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第1章〜塔の上の指揮者〜
第1話・後編〜死んだはずの貴族、辺境村でスキルを得る〜
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──谷の奥、旧坑道跡。
数十年前に封鎖されたという坑道は、
入口こそ崩れていたものの、内部の一部は辛うじて通行できる状態だった。
苔むした岩肌に囲まれ、
かすかに地下水の流れる音が響いている。
その奥で――
空気が変わった。
岩をくり抜いた坑道の終点。
その先に広がる、異様な空間。
人工的に切り出された石材が、幾何学的に積み上げられている。
天井には崩落を防ぐ柱が立ち並び、中央には祭壇のような高台――
そこに、黒く光る石碑が据えられていた。
「……これは……」
「手帳に描かれていた図形。中央の印、形状が一致しています。
偶然とは思えません」
セリアの声も、どこか張り詰めていた。
俺は祭壇に歩み寄る。
石碑の表面には、手帳と同じ、読めない文字が刻まれていた。
――だがその瞬間。
◆システム起動中◆
耳元で、誰かの声のようなものが響いた。
……いや、正確には“音”ではない。
直接脳に流れ込んでくる、“認識”。
◆適性反応確認──器、発見◆
黒い石碑が脈動するように輝き、
俺の足元に、淡い光の円陣が浮かび上がった。
「っ……!?」
「ルノス様! 下がってください!」
セリアが駆け寄ろうとするが、
光の柱が俺の周囲を包み込み、彼女を押し戻す。
――視界が白く染まり、
時間が止まったような感覚。
◆第一階層コード、開放──資源解析機能、付与◆
◆スキル取得条件、連結中──個体記憶照合完了◆
◆対象、継承者規格に準拠◆
浮かび上がるのは、いくつかの謎めいた単語と、
意味のわからないシンボルの羅列。
そして、目の前に――
淡い光で構成された“画面”が現れた。
⸻
【システム通知:能力拡張&スキル習得】
■基礎能力向上(常時)
環境情報に対する感知能力が飛躍的に強化
視覚を介さずとも、直感的に全体構造を把握可能
■《スキル:観察》
対象の構造や状態を視覚的に解析し、
問題や変化を詳細に把握。発動時、視覚情報の解像度がさらに向上。
▶記録認証:遺伝情報一致
▶取得しますか?
⸻
選択肢が、脳裏に浮かぶ。
「はい」「いいえ」――まるで、選ばせるように。
「……これは?」
誰に問うでもなく呟いた。
だが、答えは返ってこない。
──それでも、どこかで確信していた。
これは危険なものではない。
俺の中にある“何か”と、この遺跡が反応したのだ。
ならば――向き合うべきだ。
迷いのない意志で、「はい」を選んだ。
その瞬間――
頭の奥に、次々と情報が流れ込んでくる。
地形、土壌、水脈、資源分布……
目で見ていないのに、なぜか“分かる”。
まるで、この土地全体が“見える”ような感覚。
「……見える。村の構造が、資源の偏りが……
なんだこれは……?」
光が収まり、霧のような眩しさが消えていく。
坑道の冷えた空気と、濡れた石の匂いが、現実へと俺を引き戻した。
「……いまのは、何だったのですか?」
しばらく沈黙したのち、セリアがぽつりと問いかけた。
その目には警戒もあるが、
それ以上に、混乱と驚きが混じっていた。
「あれは……俺が、訊きたいくらいだ」
そう言ったものの、
俺の中に広がっている違和感が、
それだけで済ませられる話ではないと告げていた。
「まるで、“応じられた”ようだった。俺に……何かが」
「応じられた……?」
セリアが、息を呑む。
彼女の視線が、石碑と俺を交互に見つめていた。
「貴方が意図的に何かをしたとは思えません。
けれど、これは……偶然では済まされない」
その声音には、明らかな警戒と、
微かな動揺が混じっていた。
俺はしばし無言のまま石碑を見つめ――
それから、目を逸らす。
「……正直、俺にもよく分かってない。
けど……今ここで考えても仕方ないだろう」
とにかく、これ以上この空間にとどまる気にはなれなかった。
あの“声”の余韻が、まだ体の奥で響いている。
「行こう。長居は無用だ」
言葉を濁し、そっけなくそう言って背を向ける。
セリアは一瞬、何かを言いかけたようだったが――
結局それを飲み込み、小さく頷いた。
「……かしこまりました」
納得したとは思えない。
だが、今はそれ以上問い詰めてこなかった。
薄暗い坑道を引き返す足音だけが、
沈黙の中に響いた。
⸻
◆◇◆ 次回更新のお知らせ ◆◇◆
初回は【金・土・日】の3日連続更新!
本日は【第3話】まで公開しておりますので、
このままぜひ続きもご覧ください。
よろしければ「お気に入り登録」や「ポイント投票」など
いただけると、とても励みになります。
続きもがんばって書いていきますので、
また覗いていただけたら嬉しいです!
⸻
◆◇◆ 後書き ◆◇◆
ここまでお読みいただき、ありがとうございます!
本日のハイライトは──
あのセリアさんが、ほんの一瞬だけ「……え?」って顔をしました。
(あれでも動揺してるほうなんです。たぶん)
◆次回:「俺にだけ見える、村の直し方」
村に訪れるのは、ほんの少しの“潤い”。
見えない力を頼りに、ルノスが挑むのは──
誰も通せなかった“水の道”。
地味だけど、村を救うには欠かせない第一歩です。
そして次回から、
“スキル”と“クエスト”という不思議なシステムが本格稼働!
