88 / 304
第5章
第224話 王子様と悪役令息のダンス
しおりを挟む
どっくん どっくん
次はいよいよダンス。うぅ、緊張する。行きたくなかったけど、やっぱり行っておこぅ。
「は、はじまる前にトイレ行っとくね」
「あぁ」
便座に座れば普通は心休まるものだと思うのだけど、違った。このトイレの個室、なんと七海の部屋と同じくらいのサイズ(6畳くらい)だ。広い上に所々が金とか知らない宝石でできている。落ち着かないよぉ…。便座に座りながらソワソワしてしまう。
「王宮のトイレとはいえ、さすがに広過ぎだよね……」
「そうか?」
「これの6分の1で十分なのに……って、クライス!? なんで一緒に入ってきてるの?」
駄目だ僕。クライスが一緒に入ってくることに違和感を感じなくなってる。この一週間で変なことに慣れちゃって……。
「こんなんじゃ、お嫁に行けない!」
「お前は俺のところに嫁ぐと決まっている。心配無い」
僕の叫びに、冷静な彼の返事が返ってくる。このやりとり、昔したことがあるような……。
いやいや落ち着こう。クライスがトイレの中にいようがいまいが今はどっちでもいい。それよりダンスだ。
個室から出て手を洗い。正面の鏡で髪を整えた。ああ、ひどい顔色をしている。
パクッ。
手のひらに『人』の字を書いてもぐもぐと食べていると
「何をしてるんだ?」
彼が不思議そうに僕の手を覗き込んできた。何か食べ物を持っていると思ったみたい。
「んと、緊張しないように、おまじないしてるの」
「ふーん、おまじないか。いいな、それ。俺もやりたい。どうやってやるんだ?」
「えっとね、手の平に人って書いて食べるんだよ」
僕はクライスの手のひらに指で『人』と書いてあげた。漢字を知らない彼はこれがヒト?と首を捻っている。
「はい、これ食べて」
おそるおそるそれをぱくっと食べるクライスはなんだか可愛い。そしてゴクンと飲み込む仕草はやけにセクシーだった。
トイレから出て広間に戻ると音楽を奏でる人たちが楽器の準備をしていて、はじまるぞ、という張り詰めた空気がこちらにも伝わってくる。握ってくれる彼の手を頼りに広間の中央までいき、そこで手に力を入れ過ぎてしまっていたことに気づいてとっさに離した。
「ごめん。爪の跡ついちゃった……」
痛かったよね。ごめんごめんと手を摩ると彼はフッと笑う。全然痛くないから、と手を繋ぎ直してくれた。
「大丈夫だ。ルゥやセントラと練習したんだろ? それに、相手は俺だ。ダンスは得意なんだ。どんなことがあってもフォローするから。とにかく楽しめ」
「ん、ありがと。あのさ、いつものおまじない…してほしい」
「あぁ」
ちゅっ
おでこにキスしてもらうと、それが合図のように曲が始まった。
おまじないの効果かクライスの天才的なリードのおかげか、嘘みたいにうまく踊れた。一曲終わり、もう一曲もう一曲と続けて踊って、足はくたくた、体力的にはもう限界だ。
(でもすごく楽しい! なんて素敵な時間なんだろ。この時間が永遠に続けばいいのに。)
こんなに踊ったのに汗一つかいていないハイパーイケメンを見上げながら、そんな風に思った。
だけど
三曲目が終わり、そろそろ休もうかとなった時、僕は見てしまった。
ーーテアが泣いてる。
こちらを見ながら静かに涙を流す彼の姿に気付き、胸が締め付けられるような痛みを感じた。
(そうか、クライスと踊りたいのは僕だけじゃないんだ。)
挨拶中も彼のことをキラキラした目で見つめていた子はいっぱいいた。みんな今日のダンスを楽しみにしていたに違いない。それなのに僕ったら、調子に乗って三曲も……。
(危なかった。また同じ失敗をするところだった。)
クライスをキルナのところに縛り付けてはいけない。
ーーお父さんとお母さんを七海のところに縛り付けてはいけなかったように。
「あのさ、クライス。まだまだ元気なら」
「もっと踊るか? だがもう息が弾んでいるぞ。大丈夫なのか?」
「違うの。僕はもういいから他の子とも踊ってきて」
「他の子? キルナ、今日はお前以外とは踊らないと予め伝えてある」
「そう…なの? でも……」
彼はまだごちゃごちゃ考えている僕をさっさと引っ張っていき、バルコニーへと連れ出した。
次はいよいよダンス。うぅ、緊張する。行きたくなかったけど、やっぱり行っておこぅ。
「は、はじまる前にトイレ行っとくね」
「あぁ」
便座に座れば普通は心休まるものだと思うのだけど、違った。このトイレの個室、なんと七海の部屋と同じくらいのサイズ(6畳くらい)だ。広い上に所々が金とか知らない宝石でできている。落ち着かないよぉ…。便座に座りながらソワソワしてしまう。
「王宮のトイレとはいえ、さすがに広過ぎだよね……」
「そうか?」
「これの6分の1で十分なのに……って、クライス!? なんで一緒に入ってきてるの?」
駄目だ僕。クライスが一緒に入ってくることに違和感を感じなくなってる。この一週間で変なことに慣れちゃって……。
「こんなんじゃ、お嫁に行けない!」
「お前は俺のところに嫁ぐと決まっている。心配無い」
僕の叫びに、冷静な彼の返事が返ってくる。このやりとり、昔したことがあるような……。
いやいや落ち着こう。クライスがトイレの中にいようがいまいが今はどっちでもいい。それよりダンスだ。
個室から出て手を洗い。正面の鏡で髪を整えた。ああ、ひどい顔色をしている。
パクッ。
手のひらに『人』の字を書いてもぐもぐと食べていると
「何をしてるんだ?」
彼が不思議そうに僕の手を覗き込んできた。何か食べ物を持っていると思ったみたい。
「んと、緊張しないように、おまじないしてるの」
「ふーん、おまじないか。いいな、それ。俺もやりたい。どうやってやるんだ?」
「えっとね、手の平に人って書いて食べるんだよ」
僕はクライスの手のひらに指で『人』と書いてあげた。漢字を知らない彼はこれがヒト?と首を捻っている。
「はい、これ食べて」
おそるおそるそれをぱくっと食べるクライスはなんだか可愛い。そしてゴクンと飲み込む仕草はやけにセクシーだった。
トイレから出て広間に戻ると音楽を奏でる人たちが楽器の準備をしていて、はじまるぞ、という張り詰めた空気がこちらにも伝わってくる。握ってくれる彼の手を頼りに広間の中央までいき、そこで手に力を入れ過ぎてしまっていたことに気づいてとっさに離した。
「ごめん。爪の跡ついちゃった……」
痛かったよね。ごめんごめんと手を摩ると彼はフッと笑う。全然痛くないから、と手を繋ぎ直してくれた。
「大丈夫だ。ルゥやセントラと練習したんだろ? それに、相手は俺だ。ダンスは得意なんだ。どんなことがあってもフォローするから。とにかく楽しめ」
「ん、ありがと。あのさ、いつものおまじない…してほしい」
「あぁ」
ちゅっ
おでこにキスしてもらうと、それが合図のように曲が始まった。
おまじないの効果かクライスの天才的なリードのおかげか、嘘みたいにうまく踊れた。一曲終わり、もう一曲もう一曲と続けて踊って、足はくたくた、体力的にはもう限界だ。
(でもすごく楽しい! なんて素敵な時間なんだろ。この時間が永遠に続けばいいのに。)
こんなに踊ったのに汗一つかいていないハイパーイケメンを見上げながら、そんな風に思った。
だけど
三曲目が終わり、そろそろ休もうかとなった時、僕は見てしまった。
ーーテアが泣いてる。
こちらを見ながら静かに涙を流す彼の姿に気付き、胸が締め付けられるような痛みを感じた。
(そうか、クライスと踊りたいのは僕だけじゃないんだ。)
挨拶中も彼のことをキラキラした目で見つめていた子はいっぱいいた。みんな今日のダンスを楽しみにしていたに違いない。それなのに僕ったら、調子に乗って三曲も……。
(危なかった。また同じ失敗をするところだった。)
クライスをキルナのところに縛り付けてはいけない。
ーーお父さんとお母さんを七海のところに縛り付けてはいけなかったように。
「あのさ、クライス。まだまだ元気なら」
「もっと踊るか? だがもう息が弾んでいるぞ。大丈夫なのか?」
「違うの。僕はもういいから他の子とも踊ってきて」
「他の子? キルナ、今日はお前以外とは踊らないと予め伝えてある」
「そう…なの? でも……」
彼はまだごちゃごちゃ考えている僕をさっさと引っ張っていき、バルコニーへと連れ出した。
435
あなたにおすすめの小説
悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?
* ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。
悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう!
せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー?
ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!
ユィリと皆の動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 毎日更新?(笑)絵もあがります
Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新!
プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
なぜ処刑予定の悪役子息の俺が溺愛されている?
詩河とんぼ
BL
前世では過労死し、バース性があるBLゲームに転生した俺は、なる方が珍しいバットエンド以外は全て処刑されるというの世界の悪役子息・カイラントになっていた。処刑されるのはもちろん嫌だし、知識を付けてそれなりのところで働くか婿入りできたらいいな……と思っていたのだが、攻略対象者で王太子のアルスタから猛アプローチを受ける。……どうしてこうなった?
【完結】悪役令息の従者に転職しました
* ゆるゆ
BL
暗殺者なのに無様な失敗で死にそうになった俺をたすけてくれたのは、BLゲームで、どのルートでも殺されて悲惨な最期を迎える悪役令息でした。
依頼人には死んだことにして、悪役令息の従者に転職しました。
皆でしあわせになるために、あるじと一緒にがんばるよ!
透夜×ロロァのお話です。
本編完結、『もふもふ獣人転生』に遊びにゆく舞踏会編、完結しました!
時々おまけを更新するかもです。
『悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?』のカイの師匠も
『悪役令息の伴侶(予定)に転生しました』のトマの師匠も、このお話の主人公、透夜です!(笑)
大陸中に、かっこいー激つよ従僕たちを輸出して、悪役令息たちをたすける透夜(笑)
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
義兄の愛が重すぎて、悪役令息できないのですが…!
ずー子
BL
戦争に負けた貴族の子息であるレイナードは、人質として異国のアドラー家に送り込まれる。彼の使命は内情を探り、敗戦国として奪われたものを取り返すこと。アドラー家が更なる力を付けないように監視を託されたレイナード。まずは好かれようと努力した結果は実を結び、新しい家族から絶大な信頼を得て、特に気難しいと言われている長男ヴィルヘルムからは「右腕」と言われるように。だけど、内心罪悪感が募る日々。正直「もう楽になりたい」と思っているのに。
「安心しろ。結婚なんかしない。僕が一番大切なのはお前だよ」
なんだか義兄の様子がおかしいのですが…?
このままじゃ、スパイも悪役令息も出来そうにないよ!
ファンタジーラブコメBLです。
平日毎日更新を目標に頑張ってます。応援や感想頂けると励みになります。
※(2025/4/20)第一章終わりました。少しお休みして、プロットが出来上がりましたらまた再開しますね。お付き合い頂き、本当にありがとうございました!
えちち話(セルフ二次創作)も反応ありがとうございます。少しお休みするのもあるので、このまま読めるようにしておきますね。
※♡、ブクマ、エールありがとうございます!すごく嬉しいです!
※表紙作りました!絵は描いた。ロゴをスコシプラス様に作って頂きました。可愛すぎてにこにこです♡
【登場人物】
攻→ヴィルヘルム
完璧超人。真面目で自信家。良き跡継ぎ、良き兄、良き息子であろうとし続ける、実直な男だが、興味関心がない相手にはどこまでも無関心で辛辣。当初は異国の使者だと思っていたレイナードを警戒していたが…
受→レイナード
和平交渉の一環で異国のアドラー家に人質として出された。主人公。立ち位置をよく理解しており、計算せずとも人から好かれる。常に兄を立てて陰で支える立場にいる。課せられた使命と現状に悩みつつある上に、義兄の様子もおかしくて、いろんな意味で気苦労の絶えない。
悪役令息(Ω)に転生した俺、破滅回避のためΩ隠してαを装ってたら、冷徹α第一王子に婚約者にされて溺愛されてます!?
水凪しおん
BL
前世の記憶を持つ俺、リオネルは、BL小説の悪役令息に転生していた。
断罪される運命を回避するため、本来希少なΩである性を隠し、出来損ないのαとして目立たず生きてきた。
しかし、突然、原作のヒーローである冷徹な第一王子アシュレイの婚約者にされてしまう。
これは破滅フラグに違いないと絶望する俺だが、アシュレイの態度は原作とどこか違っていて……?
巻き戻りした悪役令息は最愛の人から離れて生きていく
藍沢真啓/庚あき
BL
11月にアンダルシュノベルズ様から出版されます!
婚約者ユリウスから断罪をされたアリステルは、ボロボロになった状態で廃教会で命を終えた……はずだった。
目覚めた時はユリウスと婚約したばかりの頃で、それならばとアリステルは自らユリウスと距離を置くことに決める。だが、なぜかユリウスはアリステルに構うようになり……
巻き戻りから人生をやり直す悪役令息の物語。
【感想のお返事について】
感想をくださりありがとうございます。
執筆を最優先させていただきますので、お返事についてはご容赦願います。
大切に読ませていただいてます。執筆の活力になっていますので、今後も感想いただければ幸いです。
他サイトでも公開中
愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない
了承
BL
卒業パーティー。
皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。
青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。
皇子が目を向けた、その瞬間——。
「この瞬間だと思った。」
すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。
IFストーリーあり
誤字あれば報告お願いします!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。