った。
「ここで本当に、国王陛下と会えるのか?」
そう問いかけるベンジャミン王の声には、わずかな不安が混じっていた。けれど私は、迷いなく頷いた。
「はい。彼なら、きっと来てくれます。」
私が昨夜、急ぎで書いた手紙には、事の次第と、私の切なる願いが綴られている。
クリフがどんなに忙しくとも、きっとその真意を汲んでくれるはずだ。
だって彼は――私が知っている、あの頃のクリフに戻りつつあるのだから。
ベンジャミン王は私の顔を見つめた後、ふっと息をついた。
「君の信頼は深いのだな。」
「ええ、彼は変わりました。自ら兵を率いたあの日から。」
風が丘を渡る。あの懐かしい香りが胸を締めつける。
そして私は、丘の向こうに誰かの姿が現れるのを待った。
きっと、来てくれる。あのまなざしを、再び信じているから。
しばらくして、丘の下に白い砂煙が立ち上るのが見えた。
やがて、兵を従えた馬の列が、まっすぐこの丘へ向かってくる。
陽光を背に、堂々と先頭を進むその姿――クリフだった。
「来た……」
私は思わず呟いた。
風が吹き、草が揺れる。
軍旗がはためくたび、彼の意思がこの丘に届くようで、胸が熱くなる。
私の手紙に応えてくれた。
彼はまだ、私の言葉に耳を傾けてくれるのだ。
その事実だけで、私は一度、大きく息を吐いた。
しかし、隣に立つベンジャミン王の顔には緊張の色が浮かんでいた。
「彼は……私を討ちに来たのではないか?」
低く呟いたその言葉が、心に刺さる。
もし、クリフがまだ誤解しているなら。
もし、私の手紙が届いていなかったなら――。
私は胸の前で手を握り、祈るように言った。
「どうか、ご安心を。クリフは、もう変わったのです。きっと、戦いのために来たのではありません。」
それでも不安は拭いきれなかった。
私は丘の上から、まっすぐに進んでくるクリフの瞳を見つめた。
どうか、話し合いのために来てくれたのだと――私の信じた彼でいてくれるのだと、心から願っていた。
そして、ついにクリフが兵を率いて小高い丘に現れた。
馬上の彼は凛とした気配をまとい、静かに風を切ってこちらへと歩を進めてくる。
その姿は、かつて私が愛し、恐れた国王――でも今は、私が信じたい男だった。
クリフはベンジャミン王の姿を認めると、無言で馬を降りた。
すかさず傍にいたグレイブが手綱を引き、彼を支える。
どこか緊張した空気が流れた。
「ベンジャミン王。やっと会えた。」
先に口を開いたのはクリフだった。
だが、その声音にはどこか探るような冷たさがあった。
「私も同じ思いだ。」
ベンジャミン王も応じる。
けれど二人の間に歩み寄る気配はない。
ただ、静かに風だけが吹いていた。
私はじっとその様子を見守った。ああ、どうか……。
そして次の瞬間、クリフが少しだけ前に出て言った。
「早速だが、なぜこの度、この国に進軍したのだ。」
その問いには剣気すら感じられた。
だが私は知っている。
この問いは、誤解を解くための第一歩――二人がもう一度、対話できることを願う声だった。
どうか、この言葉の先に、争いではなく理解が生まれますように。
私は祈るように二人を見つめていた。
194
あなたにおすすめの小説
[完結]だってあなたが望んだことでしょう?
青空一夏
恋愛
マールバラ王国には王家の血をひくオルグレーン公爵家の二人の姉妹がいる。幼いころから、妹マデリーンは姉アンジェリーナのドレスにわざとジュースをこぼして汚したり、意地悪をされたと嘘をついて両親に小言を言わせて楽しんでいた。
アンジェリーナの生真面目な性格をけなし、勤勉で努力家な姉を本の虫とからかう。妹は金髪碧眼の愛らしい容姿。天使のような無邪気な微笑みで親を味方につけるのが得意だった。姉は栗色の髪と緑の瞳で一見すると妹よりは派手ではないが清楚で繊細な美しさをもち、知性あふれる美貌だ。
やがて、マールバラ王国の王太子妃に二人が候補にあがり、天使のような愛らしい自分がふさわしいと、妹は自分がなると主張。しかし、膨大な王太子妃教育に我慢ができず、姉に代わってと頼むのだがーー
あの日々に戻りたくない!自称聖女の義妹に夫と娘を奪われた妃は、死に戻り聖女の力で復讐を果たす
青の雀
恋愛
公爵令嬢スカーレット・ロッテンマイヤーには、前世の記憶がある。
幼いときに政略で結ばれたジェミニ王国の第1王子ロベルトと20歳の時に結婚した。
スカーレットには、7歳年下の義妹リリアーヌがいるが、なぜかリリアーヌは、ロッテンマイヤー家に来た時から聖女様を名乗っている。
ロッテンマイヤーは、代々異能を輩出している家柄で、元は王族
物語は、前世、夫に殺されたところから始まる。
王命を忘れた恋
須木 水夏
恋愛
『君はあの子よりも強いから』
そう言って貴方は私を見ることなく、この関係性を終わらせた。
強くいなければ、貴方のそばにいれなかったのに?貴方のそばにいる為に強くいたのに?