まだ本人は「何これ……」状態ですが、
読者の皆様にはニヤリと見守っていただければ嬉しいです。
この先、彼が出会うもの、背負うもの。
張り巡らせたフラグが回収されていく過程も、
ぜひ一緒に楽しんでいただけたら嬉しいです。
数十年前に封鎖されたという坑道は、
入口こそ崩れていたものの、内部の一部は辛うじて通行できる状態だった。
苔むした岩肌に囲まれ、
かすかに地下水の流れる音が響いている。
その奥で――
空気が変わった。
岩をくり抜いた坑道の終点。
その先に広がる、異様な空間。
人工的に切り出された石材が、幾何学的に積み上げられている。
天井には崩落を防ぐ柱が立ち並び、中央には祭壇のような高台――
そこに、黒く光る石碑が据えられていた。
「……これは……」
「手帳に描かれていた図形。中央の印、形状が一致しています。
偶然とは思えません」
セリアの声も、どこか張り詰めていた。
俺は祭壇に歩み寄る。
石碑の表面には、手帳と同じ、読めない文字が刻まれていた。
――だがその瞬間。
◆システム起動中◆
耳元で、誰かの声のようなものが響いた。
……いや、正確には“音”ではない。
直接脳に流れ込んでくる、“認識”。
◆適性反応確認──器、発見◆
黒い石碑が脈動するように輝き、
俺の足元に、淡い光の円陣が浮かび上がった。
「っ……!?」
「ルノス様! 下がってください!」
セリアが駆け寄ろうとするが、
光の柱が俺の周囲を包み込み、彼女を押し戻す。
――視界が白く染まり、
時間が止まったような感覚。
◆第一階層コード、開放──資源解析機能、付与◆
◆スキル取得条件、連結中──個体記憶照合完了◆
◆対象、継承者規格に準拠◆
浮かび上がるのは、いくつかの謎めいた単語と、
意味のわからないシンボルの羅列。
そして、目の前に――
淡い光で構成された“画面”が現れた。
⸻
【システム通知:能力拡張&スキル習得】
■基礎能力向上(常時)
環境情報に対する感知能力が飛躍的に強化
視覚を介さずとも、直感的に全体構造を把握可能
■《スキル:観察》
対象の構造や状態を視覚的に解析し、
問題や変化を詳細に把握。発動時、視覚情報の解像度がさらに向上。
▶記録認証:遺伝情報一致
▶取得しますか?
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選択肢が、脳裏に浮かぶ。
「はい」「いいえ」――まるで、選ばせるように。
「……これは?」
誰に問うでもなく呟いた。
だが、答えは返ってこない。
──それでも、どこかで確信していた。
これは危険なものではない。
俺の中にある“何か”と、この遺跡が反応したのだ。
ならば――向き合うべきだ。
迷いのない意志で、「はい」を選んだ。
その瞬間――
頭の奥に、次々と情報が流れ込んでくる。
地形、土壌、水脈、資源分布……
目で見ていないのに、なぜか“分かる”。
まるで、この土地全体が“見える”ような感覚。
「……見える。村の構造が、資源の偏りが……
なんだこれは……?」
光が収まり、霧のような眩しさが消えていく。
坑道の冷えた空気と、濡れた石の匂いが、現実へと俺を引き戻した。
「……いまのは、何だったのですか?」
しばらく沈黙したのち、セリアがぽつりと問いかけた。
その目には警戒もあるが、
それ以上に、混乱と驚きが混じっていた。
「あれは……俺が、訊きたいくらいだ」
そう言ったものの、
俺の中に広がっている違和感が、
それだけで済ませられる話ではないと告げていた。
「まるで、“応じられた”ようだった。俺に……何かが」
「応じられた……?」
セリアが、息を呑む。
彼女の視線が、石碑と俺を交互に見つめていた。
「貴方が意図的に何かをしたとは思えません。
けれど、これは……偶然では済まされない」
その声音には、明らかな警戒と、
微かな動揺が混じっていた。
俺はしばし無言のまま石碑を見つめ――
それから、目を逸らす。
「……正直、俺にもよく分かってない。
けど……今ここで考えても仕方ないだろう」
とにかく、これ以上この空間にとどまる気にはなれなかった。
あの“声”の余韻が、まだ体の奥で響いている。
「行こう。長居は無用だ」
言葉を濁し、そっけなくそう言って背を向ける。
セリアは一瞬、何かを言いかけたようだったが――
結局それを飲み込み、小さく頷いた。
「……かしこまりました」
納得したとは思えない。
だが、今はそれ以上問い詰めてこなかった。
薄暗い坑道を引き返す足音だけが、
沈黙の中に響いた。
⸻
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このままぜひ続きもご覧ください。
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村に訪れるのは、ほんの少しの“潤い”。
見えない力を頼りに、ルノスが挑むのは──
誰も通せなかった“水の道”。
地味だけど、村を救うには欠かせない第一歩です。
そして次回から、
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まだ本人は「何これ……」状態ですが、
読者の皆様にはニヤリと見守っていただければ嬉しいです。
この先、彼が出会うもの、背負うもの。
張り巡らせたフラグが回収されていく過程も、
ぜひ一緒に楽しんでいただけたら嬉しいです。
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