Solomon's Gate

坂森大我

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第二章 星系を守護する者たち

出撃後に思う

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「お疲れ様! とんでもなく早かったわね?」

 オペレーションルームに戻るや、シエラが感想を交えながら出迎えた。
 笑顔の三人。新入隊員を迎えて初めての出撃であったが、戦果のほどは表情を見れば明らかである。

「ミハル、次からは前を飛べ。援護してやる……」
 不意にグレッグがそんな命令をした。

 ミハルはただ驚いて視線だけを返す。自分は新人であると理解している。先ほどの戦闘も戦力になったとは言い難い。けれど、隊長が前を飛べと言うのだ。

「私が前衛機で良いのですか? 私は何も分かっていませんけど……?」

「勘違いするなよ? お前が後衛機に向いていないというだけのこと。前を飛ぶ機体に気を取られすぎだ。宙域全体を捉えられていない。集中しているようで、その実は気を抜いているとしか思えん。トレースする必要がなければ、ちっとはマシになるかと思ってな」

 記憶と重なる話である。グレッグの指摘はアイリスと似ていた。気を抜いた覚えはなくとも二人にはミハルが集中していないように見えていたらしい。

「ミハルちゃん、気にしないで。グレッグ隊長は新人を腐すのが大好きなだけだから。セントグラード航宙士学校からセントラル訓練所まで、ずっと一番だったのは凄いことよ? それこそアイリス中尉以来じゃないかしら? 余計に期待値が高くなってるだけだからね?」

 イプシロン基地への異動時にアイリスは中尉となっていた。それはミハルが知らなかったことである。新人を除く大勢のパイロットが銀河間戦争を前に昇進していた。

「初陣で実力を出し切るのは難しいからの。嬢ちゃんは良くやったぞい。儂は調査書通りのフライトを見たぞ?」

 シエラがフォローするとバゴスがそれに続いた。調査書は訓練所が用意したパイロットの評価シートだ。その名の通り出身地から学歴、学校の内申書まで添付されている。

「航宙士学校の内申書には注釈があるぞ? 何々……首席ではあるが、学科成績から物議を醸した? 以降の点数配分が改められる原因となっただと? いったいお前はどれほど馬鹿なんだ?」

 グレッグが眉間にしわを寄せながら備考欄を読み上げた。
 セントグラード航宙士学校での成績は実技と学科を総合したものであるが、航宙士学校である性質上、実技成績の評価が学科成績よりも随分と高かった。

「ちっ……グレン先生ね……」

 内申書は見せてもらえなかった。悪口が書かれている気が少なからずしていたのだが、その予想は当たっていたようだ。

「馬鹿なのはともかく、どうしようもないチビだからな。体力的な問題が心配だ。流石にここまで低身長のパイロットは見たことがない……」

 グレッグの話は頭が痛いところ。口を半開きにして空気が漏れ出すように笑うしかない。

「初等学校までは身長だって高い方だったんです! 航宙士学校に入ってからは少しも伸びていませんけど……」

 学力は否定する気にもなれない。だが、身長に関しては言っておきたいこともある。昔から低かったわけではなく、それ以上伸びなかっただけだと。

「ほう、身体の方は早熟じゃったか!」
「やめんか、このセクハラ爺さん! ミハルちゃん、こんなのは無視して良いからね?」

 オペレーションルームには笑いの渦が巻き起こっていた。ミハルとしては苦笑するしかなかったけれど、自己紹介としての掴みであるとすれば上出来だった。これから共に戦う仲間同士、いがみ合うよりも笑い合える方が良いに違いない……。

 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 出撃したあとは交代で休むことになり、ミハルは一人自室に籠もっていた。ベッドに横たわり先ほどの出撃を思い返している。

「グレッグ隊長、凄かったな……」

 訓練所では見なかった機動。グレッグが見せたフライトは衝撃的だった。眠ろうとする今も目蓋に焼き付いた軌跡が思い出されている。

 自軍と比べて倍の機体を相手に戦えたのは、ひとえに先輩パイロットたちの能力が優れていたからだ。隻脚に高齢パイロット。ゲートへ配備されなかった理由はそれ以外に考えられない。初見に感じたことはただのイメージであり、彼らの実力には少しも関係なかった。

 色々と思い返していたものの、襲い来る睡魔に負けたミハルは深い眠りへと落ちていく。

 ピリピリピリピリ……。

 ところが、急にギアが鳴りだしてミハルは目を覚ました。慌てて確認してみるとSBF通信との表示がある。どうやら木星圏外からの通信であるようだ。

 初めて受信するSBF通信。基本的には大型通信機で行う通話であるが、携帯型ギアであっても基地のシステムを介して送受信が可能だった。

「もしもし……?」

『あ、ミハル!? 今大丈夫かな? ちょっと話がしたいなぁって思ってるんだけど』

 恐る恐る通信に出てみると発信者はキャロルだった。彼女とは訓練所の卒所式以来だ。航宙士学校での六年間、毎日顔を合わせた大親友に他ならない。

「キャロル、あんた大丈夫なの!? 銀河間戦争って聞いたよ!?」

 ゲートの現状を聞いていたミハルは思わず問いを返していた。どうにも落ち込んでいるんじゃないかと考えてしまう。

『ミハルも聞いたの? でも、あたしは気持ちの整理がついたよ。戦争はさ、あたしの配置される戦線まで攻め込まれたら負けみたい。イプシロン基地を失えば人類に戦う余力は残されていないって……。話を聞いた時は怖くて逃げ出したかったけど、それを聞いたら逃げ出せなくなっちゃった。だから、あたしは戦おうって決めたの。それに軍部を辞めたら無職だしね?』

 思いのほかキャロルは元気そうだ。彼女曰く、軽い訓練しか行わない今の生活は地獄のような訓練生時代よりもずっと楽だという。悲壮感がないのは彼女の部隊が後衛部隊であるからだ。仮に戦争が始まっても基地周辺の警護が担当であり、ゲートまで出撃することはないらしい。

「そっか、少し安心した……。私は今日、配属早々戦闘があったよ」

 ミハルは今日あったことをキャロルに伝えた。セミオート射撃を強いられたことから、癖のある先輩パイロットに関してまで。

『それはなかなか濃い僚機だね? 早速の戦闘は怖かっただろうけど、ミハルなら大丈夫よ。あたしは今もミハルがこの宇宙で一番上手だと信じてるから!』

「私はまだまだだって! 隊長は凄く上手いの。あれが義足だなんて信じられないよ。上手い人に囲まれて私はツイてるかもしれない。絶対に上手くなれると思う……」

 ミハルの謙虚な言葉が信じられなかったキャロルだが、ミハルはミハルで成長しているのだと理解した。自身も負けないように努力しなければと考えさせられている。

『また連絡するよ。頑張ってね、ミハル!』
「キャロルも! 私も絶対にそっちへ行くから待ってて!」

 SBF通信は長話が禁じられていた。よって軽い報告だけとなっている。とはいえ、互いにやる気が充填されていた。再び会う日までに成長しなければならない。二人はそんなことを会話のあとに思う。

 遠く離れた二人であったけれど、想うところは何も変わっていない……。
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