そんな痛む心を隠し。ユリアーナはただ静かに微笑むと、承知を告げた。
神託の聖女様~偽義妹を置き去りにすることにしました
青の雀
恋愛
半年前に両親を亡くした公爵令嬢のバレンシアは、相続権を王位から認められ、晴れて公爵位を叙勲されることになった。
それから半年後、突如現れた義妹と称する女に王太子殿下との婚約まで奪われることになったため、怒りに任せて家出をするはずが、公爵家の使用人もろとも家を出ることに……。
[完結]出来損ないと言われた令嬢、実は規格外でした!
青空一夏
恋愛
「おまえなど生まれてこなければ良かったのだ!」そうお父様に言われ続けた私。高位貴族の令嬢だったお母様は、お父様に深く愛され、使用人からも慕われていた。そのお母様の命を奪ってこの世に生まれた私。お母様を失ったお父様は、私を憎んだ。その後、お父様は平民の女性を屋敷に迎え入れ、その女性に子供ができる。後妻に屋敷の切り盛りを任せ、私の腹違いの妹を溺愛するお父様は、私を本邸から追い出し離れに住まわせた。私は、お父様からは無視されるか罵倒されるか、使用人からは見下されている。そんな私でも家庭教師から褒められたことは嬉しい出来事だった。この家庭教師は必ず前日に教えた内容を、翌日に試験する。しかし、その答案用紙さえも、妹のものとすり替えられる。それは間違いだらけの答案用紙で、「カーク侯爵家の恥さらし。やはりおまえは生まれてくるべきじゃなかったんだな」と言われた。カーク侯爵家の跡継ぎは妹だと言われたが、私は答案用紙をすり替えられたことのほうがショックだった。やがて学園に入学するのだがーー
これは父親から嫌われたヒロインが、後妻と腹違いの妹に虐げられたり、学園でも妹に嫌がらせされるなか、力に目覚め、紆余曲折ありながらも幸せになる、ラブストーリー。
※短編の予定ですが、長編になる可能性もあります。
【完結】旦那様、その真実の愛とお幸せに
おのまとぺ
恋愛
「真実の愛を見つけてしまった。申し訳ないが、君とは離縁したい」
結婚三年目の祝いの席で、遅れて現れた夫アントンが放った第一声。レミリアは驚きつつも笑顔を作って夫を見上げる。
「承知いたしました、旦那様。その恋全力で応援します」
「え?」
驚愕するアントンをそのままに、レミリアは宣言通りに片想いのサポートのような真似を始める。呆然とする者、訝しむ者に見守られ、迫りつつある別れの日を二人はどういった形で迎えるのか。
◇真実の愛に目覚めた夫を支える妻の話
◇元サヤではありません
◇全56話完結予定
恩知らずの婚約破棄とその顛末
みっちぇる。
恋愛
シェリスは婚約者であったジェスに婚約解消を告げられる。
それも、婚約披露宴の前日に。
さらに婚約披露宴はパートナーを変えてそのまま開催予定だという!
家族の支えもあり、婚約披露宴に招待客として参加するシェリスだが……
好奇にさらされる彼女を助けた人は。
前後編+おまけ、執筆済みです。
【続編開始しました】
執筆しながらの更新ですので、のんびりお待ちいただけると嬉しいです。
矛盾が出たら修正するので、その時はお知らせいたします。
[完結]いらない子と思われていた令嬢は・・・・・・
青空一夏
恋愛
私は両親の目には映らない。それは妹が生まれてから、ずっとだ。弟が生まれてからは、もう私は存在しない。
婚約者は妹を選び、両親は当然のようにそれを喜ぶ。
「取られる方が悪いんじゃないの? 魅力がないほうが負け」
妹の言葉を肯定する家族達。
そうですか・・・・・・私は邪魔者ですよね、だから私はいなくなります。
※以前投稿していたものを引き下げ、大幅に改稿したものになります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる