いらない子の悪役令息はラスボスになる前に消えます

日色

文字の大きさ
84 / 304
第5章

第220話 トイレに行きたい悪役令息※

しおりを挟む
※トイレの表現を含みますので、お食事中の方はご注意ください。


憂鬱だったテアの挨拶も終わり、安心した僕は搾りたてのオレンジジュースを頂いていた。

(ごくごくごく、ふぅ~冷たいジュース、おいしっ。)

緊張のせいでやたら喉が渇いて、このパーティーの間に三杯も飲んでしまった。やばい、できるだけトイレには行きたくないし、飲み物を飲むのはもぅやめとこう。

クライスの華麗な挨拶を眺めながら、僕は大変だったこの一週間のことを思い出していた。


この一週間、クライスはもう言葉通り、僕の側から片時も離れなかった。

剣術の授業はもちろん、魔法生物学の時間も、魔法薬学の時間も、魔法基礎学の時間もずうっと隣にいた。授業だけじゃない。ご飯や大浴場や寝る時…はいつものことだけど、まさかのトイレまで! 

「ちょっと、僕、トイレに行きたいんだってばぁ!! ついてこないで!」

「嫌だ。俺も行く」
「んはぁ、も、漏れるっ!! んじゃ、個室の前までねっ」

と言っても、「個室の中で不審人物が待ち構えているかもしれない」と譲らない。(ちなみにこの世界には洋式トイレしかないらしいので全部個室になっている)

言い合いをしているうちに僕の膀胱は限界を迎えようとしていた。

(やばい。この歳でおもらしなんてっ!)

「はぁ、も…ぉ、無理。うぅっ、わかった、一緒に入っていい…から、目をつぶっといてよ」

バタバタとトイレに行き、なんとか僕の名誉は守られた。

そして、そこからはもう当然のように彼も個室に入ってくるようになってしまい、トイレに行くたびに僕は死ぬほど恥ずかしい思いをする羽目に……。ジョロロロロという音を聞きながら赤面する僕、の前に目を瞑って立っている彼。(朝の排便時だけは許してもらえた。)

(なんなのこの状況……。)

そんな生活も今日で終わりだと思うと、なんだか感慨深い。あとは、誕生日プレゼントをどうするか、だけなのだけど……。


「これで一通り挨拶が済んだ。菓子を食べに行こう、休憩だ」
「やったぁ、僕、ロイヤルクッキーが食べたい!」
「こっちだ」

(考えるのは、もちょっと後にしよう。今はお菓子が食べたいの。)

お菓子コーナーには色とりどりのお菓子、その中にロイヤルクッキーもあった。サクサクした食感にフルーティーな香りのするロイヤルクッキーを一口食べれば、緊張も疲れもこの一週間のことも、全部吹き飛んだ。

「おいしっ! これすごいよ。クッキーの上に星屑のジャムが塗ってある。光ってて綺麗」
「ああ、本当だな。……キルナ、口にジャムがついてる」
「んぇ? どこ?」
「ここだ」

ポケットからハンカチを出そうとしていると、上唇に柔らかく湿ったものが触れる。彼がペロッとそれを舐め取ったのだ。

「ふぇ? 今…クライス、僕の唇舐めた?」
「ああ、甘くておいしそうで、つい……すまない」

にやっと笑うクライスは、絶対に悪いと思っていない。僕にはわかる。

んっなぁあああ、なんてこと! こんなところで何してるの!? 僕の顔は真っ赤なりんごみたいな色になっちゃってる。周囲の人たちも、ほら、赤くなっちゃって……。

と思ったら、今度はキス。ちゅっと音をさせて離れた彼は、悪戯っぽく笑った。「やっぱり甘い」とかなんとか言いながら……。

「「「嫌ぁああああ!!!!」」」

彼を目当てに集まっていたご子息ご令嬢たちの甲高い声が、お菓子コーナーに響き渡った。
しおりを挟む
感想 714

あなたにおすすめの小説

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください! ユィリと皆の動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 毎日更新?(笑)絵もあがります Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新! プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

なぜ処刑予定の悪役子息の俺が溺愛されている?

詩河とんぼ
BL
 前世では過労死し、バース性があるBLゲームに転生した俺は、なる方が珍しいバットエンド以外は全て処刑されるというの世界の悪役子息・カイラントになっていた。処刑されるのはもちろん嫌だし、知識を付けてそれなりのところで働くか婿入りできたらいいな……と思っていたのだが、攻略対象者で王太子のアルスタから猛アプローチを受ける。……どうしてこうなった?

