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プロローグ
Prologue
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木星の衛星軌道上に煌めく幾つもの人工的な光。それらは全てユニバーサルコンチネントという巨大建造物が放つものだ。略称はユニック。それは銀河に浮かぶ新しい大地の名称である。
木星圏には多種多様なユニックが浮かんでいたのだが、中でもガリレオサテライト5THと名付けられたユニックは他に類を見ない巨大なものだった。フィフスと呼ばれるそのユニックは約三億人が生活する木星メガフロントユニック群のシンボル的存在である。
セントラル区画にある首都セントグラードは木星経済の中心地だ。インフラだけでなく観光施設や娯楽も充実しており、誰しもが憧れを抱く大都市であった。
そんなセントグラード市の特区にある第七上層ブロック。本日は外郭部にある競技場で市民参加型の航宙機イベントが催されていた。
たった今、初等学校低学年組の航宙機レースが終わったところである。既に表彰式が始まっており、壇上には三名の若きパイロットが勢揃いしていた。
『以上が初等学校低学年組の入賞者でした!』
三人の首にメダルがかけられ、拍手に見送られながら入賞者が壇上を後にしていく。
その中の一人、初等学校一年生であるミハルは満面の笑みを浮かべていた。彼女は一年生ながら二位につけるという大健闘を見せている。三年生には敵わなかったけれど、彼女は胸に煌めく銀メダルを誇らしく感じていた。
控え室へと続く通路を歩くミハル。堂々と銀メダルを見せびらかすように歩いていた彼女だが、不意に声をかけられている。
「嬢ちゃん、何がそんなに嬉しいんだ?」
ミハルはピタリと足を止めた。表彰式が終わったばかりであり、彼女の胸には入賞者の証しが燦然と輝いている。笑顔のわけが分からないなんてミハルには信じられなかった。
「おじさん、レース見てなかったの?」
「おじさん言うな。俺はお兄さんだ……」
高等学校生らしき彼はパイロットスーツを着込んでいる。どうやら彼も何かしらのプログラムに参加するパイロットのようだ。
「私は二位だったのよ! ほら!」
呼び方に関してはスルーし、ミハルは彼に銀メダルを見せた。それだけで彼にも笑顔の理由が分かってもらえるはずと。
しかし、彼は首を横に振る。ミハルが期待した褒め言葉なんてかけてくれない。
「嬢ちゃん、二着は負けだぞ?――――」
ミハルは唖然としてしまう。彼女は二着という順位を素直に喜んでいたというのに、それが敗北であったのだと知らされている。
「負け……?」
聞き返すしかない。壇上では主催者に褒められたのだ。だからこそミハルは頑張った結果が優れたものであると信じていた。
「当たり前だ。一段高い表彰台にもう一人いただろ? つまり君はその彼に負けた。レースのあと笑顔が許されるのは彼だけだ……」
確かにミハルの隣には優勝者が立っていた。表彰式では気にならなかったけれど、よくよく考えると自分は一段低い場所。それが敗北を意味していたなんてミハルは今の今まで気付けなかった。
「私……負けちゃった……?」
「ああ、完敗だな。二番に価値なんてない。常に勝者は一人しかいないんだ。だから負けた君が笑っているとかおかしいだろ? 勝った者以外は悔しがるべきだ……」
追い打ちをかけるように彼は続けた。相手はたった六歳の少女であったというのに。
「よく覚えておけよ? 何事も一番でなければ意味がない。その鈍い輝きを放つメダルに騙されるな。それは競技が生み出した悪習にすぎない。本来なら敗者である君は何ももらえなかったはず。つまり君は比較的マシだったという情けをかけられただけだ……」
言って彼は去って行く。呆然と立ち尽くすミハルを放置したまま。少女の笑顔を奪った彼は少しの罪悪感すら覚えることなく通路の先へと行ってしまう。
次の瞬間、ミハルの目から涙が零れた。どうやら彼の話を真に受けてしまったらしい。
