異世界へ全てを持っていく少年- 快適なモンスターハントのはずが、いつの間にか勇者に取り込まれそうな感じです。この先どうなるの?

初老の妄想

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Ⅱ-105 心配性

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■カインの町 町長の屋敷

 アイリスは町長の妻として最大限の“おもてなし”をするために、最高級の肉を使ったシチューを用意したのだが、ショーイと言う男は残念ながら口にしないようだった。だが、酒の方には興味を示してくれたので、いずれにせよ目的は達成できるだろう。眠り薬で無く毒を入れることも考えたのだが、こちらの殺気が伝わる可能性を考えて眠り薬を選択した。あの男は頭が悪そうだが、“勘”は鋭そうな気がしていた。殺すつもりで進めれば感づかれるかもしれない。それに、殆ど匂いのしない毒薬も持っているが、眠り薬は完全に匂いを消している点でも眠り薬の方が適しているだろう。

 町長にも戻って来れば同じ薬を飲ませるつもりだったが、今のところは帰ってくる気配はない。ショーイが戻ってからかれこれ1時間ぐらいが立ったところで、客間の様子を見に行きノックをして声を掛けてみた。

「あの-、シチューは本当に要らないのですか?・・・」

 もう一度ノックしても返事が無かったのでドアを開けて客間の中を見ると、丸テーブルの上で突っ伏したショーイの後ろ姿が見えた。

「あら、お休みですか、寝るならベッドで・・・」

 念のために声を掛けて肩をゆすったが、ショーイは力なく寝息を立てるばかりで何の反応も無かった。直ぐに殺すことも出来たが、町長が戻って来た時に騒ぎになるのはマズイ。騒ぎになれば手下が夜中に行動することが難しくなってくるかもしれない。男の始末は町長を寝かしつけてからにすることにしようと思って客間のランプを消して部屋から出ると、玄関のドアを叩く音が聞えてきた。アイリスは町民の誰かが訪ねてきたのだと考えて、町長の妻としての顔を作り直して、少し心配そうな笑顔を見せて玄関の扉を開いて驚きの声を上げた。

「あなたは、勇者・・・様!?」
「? えーっと、ここは町長の家ですよね? ここに王都から文書を持って来た二人組が居ませんか?」

 アイリスは引きつった笑いを浮かべながら、必死で考えていた。なぜ、ここに勇者が? 早くても3日後でなければこの町にたどり着けないはずだ・・・。だが、今はどう対応するかの方が問題だった。嘘をついても、すぐにばれる可能性の方が高い。

「え、ええ。いらっしゃいます。お一人がお怪我をされて、もう一人が付き添いで・・・」
「怪我!? 怪我をしたのは男ですか女ですか?」
「女の方です」
「何処に居るんでしょうか?」

 サトルと名乗っている勇者は女が怪我をしたと聞いて血相を変えている。後ろにはマリアンヌが居るが、サトルと違って落ち着き払ってやり取りを聞いていた。

「こちらです」

 アイリスは振り返って廊下の奥へと歩き始めたが、突然襲った痛みとしびれで崩れるように地面に倒れた。倒れながら視界に入ったのは勇者の手から伸びている紐のような物だったが、見えたのも一瞬でその後は体が全く動かなくなり目の前には廊下の壁があるだけだった。

「あら、いきなりそんなことを。この人が敵だと確認しなくて良かったのですか」
「ええ、俺の事を“勇者”と呼びましたからね。会ったはずがないのに俺の事を知っている・・・、ひょっとすると違うかもしれませんが。その時は後で謝りましょう」

 俺とママさんはこの町に停められたミーシャ達の車の傍にあったネフロスの割れた石板を見て、ミーシャ達に何かがあったことを予想していた。車から見える場所にある最も大きい家が町長の家だと判断して訪ねたのだが、その時点で俺は会う奴は全員が敵だと疑っている。会ったことの無い女が俺の事を知っていると判り、背を見せた時にテーザー銃で高圧電流を流して無力化した。そもそも、この町に来たのは、心配性の俺が三日たっても戻って来ない2チームが気になって仕方なかったからだ。特にサリナとリンネのチームが心配だったから、今からサリナを探しに行くと言った俺にママさんが・・・。

「行くなら、先に南のミーシャ達のところへ行きましょう」
「どうしてですか? ミーシャとショーイなら強いから大丈夫じゃないですか?サリナは魔法が使えるけど心配だし、リンネは自分では何もできないですよ」
「あら? サリナの事はもっと信用しても良いですよ。あの│娘《こ》はやればできる子です。それに、リンネもね。むしろ、心配なのは強さを過信しているミーシャと隙だらけのショーイの方です。それに、南だったらスタートスにある転移ポイントまで行ってから車に乗れるでしょ?無事が確認できればムーアにもすぐ戻れるし、それから北に向かっても良いでしょう」

 なるほど、転移ポイントを使えば車で4時間ぐらいの行程を一気に移動できる。どちらのチームが頼りないかには異論があったが、移動時間の事はその通りだと考えて俺達はスタートスまで転移してから更に南西にある町を一つずつ回り始めた。計画では徐々に南へ移動して南西方面が配布する最後のエリアになるプランだったが、スタートスはその南西部に位置している。スタートスに一番近い町で聞くと今日の昼過ぎに文書を持って来たということだったので、予定通り配布が進んでいることが判った。配布ルート沿いにある町で確認を続けると最後になるはずだったカインの町で、ミーシャの車を見つけたのだ。

 -怪我って、一体何が?