【完結】悪役令息の従者に転職しました

  *  ゆるゆ
BL
暗殺者なのに無様な失敗で死にそうになった俺をたすけてくれたのは、BLゲームで、どのルートでも殺されて悲惨な最期を迎える悪役令息でした。 依頼人には死んだことにして、悪役令息の従者に転職しました。 皆でしあわせになるために、あるじと一緒にがんばるよ! 透夜×ロロァのお話です。 本編完結、『もふもふ獣人転生』に遊びにゆく舞踏会編、完結しました! 時々おまけを更新するかもです。 『悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?』のカイの師匠も 『悪役令息の伴侶(予定)に転生しました』のトマの師匠も、このお話の主人公、透夜です!(笑) 大陸中に、かっこいー激つよ従僕たちを輸出して、悪役令息たちをたすける透夜(笑) 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

義兄の愛が重すぎて、悪役令息できないのですが…!

ずー子
BL
戦争に負けた貴族の子息であるレイナードは、人質として異国のアドラー家に送り込まれる。彼の使命は内情を探り、敗戦国として奪われたものを取り返すこと。アドラー家が更なる力を付けないように監視を託されたレイナード。まずは好かれようと努力した結果は実を結び、新しい家族から絶大な信頼を得て、特に気難しいと言われている長男ヴィルヘルムからは「右腕」と言われるように。だけど、内心罪悪感が募る日々。正直「もう楽になりたい」と思っているのに。 「安心しろ。結婚なんかしない。僕が一番大切なのはお前だよ」 なんだか義兄の様子がおかしいのですが…? このままじゃ、スパイも悪役令息も出来そうにないよ! ファンタジーラブコメBLです。 平日毎日更新を目標に頑張ってます。応援や感想頂けると励みになります。   ※(2025/4/20)第一章終わりました。少しお休みして、プロットが出来上がりましたらまた再開しますね。お付き合い頂き、本当にありがとうございました! えちち話(セルフ二次創作)も反応ありがとうございます。少しお休みするのもあるので、このまま読めるようにしておきますね。   ※♡、ブクマ、エールありがとうございます!すごく嬉しいです! ※表紙作りました!絵は描いた。ロゴをスコシプラス様に作って頂きました。可愛すぎてにこにこです♡ 【登場人物】 攻→ヴィルヘルム 完璧超人。真面目で自信家。良き跡継ぎ、良き兄、良き息子であろうとし続ける、実直な男だが、興味関心がない相手にはどこまでも無関心で辛辣。当初は異国の使者だと思っていたレイナードを警戒していたが… 受→レイナード 和平交渉の一環で異国のアドラー家に人質として出された。主人公。立ち位置をよく理解しており、計算せずとも人から好かれる。常に兄を立てて陰で支える立場にいる。課せられた使命と現状に悩みつつある上に、義兄の様子もおかしくて、いろんな意味で気苦労の絶えない。

悪役令息(Ω)に転生した俺、破滅回避のためΩ隠してαを装ってたら、冷徹α第一王子に婚約者にされて溺愛されてます!?

水凪しおん
BL
前世の記憶を持つ俺、リオネルは、BL小説の悪役令息に転生していた。 断罪される運命を回避するため、本来希少なΩである性を隠し、出来損ないのαとして目立たず生きてきた。 しかし、突然、原作のヒーローである冷徹な第一王子アシュレイの婚約者にされてしまう。 これは破滅フラグに違いないと絶望する俺だが、アシュレイの態度は原作とどこか違っていて……?

超絶美形な悪役として生まれ変わりました

みるきぃ
BL
転生したのは人気アニメの序盤で消える超絶美形の悪役でした。

巻き戻りした悪役令息は最愛の人から離れて生きていく

藍沢真啓/庚あき
BL
11月にアンダルシュノベルズ様から出版されます! 婚約者ユリウスから断罪をされたアリステルは、ボロボロになった状態で廃教会で命を終えた……はずだった。 目覚めた時はユリウスと婚約したばかりの頃で、それならばとアリステルは自らユリウスと距離を置くことに決める。だが、なぜかユリウスはアリステルに構うようになり…… 巻き戻りから人生をやり直す悪役令息の物語。 【感想のお返事について】 感想をくださりありがとうございます。 執筆を最優先させていただきますので、お返事についてはご容赦願います。 大切に読ませていただいてます。執筆の活力になっていますので、今後も感想いただければ幸いです。 他サイトでも公開中

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。