誇らしかった銀メダルは既に輝きを失っている。それはもうミハルにとって敗者を識別するための目印でしかなくなっていた。胸に揺れる銀メダルを見つめながら、ミハルは大粒の涙を流している……。
木星圏には多種多様なユニックが浮かんでいたのだが、中でもガリレオサテライト5THと名付けられたユニックは他に類を見ない巨大なものだった。フィフスと呼ばれるそのユニックは約三億人が生活する木星メガフロントユニック群のシンボル的存在である。
セントラル区画にある首都セントグラードは木星経済の中心地だ。インフラだけでなく観光施設や娯楽も充実しており、誰しもが憧れを抱く大都市であった。
そんなセントグラード市の特区にある第七上層ブロック。本日は外郭部にある競技場で市民参加型の航宙機イベントが催されていた。
たった今、初等学校低学年組の航宙機レースが終わったところである。既に表彰式が始まっており、壇上には三名の若きパイロットが勢揃いしていた。
『以上が初等学校低学年組の入賞者でした!』
三人の首にメダルがかけられ、拍手に見送られながら入賞者が壇上を後にしていく。
その中の一人、初等学校一年生であるミハルは満面の笑みを浮かべていた。彼女は一年生ながら二位につけるという大健闘を見せている。三年生には敵わなかったけれど、彼女は胸に煌めく銀メダルを誇らしく感じていた。
控え室へと続く通路を歩くミハル。堂々と銀メダルを見せびらかすように歩いていた彼女だが、不意に声をかけられている。
「嬢ちゃん、何がそんなに嬉しいんだ?」
ミハルはピタリと足を止めた。表彰式が終わったばかりであり、彼女の胸には入賞者の証しが燦然と輝いている。笑顔のわけが分からないなんてミハルには信じられなかった。
「おじさん、レース見てなかったの?」
「おじさん言うな。俺はお兄さんだ……」
高等学校生らしき彼はパイロットスーツを着込んでいる。どうやら彼も何かしらのプログラムに参加するパイロットのようだ。
「私は二位だったのよ! ほら!」
呼び方に関してはスルーし、ミハルは彼に銀メダルを見せた。それだけで彼にも笑顔の理由が分かってもらえるはずと。
しかし、彼は首を横に振る。ミハルが期待した褒め言葉なんてかけてくれない。
「嬢ちゃん、二着は負けだぞ?――――」
ミハルは唖然としてしまう。彼女は二着という順位を素直に喜んでいたというのに、それが敗北であったのだと知らされている。
「負け……?」
聞き返すしかない。壇上では主催者に褒められたのだ。だからこそミハルは頑張った結果が優れたものであると信じていた。
「当たり前だ。一段高い表彰台にもう一人いただろ? つまり君はその彼に負けた。レースのあと笑顔が許されるのは彼だけだ……」
確かにミハルの隣には優勝者が立っていた。表彰式では気にならなかったけれど、よくよく考えると自分は一段低い場所。それが敗北を意味していたなんてミハルは今の今まで気付けなかった。
「私……負けちゃった……?」
「ああ、完敗だな。二番に価値なんてない。常に勝者は一人しかいないんだ。だから負けた君が笑っているとかおかしいだろ? 勝った者以外は悔しがるべきだ……」
追い打ちをかけるように彼は続けた。相手はたった六歳の少女であったというのに。
「よく覚えておけよ? 何事も一番でなければ意味がない。その鈍い輝きを放つメダルに騙されるな。それは競技が生み出した悪習にすぎない。本来なら敗者である君は何ももらえなかったはず。つまり君は比較的マシだったという情けをかけられただけだ……」
言って彼は去って行く。呆然と立ち尽くすミハルを放置したまま。少女の笑顔を奪った彼は少しの罪悪感すら覚えることなく通路の先へと行ってしまう。
次の瞬間、ミハルの目から涙が零れた。どうやら彼の話を真に受けてしまったらしい。
誇らしかった銀メダルは既に輝きを失っている。それはもうミハルにとって敗者を識別するための目印でしかなくなっていた。胸に揺れる銀メダルを見つめながら、ミハルは大粒の涙を流している……。
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