 俺はミーシャの心配をしながら、転がっている女の足を触ってストレージに入れようとしたが、取り込むことが出来なかった。という事は、死人では無いと言う事になるが、容疑が晴れたわけでは無い。手錠を手と足にかけて、廊下に転がしたままでミーシャを探しに廊下からドアを開けて行くと、突き当りの広い部屋のベッドで眠るミーシャを見つけ、慌てて駆け寄った。

「おい! ミーシャ! おい・・・」

 細い綺麗な首筋に手を置いたが脈が無い・・・、いや、あるが驚くほど間隔があいている。鼻の前に耳を持って行くと、呼吸も間隔がおかしいが続いている。

「マリアンヌさん、ミーシャをお願いします!」

 ママさんは俺が無視したショーイの居るテーブルへと進んでいたが、小さくうなずいてベッドサイドからミーシャに向けて右手を伸ばした。

「癒しの光を!」

 鋭い声と同時にママさんの手から暖かい空気がミーシャに向かって流れていく、怪我や病気ならすぐに元通りになるはずだった。ママさんは手を降ろして、そのままミーシャの頬を触ったが、首を横に振った。

「ダメですね。手の怪我は治ったと思いますけど、これは病気等では無くて何かの術なのでしょう。ほとんど呼吸もしていませんね」
「そんな! どうすれば良いんでしょう?」
「術なら術を掛けた者を倒すか、その者から解く方法を聞き出すかしかないでしょう」
「術を掛けた者・・・。ショーイも同じなんですか?」
「いえ、この子は寝ているだけです。ですけど、何か薬を盛られたのでしょう。こちらは・・・『癒しの光を!』」

 ショーイの傍に行って治療魔法を使うと、丸テーブルでハムロールの上に突っ伏していたショーイが身じろぎして、よだれを垂らしたまま顔をを上げた。

「ん? あれ? マリアンヌ・・・さま? どうして?・・・、もう三日たったんですか?」

 ショーイは寝ぼけながらも、自分が書いた手紙でマリアンヌ達が来てくれたと勘違いしていた。

「3日、ああ、今日で文書を配り始めてから三日目だよ。それよりも、ミーシャは一体どうしたんだ? 何があった!?」

 俺は寝ぼけた剣士に詰め寄ったが、ショーイはまだ呆けた顔で俺を見上げていた。

「配り始めて3日・・・、ってことはさっきのままか。それで、なんでお前がここにいるんだ?」
「それは良いから!ミーシャは!?」
「あ、ああ。それは・・・」

 俺はショーイから経緯を聞いて、迷子の話も含めて今の状況が黒い死人達の仕掛けであることを確信した。床に置かれたままの死人の子供は頭だけになっているが、この頭がミーシャに何かをしたに違いない。ミーシャを元に戻す鍵になる可能性もあると思って、すぐにストレージの中に格納しておいた。しかし、現状ではママさんの治療も聞かないと言う事は打つ手なしだった。

「車の近くにネフロスの石板があったけど、そっちのことは知ってる?」
「ああ、あれは邪気を感じて俺が斬ったんだが。どういう仕掛けは判らなかった」
「そうか・・・」

 エルフの里で用いられた魔石とは違うようだが、悪意のあるものであることは間違いないだろう。エルフの里・・・、まさかこの町の住民も狙われているのか?

「この屋敷に居た女はおかしなところは無かったか?」
「いや、食わなかったがシチューを作ってくれた。それにそこの果実酒を・・・」
「その果実酒に薬が入っていたのでしょう。どうして、敵が居る町でお酒なんかを?」

 ママさんは自分が既に缶ビールを2本開けた事を棚に上げて、酒を飲んだショーイに冷ややかな目を向けた。

「いやぁ、俺が居ても何もできないし、一杯ぐらい飲んでもどうってことないし・・・」
「だらしのないことです。あなたも剣士として生きるつもりなら、もう少し隙の無い生き方をしないとね」
「面目ありません・・・」

 ショーイはママさんの頬が赤いのは怒っていると勘違いしたのか、椅子に座ったまま首を垂れて小さくなっている。

「じゃあ、あの女がショーイを眠らせたんだな。ミーシャの事も何か知っているはず・・・しまった!」

 俺は女から情報を引き出そうと廊下に戻ったが、そこには2つの手錠が転がっているだけで、捕らえたはずの女の姿は無かった。

「畜生! 手錠じゃダメだったのか!」

 どうやって手錠から抜け出たのか判らなかったが、貴重な手がかりが失われたことがはっきりと分った。
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